●ダイダイ
大和大成。大きいが二つ重なるからダイダイ。
一年の頃はその呼び名で呼んでくれた。
「反抗期かよ。お父さんに優しくしてる?」
「パ……父さんのことは関係ないだろ!」
ムキになる司をイジるのも懐かしい。
「大和大成……あたしはお前を許さない!」
「そんな親の仇を見るような目で見るなよ。パパが悲しむぜ」
「フンッ!」
とことん司から嫌われているようだ。
「正直言うと、あたしはお前を尊敬していた。だけど、馬鹿な校則を創ろうとして、リコールされたお前に失望した」
「だから裏切り者か。でも、パパ悲しいぞ」
「だ、誰がパパだ!」
「大丈夫? スパッツ履く?」
「……誰が履くか!」
「俺のことはいくら嫌いになってもいいけど、パパとスパッツのことは嫌いになるなよ!」
「知るかそんなもん! それとパパは大好きだっ!」
結局、司は何で俺を残したのかわからない。
「その様子なら、大丈夫だろう。あんまり根詰過ぎんなよ」
「お前以上に立派な生徒会長をやってるよ!」
「それならよかった。繭もいるし、大丈夫だろう」
「だから大丈夫だって言ってんだろ!」
「へいへい。最後に前生徒会長からありがたい言葉を贈ろう」
「そんなものいらない」
「せっかく司は可愛いんだから、怒った顔よりも笑顔の方が似合うぜ」
「う、うっさい! さ、さっさと帰れ!」
ペンケースやらノートやら飛んでくるので、急いで避難する。
何、この理不尽さ。
本当になんで残されたのか訳がわからない。
生徒会室からの帰り道。
無事、申請も通り、俺たちは浮かれていた。
「セーラー服を着ていると、どこからどう見ても女の子だな」
腕や足の無駄毛処理も完璧で、スカートから見える生足は力強くて最高だ!
「胸はどうなっているの?」
リサが遠慮なく、岬の全くない胸を揉む。
「あっ……ん……」
「アハッ、可愛い声。ふ~ん、下着は女物なんだね」
「はぅぅっ!」
リサが岬の胸を触る。
岬が何とも言えない声を上げる。
リサが岬の胸を揉むの繰り返し。
「あ~……そこまでだ……」
見ている俺からすると、何とも複雑な気分であるので、この辺で止める。
「止めないで下さいよ」
再び岬の胸を揉む。
「いやいや、止めなさい」
「いいじゃないですか」
「ダメに決まってるだろ! 見ているこっちの気持ちも考えろ!」
「先輩も一緒に触ります?」
「……いいのか?」
「二人とも……ダメ……」
岬の一言でようやくリサの手が止まった。
歌舞伎の女形とでも言おうか。
息を乱す岬の姿は、女性にはない妙な色気があった。
「それにしても、よく鬼瓦先生が顧問引き受けてくれたな」
「人はその人が欲しがっているものを与えれば、こちらに心を開きます。特に日本人は恩を受けっぱなしにしておくことを嫌う。常にイーブンの状態でいたいんです」
「賄賂でも渡したのか?」
「そんなところです。こちらが何かを与えれば、それに対する何かを返したい。逆にわたしたちが何か貰ったら、相手はわたしたちからのお返しを期待する」
言われてみれば、その通りかもしれない。
「恩や義理人情は日本人の美徳である一方で、弱点でもあります。そこをうまく利用すれば、相手を簡単にコントロールすることができる。じゃじゃ馬ほど扱いやすい物です」
「聞くと簡単そうだけどぉ、すっごく怖いねぇ」
「そう、怖いの。だからこそ、正しい使い方をしなくてはいけない」
悪い例をいつも見せてもらっている気がするが……
「結局、何でもそう。そのモノ自体ではなく、そのモノを使う人間次第で良くも悪くもなる」
「あ~、矛盾した諺とかよくあるもんな」
「世の中は矛盾に満ち溢れている。だからこそ面白い!」
「リサちゃんはポジティブだねぇ」
「他人に遠慮して、幸せを逃すなんてバカよ。他人からの評価なんて、二転三転するもの。だったら、信じるのは他人ではなく、自分でしょ?」
「話は変わるんだけどさ……」
「何でしょう?」
「前回、わざわざ生徒会に宣戦布告する必要があったのか?」
前から疑問に感じていたことを質問してみた。
「ええぇ~、リサちゃん、そんなことしたのぉ? すごいねぇ~」
岬が驚きながら、感心している。
「当然ですよ。この前の訪問には二つの目的がありました」
「目的?」
リサが指を一本あげる。
「一つ目はわたしの存在を教えた。これは正々堂々勝負を仕掛けたことを意味します。同時に、今後はわたしの行動に目を配るでしょう」
「睨まれるだけで、いろいろと不都合なんじゃないか?」
「敵対する相手が存在するだけで、人はストレスを感じるものです。少しでも神居会長のパフォーマンスを下げることができれば十分です」
リサが二本目の指をあげた。
「二つ目は神居会長、如月副会長の人となりを知りたかった」
「あんな短時間で知ることなんて……」
「フフンッ」
リサの笑みを見て思い出した。
そうだ、こいつは相手の言葉から、その真偽や隠された意味を理解できるのだ。
「わざと怒らせたのもそのためか」
「気づいていたんですか?」
この前のリサは明らかに司に喧嘩を売っていた。
「その人の本当の姿を知りたければ、怒らせればいい。怒りの感情は、人の本性を映し出す」
「それで何かわかった?」
「ええ、前回と今回で神居会長が想像以上に素晴らしい方だと実感しました」
「意外だな」
「素直な感想ですよ。これがもし、成金タイプの小物や承認欲求の塊なら楽だったんですけどね……」
リサが難しい顔をする。
「これは少々骨が折れそうです。さすがは女帝と呼ばれるだけのことはあります」




