表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第三章 闘球祭(とうきゅうさい)
22/54

●離間の計

「確かに司はボクを軽んじる時があるけど、だからと言って司を裏切ることはない。まして、君たち側につくつもりはないよ」

 放課後の体育館。

 俺たちは部活中の繭に接触した。

 繭は生徒会とバレー部を兼任している。


「如月副会長はこのままでいいんですか?」

「どういう意味?」

「狡兎死して走狗烹らる(こうとししてそうくにらる)という諺をご存じですか?」

「韓信だろ。王佐の才と言い、翌梨は中国史が好きなの?」

「はい。その様子だと、副会長もお好きなんですか?」


「生徒会以外では副会長じゃなくていいよ。そうだな~、史記や三国志、水滸伝なんかも好きだね。日本史だと戦国時代や幕末なんか好きだよ」

 小学校の頃、一時期、俺と繭の間で歴史ブームが起こった。

 特に興味を持ったのは日本史と中国史で、二人でよく図書館に入り浸った。


「それなら、意味をご存じですよね。必要な時は重宝されますが、用がなくなれば、あっさり捨てられる例えです」

「司がボクを捨てると?」


「将来的にそうなってもおかしくありません。捨てられるならまだしも、先輩の能力を恐れて、無実の罪を着せる可能性だってあります。からの箱が贈られてからでは遅いです」

 リサは知識が豊富で、どんな話題の会話でもできた。


「如月先輩と神居先輩は刎頚の友なのですか? わたしからすれば、先輩はいいように利用されているだけに思えます」

「…………」

 沈黙する繭。どうやら思い当たる節があるようだ。


「いちいち腹を立ててたら、司の下では働けないよ。もう練習に戻っていいかな?」

「私は如月先輩こそ、評価されるべき人物だと思います」

 繭の足が止まる。


「どんなに優れたトスをあげたとしても、それをスパイクできる選手がいないとバレーでは勝てません。同じように、どんなに優れた政策を取ろうとも、それをサポートし、補佐できる人間がいないと無意味です」

「ボクにどうしろと?」


「もっと先輩が輝ける場所に行くべきです!」

「それが君たちの元だと?」

「それも一つの答えです。先輩ならどこでも輝けますよ。それだけ、優秀な人材です」


「褒めても何も出ないよ」

「心に留めておいて下さい。神居先輩の下では、如月先輩は常に陰で目立つことができません。この先ずっと影のままでいいんですか?」

「……悪いけど、練習に戻るから」


 その後、俺たちはしばらく体育館の隅でバレー部の練習を見学した。

「是非とも、バレー部の練習着にスパッツを導入したいな!」

 あのハーフパンツがスパッツならどれほど絶景だろうか。


「試合用のユニフォームは、さぞかし素晴らしいだろう」

「先輩、セクハラで告発されますよ」

「美しいものを素直に美しいと言ったら犯罪なんて、世も末だ。実に世知辛い世の中になったものだな」


「先輩から見て、如月先輩はどうですか?」

「素晴らしい。翌梨と日向寺とは違う魅力があるよ。あのムッチリ感はたまらない。美しくも雄々しく舞い踊るその姿は、魔性の獣だよ」

 こんなにも俺好みに育ってくれるなんて、幼馴染として嬉しい成長である。


「あえて何も言いませんが、男性なら、普通はあの大きな胸に目がいかないんですか?」

 ジャンプするたびに、大きな胸が躍動する。

 リサもそれなりの胸をお持ちだ。

 そんな女のリサでも、繭の胸には目がいくようだ。


「バスト党の議員は多い。政権的には与党だよ」

「遺伝子レベルで考えれば、胸への関心は哺乳類の本能に関わるから当然ですね」

 そしてニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「それで、先輩は?」

「強いて入るならヒップ党かな。厳密にはスパッツ党だけどな。日向寺は?」

 聞こえていないようだ。

 岬は寂しそうに、自分の胸を撫でている。


「……本題に戻りますが、先ほどの会話の手ごたえはどうでしょう?」

「いい具合に煽れたと思う。その証拠に見てみろよ」

 俺は繭の方へ視線を向ける。


「荒れてますね」

「少し前までは、もっと丁寧にコーナーを狙ってた。だけど、今はただ力任せに打ってる。まるでストレスを発散させるかのようにな。幼馴染の俺が言うんだから間違いない!」

「そのようですね」


「そう仕向けたのは翌梨だろ」

「フフフッ、面白くなってきましたね。そろそろ戻りましょうか」

 まだ岬は、ぺったんこの胸を擦っている。

 体育館を後にして、部室へ戻ってきた。


「この上なく上出来な滑り出しです」

 リサが岬からコーヒーカップを受け取る。

 あれから俺たちは自分のコップを持参するようになった。


 岬にお菓子作りの趣味があるとわかると、放課後は優雅なティータイムを過ごしている。

 今日はクッキーを焼いてきてくれた。これがまた、うまいのである。

「うまっ! なんだこれ! お店で売れるレベルじゃないか!」

「せ、先輩は何か好きなお菓子ありますかぁ?」


「基本的には何でも好きだよ」

「そ、そうですかぁ」

 あの密着の件以来、岬と少し距離感がわからなくなってきた。


「話続けてもいいですか?」

 そして、リサが少しムスッとした顔で睨み付けてくる。

「如月先輩は褒められることに飢えている。そこをくすぐりつつ、猜疑心を目覚めさせて攻め込む予定です」


 毎度おなじみ砂糖コーヒーを錬成する。

 本日はいつもより多めな気がした。

「ほほう……」

「大事なのは如月先輩本人に気づかせること。今まで見ぬ振りをしてきたものが、心の中で大きくなりつつある」


「風邪だと自覚した瞬間、急に怠くなるような感じか?」

「そうそう、そんな感じです! 自覚させることが大切なんです。まずは疑いの種をまく。後はその芽に、水をあげて育てるだけ」

「どうしても、繭が司を裏切るビジョンが想像できない」


「長期的ならまだしも、短期間では厳しいでしょうね」

「ええっ! ど、どうするつもりだ?」

 予想外の返答で、驚いてしまう。


「大丈夫ですよ。短期決戦なら、それなりの攻め方がある。大切なのは臨機応変に柔軟な対応を取ることです」

 リサはいつも通り、自信満々である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ