35.新しい生活
俺はスカイに人型になる方法を教わってから、ルリハ、スパと共に人型で過ごすことにした。まずは住む場所を確保しなくてはならない。地下に掘った巣穴は当然入れないし、壊すわけにもいかない。
「住む場所が必要だな」
「それな」
小さいとは言え、うさぎだとせいぜい30cm、人型だと1mはあるからな。3倍以上だ。
『パパ、ルリ兄ちゃん。近くにいて欲しい…』
だよなぁ。カゲツはまだまだ赤ちゃんだ。
「カゲツの洞窟に近い場所。俺たちの巣のない方に向かって地上に住まいを作ったらいいんじゃないか」
とルリハが言ったので、カゲツとともに棲家の洞窟に向かった。
洞窟だな。これを掘るのは無理だよなぁ。
そこで考えた。別に実際に広げる必要はないんじゃないかと。空間魔法を使って洞窟の入り口から奥のほうに家を作れば良い。俺たちが住めるような広めの家だ。
「なぁ、俺たちは空間魔法が使えるから、住まいも収納?したらいいんじゃないか?」
相変わらず説明が下手な俺だが、ルリハには伝わった。
「空間魔法で狭い場所を広くして、そこに部屋を作るって事か?」
「あぁ、入り口さえあればなんとでもなるだろう?」
「だな!どれくらいの間取りにする?」
「ハッチたちが帰ってきてもいいようにそうだなぁ10 LDKぐらいにしとくか」
「いいな、それくらい広ければレイカも呼べる」
さて、言ったはいいもののどうするかな。
カゲツの寝ぐらの奥に、少し枝分かれした場所を見つけた。
「おっ、ハルカ。ここが良さそげだ!」
「やってみるか」
ルリハがネズミの時と同じ潤んだようなキラキラした目で見つめる。
よし、魔法はイメージだ。
広めの玄関から左に居間、キッキン。居間は大きめでキッキンはアイランド型、右手に応接室。扉を出て廊下。
左側に便所(客用)と大浴室、右手から客間、奥に俺たちの個室。
さくっと作れた。やっぱり人型になると知能が上がるんだろうか。魔法の操作とか工夫がよりしやすくなった気がする。小さなうさぎの脳では同時進行で考えられることに限界があるからな。
ルリハ、カゲツ、スパと入る。ちゃんとカゲツの部屋も作ったぞ!
『パパ凄い!』
「ハルカ凄え!」
「相変わらず見事だな」
こうして住む場所を整え、ベッドや布団も服もキッチン用品なんかも全部用意した。
どうしたかって?
もちろん全部作った。
この辺りには木がたくさん生えているし、綿花も見つけたから木綿も作れるし、鉱物も取れるから魔法で錬成すれば金属性の鍋やフライパンなんかもたくさん作れる。
「ハルカ、こんな鉱物見つけたってアリたちが持ってきたぞ!」
スパが渡してくれたのはどうやらミスリル。熱伝導率が良いと鑑定が言う。
「ルリハ、フライパンと鍋、包丁作るぞ!」
「おう、手伝う」
ルリハも知能が上がってサクッと2人で作った。
「やっぱりお前ら凄いな!」
スパに褒められた。スパは仲間と俺たち人間用の服や靴、カバンを作ってくれた。
「スパだって相変わらずいい腕だぞ」
「あぁ、服なんて凄く着心地が良い。毛皮が無いから良く分かる」
「それな!」
さらに人型になった以上は魔法だけに頼るべきではないだろうと考え、剣や盾、防具も作った。物理的な強さは捨てられない。今までみたいに逃げるが勝ちとも言えんしな。
細かい作業はやっぱりエアーハンドよりも普通に指先で作った方がやりやすい。たから非常にはかどる。
「なぁハルカ、手があるっていいな!」
「だよな?指が無いと細かい作業が難しいからな」
「だな」
ルリハは凝り性だから、やり始めたら細かい。武器なんかは俺じゃなくルリハ向きだ。
スパは武器よりは服とか生活用品の方が得意だ。とは言え、武器も俺よりは格段に上手い。
「ハルカは武器よりもっと細かいアクセサリーとか小物が上手いよな。食器も繊細だし」
好きこそ物の上手なれ、って言うからな。武器より包丁やお玉、カトラリーや小物が作りたい。
こうして人の体に慣れていく訓練をした。魔法の使い方とか剣の使い方とか走ったり飛んだり。体の大きさが違うから、初めて走ったら足がもつれて転んだ。スパは普段から長い足を使いこなしてるから、と思ったら2足歩行で走るのが難しかった。いつもは4倍の脚で動いてるからな。
ルリハは四つ脚で走るし、俺に至っては走らない。跳ぶかよちよち歩くかだ。
歩くことから始めて走る、飛ぶ、回転する、横に動くなど獣時代にしない動きを確認した。
慣れないからすぐに疲れる。身体が重いんだ。うさぎだと軽いからなぁ。そもそも頭が重い。
魔獣として能力はそのまま引き継がれているみたいだから、慣れれば人としては速く走れるし高く飛べる。それでも体力や魔力は人型になってしまったことでかなり落ちている。身体が大きくなったが筋肉の割合が減ったんだろう。
体の使い方に慣れて早く元の能力と同じになるようにしなければ。料理もたくさん作れるようになりたいからな!
レイカと共に行ったハッチたちも元気で過ごしているようだ。彼らからは頻繁に連絡が来るから、貴族として過ごすためのいろいろな知識やこの世界の知識なんかも彼らが瞬時に伝えてくれる。
「みんな、聞いてくれ!今日、始めて文字を見たぞ」
「始めて字を書いた」
「ナイフとフォークで食事を食べた」
「風呂に入った」
「堅苦しい服を着た」
「寝る時に全部脱いだら、従者に叫ばれた」
…まぁまだ幼児だからな?大人でそれをやったら犯罪だ。幼児好きな変態がいるかも知れないから、要注意だが。
彼らはレイカの遠縁の子爵家の養子となった。だから従者が付いた。
そうそう、例の魔力波を常に展開していれば、彼らが勉強していること自体をそのままこちらに伝えることができるのだ。
例えば家庭教師に
「まずは貴族としての正しい言葉を覚えましょう。一人称、自分のことは俺、ではなく僕。本格的な社交が始まる13才からは私、が基本ですよ。では、自己紹介の仕方を練習しましょう。僕はリブラート子爵家が一子、ハッチール・リブラートと申します。以外お見知り置きを…。さあ、順番に」
これが魔力波に乗って音声として聞こえてくる。ちなみにハッチールはハッチの人用の名前だ。アンはアンリカ、スパはスパイナードだ。ルリハとヒトハ、俺はそのままだぞ!元々人間の名前だからな。ハッチやスパ、アンは俺の名付けセンスにより、人っぽく無いから。
魔力波は最初は音声だけだったが、やはり不便だ。
魔力を一方行ではなく、広く展開することである程度何をしているのか映像として捉えることができるんじゃ無いか?ここでルリハと議論した。
「魔力波に指方性を持たせたことで、波としては安定したが音に特化してしまった。映像も波として捉えられないか?」
「映像となると送るデータの容量が格段に上がるぞ?だとすると…情報を圧縮して転送?で、受け取る側で解凍して展開かな」
むむっやはり情報量が桁違いか…
ルリハと魔力を送る範囲を限定して、情報を圧縮しようとしたが、難しかった。
「なぁ、視点を変えたらどうだ?情報を送るから難しい。共有するんだ」
「ん?共有か。あ…スパやアンの同調か!」
「それだ!彼らの見ている風景を同調するんだ。同調魔力だ」
その視点で、彼らとの同調性に焦点を当てた。協力してくれたのはガビル、リッカそしてアベルだ。
アベルとは引越しする前にガビルの仲介で会った。数ヶ月ぶりに見るアベルは逞しくなっていた。
俺とハルカを見ると飛んできて
「ハルカ、ルリハ…ぼ、僕。ごめん!き、君たちのこと何も分かってなくて。また、仲良くしたい。僕も色々と頑張ったんだ…」
真剣な目で俺とルリハに訴えた。ルリハを見る。死にかけた仲間だからな。
ルリハは俺を見ると頷き
『もうあんなことは御免だぞ?』
「も、もちろん!」
『お前のママは許さんけどな』
「それも、分かってる。僕はもう家族から離れたから」
それには少し驚いた。でも確かな決意を感じられた。
『友達には戻らないぞ』
アベルは俯く。
『あぁ、俺たちは仲間だ!馴れ合いじゃ無い、本物の仲間だ』
アベルは目に涙を溜めて俺たちを見た。
「仲間…?」
『そうだぞ!ケンカして終わりの友達なんかじゃ無い。何があっても消えない絆がある』
アベルは頬がしまって体つきも変わっていた。何より目付きが変わっていた。彼なりの努力はちゃんと伝わったからな。
「うわぁん…」
俺たちを抱きしめて泣いた。
で、映像の共有化だ。アベル、ガビルたちの巣穴、そして俺たち。それぞれの場所で視覚の共有化を試した。最初は難しかった。スパや離れているアンにも同族との連絡手段を聞いて参考とする。やはり同調性が重要らしい。魔力を同調させる。同族だと簡単でも異種族だとハードルが高い。
『魔力に種族の特徴があるとか…?』
ルリハが言う。
そこで解析した。特徴はあった。魔力を波として捉えるなら長い短いだな。
その特徴に合わせて魔力を同調させた。
『出来たぞ、ハルカ!』
『出来たな!ルリハ』
種族の特徴が良く分かる。
思わずルリハが俺に抱き付いた。ぷくぷくした子供は可愛い。その柔らかい髪を撫でる。
「へへっ」
「やったな!」
苦節1ヶ月。うさぎ生的には結構かかった。
魔力波を使いこなせるようになり、さらに熟練度が上がった。相互に常に使い続けているから、俺たちも彼ら自体のレベルもぐっと上がっていく。
人としての知識や体の使い方も、貴族の作法として彼らからも教わることができ、俺たちは森の中で人として生きる術を彼らに伝えた。
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