9.新たな事実
『うさぎとかネズミである事はあまり関係がないんだよ。魔獣としてのレベルが上がれば人型になれるからね』
…レベルが上がれば人型になれる?
この世界に来て、初めてワクワクした。生きるのに必死で余裕がなかったのもあるだろう。
レベルはまだ1だし。でも、いつか人型になれるなら…ナツキに会うことも出来るだろう。
この姿では認識して貰えないだろうし。どこまでレベルが上がればいいんだ?今はまだレベル1だし。何が上がるとレベルが上がるんだ?
『凄え!人型になれるのか?でもどんだけレベルあげなきゃだ?』
ルリハが同じ疑問を口にする。
『そうだね…人換算でレベル80かな』
ピキッと俺とルリハが固まった。後79もか?いやいや、無理だろ…期待した分、落胆が大きい。
ヒゲもしおしおだ。ルリハもヒゲがしょげてる。だよな…まさかの獣に転生でさ、魔獣になって人からより遠かった。そしてさらに人型になれると期待したところでだ。
『あ、あれ?こんなに落ち込まなくても。魔獣を倒せば勝手にレベルは上がるよ!』
アベルが必死に言う。
こちとら最弱層だぞ?どうやって自分らより遥かにデカい奴らを倒すんだよ?無理ゲーだろ。
はぁ、やっぱり俺はウサギとしてしか生きられないのか。思わず目の前にいたルリハを前脚で抱きしめた。ルリハも俺の胸毛に顔を埋める。
人ならこんなことしたらキモいだけだが、毛皮どうしだと許される。
ルリハの毛皮に癒されて…ほんの少しだけ浮上した。
アベルはさらに慌てて
『待って、なんで諦めた風なの?だって君たちは魔法が使えるだろう?上手く使えば遠くからでも狩れるよ!ほら、やり方とか色々と教えるから!すぐだよ!!』
ルリハと向かい合ってん?という顔をする。少なくとも今までは逃げ一択だった。イタチは狩ったけどな、レベルは上がらなかった。
『レベルが上がりやすいのは大型の魔獣だよ!小さな動物くらいじゃ意味がない』
もっとも近寄らなかった部類じゃないか…無理だろ、大型の魔獣なんて。
『大丈夫だよ!だって君の魔法はとても、なんていうかな…斬新な使い方で!それを全力で魔獣にぶつけたらいいんだよ』
ルリハは
『生き物を殺すのが、難しいよな。俺たちは平和な世界で育って来たから』
アベルはまた驚いて、そうか…と呟いた。そのまま考え込んで、静かな時間が過ぎた。
顔を上げると
『君たち次第だよ。人型になることが優先か、気持ちのままに魔獣として一生を過ごすか。レベルを上げるためには魔獣を殺さないといけない。何を選択するのか、君たち次第だ』
言葉を切って俺たちを見つめる。
そして
『レベルを上げたいなら、協力するよ!』
真剣にそう提案してくれた。俺は考える。魔獣といえど、生き物を殺すことにはもちろん抵抗がある。しかし、人型になるイコールナツキと再会できると考えるのなら、俺が取る選択肢は一つだ。
『教えてくれ、俺はレベルを上げたい』
まだ考えているルリハを見て
『ルリハは無理しなくていいぞ?俺はナツキと会いたいんだ。お前は俺と会えた。それでいいなら無理する必要はない。お前のことは俺が守る』
ルリハはその潤んだようなまん丸な黒目で俺を見ると
『俺もレベルを上げる!俺はハルカの側にいたいんだ。人型になれた方がいいだろ?だから、俺も…』
ルリハ、お前ってそういうヤツだよな。俺が1人だと不安だろうからって、高校も大学も猛勉強して同じ所に受かった。ハルカは寂しがりだからな!俺がいないと、なんて言いながら。
きっとルリハも俺も1人では上手くやれないんだろう。それが分かってるから、ルリハは俺のそばにいてくれる。本当にいい友達だ。
『俺のせいでお前まで巻き込んで…』
ルリハは真っ直ぐに俺を見ると
『ハルカ、そういう時はなんて言うんだ?』
あぁ、そうだな…いつもお前はそう言ってたな。
『ハルカ、こう言う時はな、謝るんじゃなくてありがとうって言うんだぞ?分かったな、ほら言ってみろ』
ネズミになってもルリハは変わらない。
『ありがとう、ルリハ。俺と一緒にレベルを上げて人型を目指してくれ』
『もちろんだ!1人より2人の方が早く上がるだろうし』
胸を張ってヒゲをそよがせて、ネズミのルリハは小さいのに頼もしい。
『そうだよ!1人より2人、2人より3人だよ!』
アベルが笑顔で言う。
……3人目は誰だ、まさか?
『うん、僕も協力するよ!腕がなるね!』
アベル、なのか…?
『もちろん、僕だよ!ちゃんと大人サイズの人型になれるからさ』
いや、そう言うことじゃないんだが。
ルリハを顔を見合わせる。
『僕がいた方が色々と出来ることが増えるよ?』
なぜだか懇願するような、必死な顔で言うアベル。ルリハを頷きあって
『それなら頼む!』
『任されたよ』
嬉しそうなアベル。どんだけボッチだったんだ?
まぁ、いいか。戦力と知識が増えたと思えば。
それからはアベルがレベルの上げ方や戦い方を教えてくれて、さらに
『そうだ!親睦を深める為に今日は泊まっていきなよ!』
もうあれだな、断れないヤツだな。まぁ帰らなきゃならない理由も無いが。
その日はアベルが管理している水底宮殿で泊まった。思いの外、食事も美味しいしふかふかの寝床で、なぜかアベルが俺たちを抱きしめて眠った。
うん、まぁたまには悪く無いかもな?ナツキとの予行演習だと思えばありだろう。
そうして翌朝、またアオに今度は掴まってアベルと一緒に湖から出た。周りをキョロキョロしているアベルはなぜか俺よりも小さなサイズになって付いて来た。まぁあの大きさでは巣穴に入れないからな。
そうして1日ぶりに巣穴に戻った俺たちだった。
ハッチが奥から出てくると
『あれ、お友達?僕は魔蜂のハッチだよ!よろしくねー』
とアベルに挨拶した。アベルは色白の頬を嬉しそうに染めて
『そうなんだ、友達なんだよ!僕はアベル。友達の友達はともだちだよね、よろしく!』
『うん、よろしく!』
ハッチは良くわからないなりに、アベルの言葉によろしくと応えた。
そして
『ハッチも種族進化したんだね、人化したい?』
ハッチはホバリングしながら首を傾げる。
『レベルが上がれば人型になれるんだよ!』
ハッチは昆虫だから人型とかに興味は無いのだろう。
そう思ったら
『えっ?なりたい!』
あれ、そうなのか?
『だってたくさん野菜が作れるよね?それならみんなが美味しいものを食べられる!』
ハッチ、なんていい子なんだ。ルリハもハッチを前脚を合わせて潤んだ目で見ている。
『みんな仲良しー、でイタチを全滅させるんだ!』
あ、なるほど。目的はそれだね。うん、分かるよ。
すると女王魔蜂(種族進化したらしい)が飛んできて
『この子をよろしく頼むわ。私は種族を増やさないといけないから、ここを離れられないの』
アベルが小さな胸を張って
『任せてね!』
その後は巣穴の案内をして、ルリハがアベルの部屋を作って野菜とお肉と、湖でとった魚を使った料理(魔法で調理)を作ってアベルに振る舞った。
アベルは感動して泣きながら(泣くほどか?とルリハを話をしながら)食べていた。
その翌日からレベル上げの為の戦いが始まった。
単純な話で、とにかく魔獣を狩る。手始めに俺たちより少し大きい角ウサギから。角が生えた獰猛なウサギで、俺みたいな可愛いウサギとは違う。
顔も可愛く無いし、角で貫かれたら即死だ。怖え…マジでアレをやるのか?
いやいやいや、無理だろ。ルリハもびびって固まってるぞ。
しかも俺たちより少し大きいと言われたが、俺の5倍、約1mほどの大きさだ。
その獰猛な顔のうさぎはしかし、ルリハに照準を定めて飛び込んでくる。俺じゃなくて、だ。それはダメだ。ルリハは本当に小さなネズミだ。突進されたらひとたまりもない。咄嗟にルリハを背中に乗せると、敵はもう目の前だった。
覚悟を決めて水を掛けて雷魔法を発動した。感電させて、とにかく動きを止めなくては。
『ギュギャー』
汚い叫び声を上げて俺のほんの少し前で倒れた獰猛なうさぎ。勢いで潰されないようにちゃんと避けたぞ。
止めをしないと!と魔法を発動しようとしたら、アベルに
『もう死んでるよ!』
と言われた。
えっ…、恐々とうさぎを見つめる。動かない。近くの枝を掴んでツンツンする。動かない。
アベルが呆れたように
『あんな高威力の雷魔法ならもっと大きな魔獣でも即死だよ!』
…そう、なのか?
背中から飛び降りたルリハが
『ハルカ、お前やっぱ凄えな!』
キラキラした目で言う。うん、可愛いな!しかし、獰猛なうさぎ相手だったからか、生き物を殺した罪悪感は不思議となかった。やらなければやられる。それを身をもって知ったからだろう。
『死んだかどうかは鑑定で確認できるはずだよ』
アベルが教えてくれたので、鑑定してみる。あのうさぎはどんな状態か。
(感電して即死した)
先に水を撒いたから余計かもな。落ち着いてみると焦げ臭い。見た目は焦げてないから内側が焦げたのか?
(内臓は焼けてるが、肉は無事)
ぶほっ…、ルリハと同時に吹き出した。
『ハルカもか?』
『肉は無事みたいだな』
鑑定って知りたいことを教えてくれるのか?
アベルは
『鑑定を使いこなしていくと、知りたい事に答えを貰えるよ!』
なるほど。咄嗟に頭で肉は食べられるかって考えたからだな。チラッとルリハを見ると同じような顔をしていた。全く、考えることまで同じとはな。
こうして、初の魔獣狩りが終わった。
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