7.水底にご招待
ふぅ、やっと落ち着いた。鼻をぷもぷもしっぽをタンタンする。もうルーティンになってる一連の動作。落ち着くんだよな…。
『えっと、つまり興味があったから招待されたと?』
アベルは我が意を得たとばかり大きく頷く。
『その通り!』
アベルは俺のすぐ前まで来て屈んだ。
水色の髪に水色の目をした男の子だ。人魚は裸のお姉さんじゃないのか…?マジマジと胸の辺りを見つめる。平だ。
『くすくすっやっぱり人魚は女性だって思ってる?もちろん女性もいるよ!裸じゃないけどね』
裸じゃないらしい。残念、なのか…うさぎにとってはあまり関係ない。むしろ人間として感覚的にはぽよよんとかばいんなのを見たいような気もするが。
『ハルカ、なんかやらしいこと考えてるな!』
ギクッ、なぜ分かる。
『なんか変に内股?』
クソッうさぎに内股なんてないだろうに。ルリハを睨んでおく。
良く見ればアベルはとてもきれいな顔をしている。色々と小さいが。
『ねぇ、君たちは魔獣だよね?なのになんて言うか、そう、賢いね!』
目をキラキラさせて言う。まぁ知力はそれなりに高いからな。
『俺らは前世の記憶があるんだ!』
ルリハが言う。
あ、バカ…良く知らない相手にそんな事言っちゃダメだろ!
『ルリハ!』
一瞬後にしまったという顔をするルリハ。いやネズミだから無表情だけど小さな前脚を口元に持っていって固まってるからな、分かりやすい。そして可愛いぞ?
いや、可愛いとか言ってる場合じゃないな。
どうすんだよ…めっちゃ秘密なのに。
チラッとアベルを見ると、目をさらにキラキラさせて俺たちを見ている。
『えっ、凄い!前世?どんなとこ?どんな生き物だったの?凄い!』
大興奮だ。残念ながら生き物じゃないけどな。
なんとなく大丈夫そうだけど、鑑定とかしたら分かるかな?
アベル
種族 人魚族
年齢 ***
レベル ***
体力 ***
魔力 ***
知力 ***
魔法 ***、***、***、***、***、***、***
えっ、なんだこれ…?情報がバグってる?ルリハが小さな声で
『なぁ、鑑定でも何も分からんな』
頷く。するとアベルのくすくす笑う声がした。
『くすっそりゃ見えないよ、僕の方が力が上だからね!』
何でだ?ルリハを見るとまたあっというように前脚を口元に持ってきた。だから可愛いぞ!
『鑑定あるあるだ。ブロックされるんだよ…レベルが低いと』
レベルは自分のレベルか?鑑定とかにもレベルがある?
『何のレベルだ?』
『鑑定のレベルだよ!スキルレベルだね』
アベルが応えてくれる。
スキル?何だそれ。自分のステイタスには魔法しか表示されない。それとは違うのか?ずっと鑑定魔法だと思ってた。
『スキルはレベルが上がらないと見れないんだ。君たちは前世?の記憶があるけど、レベルはまだ低いんじゃないか?なら見れなくて当然だよ』
あれ、アベルは鑑定持ってないのか…?聞いてみよう。
『アベルはその、鑑定は持ってないのか?』
『持ってるよ!見てもいい?』
あ…ルリハと顔を見合わせる。警戒したとはいえ、勝手に見たのはまずかったから。もっとも何も分からなかったが。
『あぁ、その悪かったよ。勝手に見て』
謝るとアベルはきょとんとしてからおかしそうに笑った。
『気にしないで!見れないのは分かってたし』
多分、見られたんだと思う。何か魔力の波動を感じたから。そして考え込んでる。
『ねぇ、もしかして…君たちは存在進化したの?』
存在進化とは…?ルリハを見る。
『種族が進化系かどうかって事かな』
首を傾げて考えるルリハ。
『その通り!君たちの場合、普通のうさぎとネズミだったんじゃ無いかな?で、存在進化して魔獣となった。魔法が使えるようになったんだ。だからレベルが1なんだと思うよ』
つまり、ただのうさぎとネズミが魔獣に進化した。進化したらまたレベルが1からのスタートって事かな。
『この世界のことはまだその月齢だと分からないだろ?もっとも、ただの生き物ならそんなことすら考えないけどね!よし、せっかく友達になったし、僕がこの世界のことを教えてあげるよ!けっして暇だからじゃ無いよ?』
色々と突っ込みどころがあるんだが、何から突っ込むか…。
『俺たち友達になったのか?』
ヒソヒソとルリハが聞く。なった覚えが無い。
『なってないよな?それに暇だとか言わなかった
か?』
『言ってたな…』
アベルはニコニコとして
『まぁ細かいことは置いといて、どう?知りたく無い?』
う、置いとくのはどうかと思うが確かに余りにも知らないことが多い。たとえ暇つぶしであっても、ここはアベルに頼ろう。
ルリハと頷き合って、(もふもふなうさぎとふかふかなネズミが頷き合ってるのはきっと可愛い)なんて考えながら
『頼む』
と応えれば凄く嬉しそうだった。
ルリハは小さな声で
『友達いないのかな?』
『しっ、聞こえるぞ』
前脚でお口チャックなそぶりをするネズミ、可愛いな、おい。
アベルは相変わらずニコニコしながら
『こっちに来て!中で座ろうよ』
宮殿に入って行った。中はがらんとしている。そして水の中なのに息ができるのは、ここら一一帯が膜で覆われていたからだと分かった。
アベル曰く、水もあるし空気もあるんだとか。意味が分からない。普通に魚は泳いでるのに、呼吸が出来る。
『魚は僕たちと同じでね、肺呼吸に進化してるんだ!』
その説明だと空?空中を泳ぐ説明にならないが?
『それでなんで泳げるんだ?』
ルリハがそのまんまの質問をする。
『ん?空気を擬似水として泳いでるんだよ!』
全く分からない。
『全く分からないぞ!』
アベルは振り返って笑うと
『魔法を使う時にさ、原理を分かって使ってる?』
『いや…』
むしろ全く知らん。
『だよね?それと同じ。理屈は知ってても知らなくても、問題ないよ!』
それもそうか。アベルが立ち止まった前には大きな扉があって、そこを開けて中に入る。
『どうぞ!久しぶりのお客さんだ』
ルリハと手、もとい前脚を繋いでヨチヨチ歩いて中に入る。
うわぁ…凄い!
『凄え…』
ルリハも絶句している。なぜならその部屋に中央には大きな円柱の水槽があって、その中をたくさんの魚が泳いでいたのだ。
アベルは嬉しそうに笑うと
『気に入ってくれた?中央はそのまま湖と繋がってて、水の中を泳ぐ魚を見れるんだ!』
『凄いな…あ、コツイはさっき俺たちを運んで来た、確かアオか?』
アベルは少し驚いて
『良く分かったね!そう、アオだよ』
こうして見ると鱗が青で、オーロラみたいに輝いている。凄くきれいだ。
『きれいだな…』
ルリハがポツリと呟く。
『サバキン族は鱗が特徴的でとてもきれいだよね、だから一時期乱獲されて…とても数が減ったんだ。それで人魚族の眷属にして、僕たちが保護してるんだよ!』
眷属になると何か能力が増えたりするのか?ルリハを見ると、胸を逸らしてヒゲを揺らす。
『眷属化することで、能力の一部が移譲するんだと思うぞ』
ルリハの答えにアベルは頷いて
『その通り。ただの魚から魔魚になって魔法が使えるようになった。知能も上がったからね、人間に捕まらなくなったんだ』
なるほど、でも人魚族には何か恩恵があるのか?と首を傾げていると
『ふふふっそんな仕草も可愛いね!僕らはさっきみたいにお使いを頼んだりね。ほら、外に出たら捕まりそうだし。人魚も昔は人に捕えられて…だから人前には出たくないんだ。だからお使いとしてね、僕たちにもちゃんと利があるんだよ。さて、座ろうか』
アベルは真ん中に円柱水槽を見られるように置かれたソファを指して言う。
うん、アベルたち用なのかな、小さなソファは俺らでも乗れる高さだ。
ルリハを抱えてソファに飛び乗った。うん、ふわふわで乗り心地が良いな。
アベルは指を鳴らしてお茶を出した…はい?目をまん丸にして見ていると
『あははっ、驚いてるね?空間魔法の応用だよ!こうしてお客さんが来てもすぐ出せるようにね。なかなか来なかったからずいぶん久しぶりだ』
またしても色々と突っ込み所があるな。
『なぁ、やっぱりボッチなのかな?』
ヒソヒソとルリハが言う。聞こえてるぞ?なんかしょんぼりしてるし。だから
『招待するに値するようなヤツがなかなかいないんだろう』
アベルは目に見えて嬉しそうに頷いている。
なんだろうな、人型なんだが小動物的な可愛いさだ。いや、正直俺たちこそ小動物なんだが。そしてリアルで可愛いんだが…そこは置いておこう。
『いただくぞ』
お茶にそっと鼻を近づける…ヒゲもひくひく、うん大丈夫だな。ペロリっ…美味い!
『ルリハ、美味いぞ!』
『まじで?俺も飲む!』
しっぽを揺らしてお茶に顔からダイブしたルリハ。
『ぷはぁ、美味い!』
『気に入ってくれた?良かったー』
アベルはニコニコしてる。喜んでくれて良かった。
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