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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第二章 生徒会を潰そう!
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●知名度を上げよう

 基本的にリサは自分の感情で相手を判断しない。

 常に俯瞰で、冷静な目で相手を見ることができる。

「次に如月副会長。彼女はまさに王佐の才の持ち主。会長が自由に動けるのは、すべて彼女のおかげ。会長の懐刀ですね」


 繭は昔から相手を支えるのが上手だった。

「あの二人が強固な絆で結ばれているなら、わたしでも勝つことは困難でしょう」

「その言い回しからすると、一枚岩ではないと?」


「ええ、その通りです。前回軽く探っただけでも、二人の亀裂はわかりました。今は表面上に出ていませんが、少し揺さぶればすぐにほころびは出ます」

「うまく運営できてるように見えたけどな」


「男と違って、女は面倒な生き物なんですよ」

 リサがクスクスと笑う。

「二人の仲を裂くことができれば、勝ったも同然です」


「俺は翌梨より二人のことを良く知っている。だから言うけど、あの二人はそう簡単に仲違いはしないぞ」

「簡単に仲直りするのも、簡単に仲違いするのも女です」

 自信過剰な気もするが、リサの言葉には人を納得させる力があった。


 リサの声を聴いていると、本当にできるのではないかと思えてくる。

 正式な部室となった歴史資料室に戻ってきた。

「う~ん! この古ぼけた資料室も部室となると、愛着が沸くな!」

 住めば都。大きく体を伸ばし、深呼吸をする。


「そんじゃ、早速……バッチコーイ!」

「急に四つん這いになってどうしたんですか?」

「躾が必要なんだろ! どうぞ、お座りください!」

「それでは遠慮なく」

 リサが俺の背中に座った。


「ヒャッフゥ! スカートとスパッツ越しに翌梨の体温が……太もも、お尻の感触が伝わってくる! やべぇ、心の声が駄々漏れだ!」

「なかなか座り心地のいい椅子ですね。不思議なのは椅子がしゃべることくらいですか」

 両足を宙に浮かべて、全体重をかけてきた。


「やばい! 密着力が上がったよ! 何だったら、もっと押し付けてもいいし、動いてもいいよ!」

「本当に先輩はブレませね。スパッツを履いている人なら、誰でも座らせてくれるんじゃないですか?」


「もちろん、ウェルカムだよ! 日向寺もどうだい? 大和チェアは二十四時間営業しております!」

「ご遠慮しますぅ~」

 断られてしまったが、今はこの体温を楽しもう。


「さて、晴れて欲部會も学校公認の同好会に昇格した訳ですが、満足はしていませんよね?」

大臀筋だいでんきん、ハムストリングスは堪能した。次はスパッツ膝枕で、大腿四頭筋だいたいしとうきんの魅力を味わいたい」


「当面の目標は、約二ヶ月後の七月に行われる選挙での勝利。、そのためには何が必要?」

「知名度を上げることかなぁ?」

「そう! わたしと言う存在を全校生徒に知らしめる必要がある」

「作戦はあるのぉ?」


 俺を無視して、リサと岬が話を進める。

「岬はこの高校の年間行事を知っている?」

「もちろん! イベント大好きぃ!」

「六月にあるのは?」


「球技大会に文化祭!」

「その通り!」

 銚吠高校は六月の上旬に球技大会があり、下旬に文化祭がある。

 そのため、五月の下旬からいろいろな準備が行われる。


「この二大イベントを逃す手はない! 強烈なインパクトで、わたしをアピールする」

 短期間で知名度を上げるには、もってこいのイベントである。

「二つのイベントが終了したら、すぐに七月の役員選挙がある。強烈なインパクトは熱しやすい反面、すぐに冷めやすい。だけどこの短期間なら、その問題も解消される」


 問題はそのインパクトを与える方法だが、これもリサが既に考えているようだ。

「我に秘策あり!」

 自信たっぷりな顔をしている。


「まずは球技大会。優勝して目立つことはもちろん、感動を与えなくてはならない。エンターテイメンター翌梨リサの腕の見せ所ね」

 一体何を考えているのだろう。


「次に文化祭。まだ、具体案はないけど、最大級のパフォーマンスで球技大会に続くインパクトを与える! 息もつかせぬ、怒涛の猛ラッシュ!」

 リサの言う通り、二つのイベントでどれだけアピールできるかが、勝負の分かれ目だろう。


「球技大会は別として、文化祭はもっと部員が必要。それも強力な助っ人がね」

「誰かいるのぉ?」

「如月繭副会長!」

「それは無理だろう」


 思わず反論してしまう。

 それほどに現実味に欠ける提案だ。

「司の懐刀で右腕って言ったのは、翌梨だぜ。奴らは俺たちと敵対関係なんだから、協力するわけがない」

「将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ! それなりの勝算はあります」


「一見、二人はうまくいっているように見えるけど、完璧な一枚岩ではない。付け入る隙は充分あります。どんな人にだって、必ずアキレス腱がある」

「どうするつもりだ?」


「違う二人だからこそ、お互いがお互いの短所を長所で補う関係ができる。だから、今度はお互いの長所を短所で潰し合わせればいい」

「……もっと具体的に説明してくれ」

「私も全然理解できないよぉ~」


「神居会長はカリスマ性抜群のワンマン社長。だけど、能力を発揮するには、サポートする補助役が絶対に必要。それは如月副会長しかできない。だけど、神居会長は如月副会長のことを軽んじて、感謝してない節がある」

 言われてみれば、思い当たる節がない訳でもない。


「如月副会長も最初はそれで良かったかもしれない。だけど、自信がつくにつれて、認められたい欲求が出始めた。そのため、最近では不満を募らせている」

 わずかな時間で、二人の性格を把握したリサには驚かざるを得ない。


「神居会長も、まさか如月副会長に裏切られるとは思わないでしょう」

「離間の計……漁夫の利かよ!」

「釣った魚に餌をやらないと、飼い犬に手を噛まれるような思わぬしっぺ返しがくることを後学のために学ぶといい」


 一瞬……ほんの一瞬だが、リサの表情が変わった。

 毎回、リサの凄さには驚かされてばかりだが、俺はこの時、得体のしれない不気味な感覚を覚えた。


「裏切りが裏切りを呼ぶ、戦乱の時代。覇権を争う群雄割拠。題して『国盗り学園物語』!」

「相手が女帝なら、覇王翌梨リサの誕生だな」

 それを悟られないように、いつものようにおどけたが、逆効果であった。


「どうしたんですか、先輩?」

 共感覚で、俺の発言に違和感を覚えたようだ。

「何でもない」

 それを見透かされているような気がして、目を逸れしてしまった。


「フフフッ、先輩もわたしを裏切ってみます? 裏切られる展開もそれはそれで面白いと思います。三つ巴の戦いみたいな感じで燃えますよね。やるなら、わたしがビックリするくらいの展開を希望します」

 リサは怒る素振りを見せずにいつものように楽しげな表情を浮かべている。


「疑心暗鬼の連鎖……人狼ゲームみたいで楽しい!」

 むしろ、みんなの関係がグチャグチャになることを望んでいるのではないだろうか。

「信頼し合っている二人の仲を裂くのは、ひどいと思いますか?」


「それなりにね」

「目的のためなら手段を選ばない暴君だって言ったのは先輩ですよ」

「気にしてた?」


「わたしにとっては褒め言葉です。私は面白いことが大好き! だから、二人ともわたしをもっともっと楽しませて!」

 リサは目をキラキラと輝かせる。

「これから忙しくなりますよ!」


 このままリサについて行っていいのか、心配になる。

 しかし、俺はリサがどこまで行けるのか見届けたい。

 過激な発言や奇抜な発想、周りを驚かせる行動力に異常な欲への執着心。

 俺を含め、周りを惹きつける不思議なカリスマ性をリサは持っていた。


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