31.テイマーとして
僕は伯爵家の3男として生まれた。領地は東側にルクレツィアの森を擁する。だから動物や魔獣に触れる機会が多かった。
上の兄は僕と10才、下の兄は僕と6才離れていた。2人の兄の間に姉が1人。8才離れている。だからなのか、年の離れた弟である僕はみんなから可愛がられた。
長兄は伯爵家を継ぐべく、勉学に励んだ。次兄は長兄を支える為に剣の道に進んだ。才能もあったのだろう、メキメキと腕を上げた。
姉は財政面で家を支える為、商会を立ち上げた。辺境の伯爵家は貧しくはなかったが、さほど余裕も無かった。
姉の商会は堅実に上客を取り込み、繁盛した。
僕は…すでに家のためにすることも無かった。そう思っていた。魔獣の暴走により、父様と兄様が大怪我をするまでは。まだ6才の僕には何も出来なかった。せめてその予兆が分かれば。治癒の力があれば。戦力になれれば。
父様と兄様の応急手当てをして、自分の無力さに項垂れた。
しかし、のちに派遣された神官から
「あなたには治癒の素質があります」
そう言われた。
「どうしたら?」
「願うのです。真摯に、直向きに…。神は見ておりますよ。願う者を」
僕は父様と兄様の看病を続けながら、願った。どうか僕に大切なものを守れる強さをください、と。
その少し後、僕がテイマーになるきっかけとなる事件が起きた。
ルクレツィアの森には雑多な生き物がいる。ただの動物も然り、魔獣も然り。
魔獣の中でもスライムやコボルトは人と共生している。凶暴性を持たない魔獣や、知能の高い獣もいるのだ。
まだ若干6才の僕は森に入る事は出来ない。境界辺りで森を眺めるのがせいぜいだ。
ある時、1頭の白い狼を見かけた。口にはブラックウルフ、魔獣を咥えていた。
それから度々、その白い狼を見かけた。ある時、森から僕に向かってボアが突進して来た。僕はあまりに驚いて動けず、咄嗟に僕を庇って前に出た護衛が体当たりをされた。2人の護衛は強靭な体で突き飛ばされ、僕は守る者が無い状態でただ立っていた。
逃げなきゃ…でも足が震えて動かない。立ちすくんでいるとボアが僕を見て向かって来た。死ぬ、そう思った途端、頭が痛くなって踞った。
「ぐわぅ!」
「がふっ…ぐぁ……」
え?恐る恐る顔を上げると、例の白い狼がその白い体に赤を纏って立っていた。その口はボアの硬い皮を破って首を咥えていた。
凄い!そして狼は遠目で見るより大きい。
その後、狼はボアを引き摺って森に帰って行った。僕は護衛に駆け寄って治癒をする。動けるようになった護衛に抱えられて屋敷に戻った。僕は力が抜けて立てなかったから。
その夜、死ぬ!と思った時に思い出したことを考えた。どうやら僕は転生しているらしい。
元の名前は宮本 怜華。男なのに女みたいな名前だと散々揶揄われた。あちらの世界で死んだんだよな…
転生前のあちらの世界。
元同級生たちが次々に死んだ。悲しいというか、そんな事が起こるんだと考えていた。あまり接点は無かったが…確か名前を読み間違えて。それがキッカケで話をするようになった筈だ。
友達というほど交流は無かった。僕は歴史ある家の次男で、お金持ちだったから。
父は中規模の商社を経営していて、母は華道の家元で。格式も高ければ金もある。そんな家が実家だった。
と言っても優秀な兄と2人の姉がいたからか、僕はあまり干渉されずに過ごしていた。だからか、施設の子と話をしていても何も言われなかった。
彼らはいつも3人でいで、仲良しで。それが少し羨ましかった。
その3人のうち、2人が相次いで亡くなった。僕はそのことをネットニュースで知って、なんとなく葬儀に行った。そこにはポツンと1人、座っていた。訪れるの人はいるのだろうか?そんな感想を持った。
挨拶をして焼香をする。
憔悴した顔で、驚いて俺を見た彼。
「その…大丈夫か?」
「…さあな」
首を振る。
「何か俺に出来る事はないか?」
ついそんな言葉が出た。
彼は俺を真っ直ぐ見て
「覚えていてくれ。アイツたちの事を…アイツたちが生きていた事を…」
そんな事で良いのか?だから頷いた。
「ああ、お前たち3人のことはずっと覚えているさ!」
そんな会話をして俺は葬儀場を後にする。道に出る手前で青年とすれ違った。俯いた顔はでも、どこかで見たような気がした。振り返ると葬儀場に入って行った。当たり前か、友達くらい他にいてもおかしくない。
3人でいるイメージしか無かったがな…。
目つきの悪い、でも繊細な顔立ちのハルカ。体が大きくてパーツも大きな整った顔立ちのルリハ、爽やかイケメンでバスケ部のエースだったカズハ。
全く似ていない彼らは、それでも間違いなく親友だった。
そんな2人が相次いで死に、ハルカが死んでから一年後にあのカズハも死んだ。衝撃だった。
俺は警察署に向かった。
「友達、なんで…」
自然とその言葉が出た。
カズハは最後の1人だから、僕が彼を見送ってあげよう。そう思ったら同じ事を言ってる人がいると言われた。ちょうどやって来た彼には見覚えがあった。
ルリハの葬式に参列していた彼では?
その後、話をした。なんと、ハルカと生き別れになった弟だった。だからか!会った事があったと思ったのはハルカの面影があったからか。
「似てるな…」
「子供の頃は似てないって…」
ぱっと見は確かに似てない。ハルカは目つきのが悪かったし、色素が薄かった。目の前のナツキは色素の薄さは無くて、代わりに目が大きくて可愛らしい顔立ちだ。
でも、やっぱり似てる。
「なんだろうな、会った事があるって思ったんだ」
憔悴した顔で目の下には隈があって頬もこけていたが、やっぱりどこと無く似ている。彼は僅かに頬を緩めた。
「カズハさんとはルリハさんの葬式で会って、それで。兄さんの葬儀にも来てくれてたから」
なるほど。確かにネット記事にはハルカの弟を庇ってカズハが死んだと書いてあった。
「カ、カズハさんのお葬式は俺が…」
「金はあるのか?」
現実的な話として金がいる。
「両親が出してくれるって」
ナツキだけが引き取られたんだな、兄弟を引き離して。
「そうか。でもいいのか?」
悔しそうな顔をする。頼りたくはないだろう。結果として唯一の家族と引き離されたんだ。例え育ててもらった恩があっても。選べるのならハルカのそばにいたかったはずだ。
「僕が出す」
そう、僕はとても運が悪い。だから様々なことに巻き込まれる。歩道を歩いていてスマホ運転で後ろからバイクに撥ねられたり、空いてる電車でおっさんに尻を触られたり。
数え上げたらキリが無い。だから巻き込まれ防止のためのグッズを作った。痴漢撃退用ブザーとビリビリを組み合わせた「守くん」とか、背後から来る何かを感知すると膨らむ「膨らむくん」とか。
ちなみに守くんは音を消せる。痴漢に遭っていたと周りに知られるのは嫌だろうという配慮だ。
俺の運の悪さは筋金入りだが、同じ思いをしている人は世間にもそれなりにいたから。
これらのアイディア商品は大ヒットした。もちろん、そんな機会を逃す筈がない父が姉と共に商社で売り出した。
そして、また売れた。
もっともその諸々を全て体験している俺はやっぱり相当に運が悪いのだろうが。
だから俺には開発者として、また売り上げの一部、それなりの金が入って来ていた。まだ学生だったが普通のサラリーマンよりは稼いでいた自覚がある。
小規模な葬式くらい問題なく執り行える。
「大丈夫だ。僕はアイディア商品の開発者なんだ」
ナツキは驚きつつも
「お願いします」
頭を下げられた。自分がしたいだけで、単なる自己満足だ。でも、少しでもナツキの力になれたら。
カズハ、ちゃんと覚えておくぞ!お前たちの事を。約束は守る。
カズハの葬式も終わり、ナツキとは連絡先を交換したがそれ以降会うことはなかった。いや、正確には会う機会を作る前にナツキまで死んだんだ。
まるで自殺のような、そんな死に方だった。ナツキの手には白いバラが3輪、しっかりと握られていたそうだ。
とまぁ、そんな事が一気に頭の中に入って来たんだ。
で、なんで転生したのか。それは電車の事故で、だな。体が浮いて叩きつけられた所で記憶が途絶えているから。
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