26.一息ついた
やっぱり巣穴は落ち着く。マイルームのベッドに転がって草を齧る。ハッチが見つけたこの草。どうやらいわゆる薬草らしい。齧るとなんだか体が軽くなる。ヤバい方の軽くじゃ無いぞ?体の調子が整う方だ。
しかも、スッとしてまぁまぁ美味い。これ重要。
しかも、棚ぼたみたいな感じで俺は料理が出来るようになった。エアーハンドだ。そうなると、調味料が欲しい。塩やコショウはあったがシンプル過ぎる。
そしたらやっぱりハッチがなんと枝豆の苗を持って来た。生めよ増やせよ…とルリハと必死に念じて、増やした。魔法は強い思いだ。
そして成長を促進して(魔法は願いだ!)大豆を収穫した。大豆からの醤油だ。菌?スパがくれたぞ!
自然界にはたくさんある、とかいってな。
で、作った。最初はもちろん失敗。茶色いまずい液体が出来た。匂いからしてヤバかった。前脚にチョンとつけて舐めたら…悶絶した。不味すぎて。なんで酸っぱいんだ?
『成長促進させすぎか?』
ルリハも泡を吹いてひっくり返った。試行錯誤だ、料理の為なら頑張れる。そしてやっと醤油風が出来上がった。残念ながら少し何か足りない。だがあくまでも風だ。でも余は満足じゃ!
ルリハとハイタッチしたぞ?
で、エアーハンドによる料理だ。肉ならオークとかトードのがある。オークは脂身も適度にあって、トードはさっぱりしててどちらも美味い肉だ。
だからオーク肉で生姜焼きを作った。生姜?ルリハが掘って見つけたぞ。ルリハが食べた後…
『美味いな…』
と呟いた俺の胸毛にダイブして来た。だからその小さな頭を撫でた。よしよし、ぐすっ…貰い泣きなんてしてないぞ。故郷の味だな…ぐすっ。
寄り添って泣いた。
その後、小麦もハッチが見つけて増やして収穫して…。巣穴の中に温室を作ったんだ。そこで栽培収穫、粉挽きまで。
粉挽きはアンの仲間たちが手伝ってくれた。ひく為の石臼は俺が頑張った。風魔法はカンストしてるからな!
石も砕くエアカッターで。
力を沢山使わなくていいように、風車を巣穴の外に設置して風の力も使った。
で、小麦粉が出来た。
菌はまたハッチが見つけて来て、ふわふわパンが焼けた。どうやって焼いたか?
魔道具だ。ミスリルで側を作り、中は金だ。炭火を入れて稼働させる道具で、俺とルリハの魔石を使う。じっくり中から焼くからふわもちだ。
魚も肉もお手のもの。草の中にはハーブもあって、味付けに使えばいい味になる。
エアーハンド様々だ。
こうして亜空間にたくさん食料を作り置きする。俺もルリハも、ハッチやスパ、アンも魔獣だからか、味付けがあっても食べられる。料理が出来て美味いものが食える。たとえうさぎでも、ちゃんと生きていけるぞ!
レベル上げは一旦やめた。死ぬ思いまでしたく無い。少しずつ上げていけたらいい。魔獣になったから寿命も延びた。今すぐに強くなる必要は無いのだ。
そんなこんなでやがて秋本番。
俺は生後5ヶ月になっていた。カゲツの所には時々行ってる。まだ赤ちゃんだ。甘えたいんだろう。まぁ本物の親がそばにいるからベッタリではないがな。
俺と同じくらいまで大きくなった。もう背負えない。
体は大きくてもまだまだ甘えただ。可愛いもんだ。興奮してブレスを吐くのはやめて欲しいがな。概ね順調に育っている。
スパたちは少し前に引っ越しを終えた。各巣穴に室を作ったから子育て中だ。数がいれば色々出来るからな!お陰で沢山の布で色々と作ってくれた。有り難い。持つべきものは無茶振りしない仲間だ。
アンたちはアリ玉を作っている。これは赤ちゃんアリの栄養だ。しかし、アンたちにも充分な栄養が渡っているから沢山出来る。赤ちゃんが食べるよりもはるかに多く。だからくれた。尻袋にぷくっと出来るアリ玉。
『栄養満点のアリ蜜だ』
食べたらめちゃくちゃ美味かった。甘くて口の中で蕩ける。尻から出たことには目を瞑ったぞ?それから美味いんだ。
実はこのアリ蜜。本来なら女王アリしか作れない超貴重品だ。しかし、魔アリになったから、殆どの働きアリが作れる。このアリ蜜はハチで言うところのローヤルゼリーより遥かに貴重品。もちろんハルカもルリハも知らないから、うまうまーと日常的に食べていた。
ハッチからもハチミツやローヤルゼリーを貰う。彼らの巣箱部屋ももちろん、各巣穴に完備。だから増える。女王ハチが各巣穴に1匹誕生した。だからまた増える。ハチが飛び回るから花粉が散布され、そこら中に花が咲く。そして蜜が沢山取れる。まさにウィンウィンだ。
アンたちの巣穴はルリハの眷属が常に見回っている。奴らも魔法が使えるようになって、イタチ程度なら追い払えるようになった。しつこい奴は俺かルリハが狩る。
肉は不味いが毛皮はなかなかだ。マイルームに敷いている。こうして山の各所にある恵みの木の実や果物、薬草、根菜なんかも採って、冬に備えた。
巣穴の外で警戒していたら…ちらちらと白いものが舞った。立ち上がる。耳をピクピク鼻をぴまぴましっぽをたしたし…。冷たい空気が鼻に触れる。ついに来たか。冬の使者と呼ばれる初雪だ。
ルリハが巣穴からチョロチョロと出て来た。
『来たか!』
『来たな…』
『『冬だ!』』
魔うさぎである俺はもこもこの毛皮に生え変わり、もふ度が増した。ルリハ曰く
『ふっかふっかで離れたくなくなる』
らしい。
友達に言われてもな?どうせなら同種のメスうさぎに言われたい。というか、俺がうさぎの胸毛にダイブしたい。
…こう言うのがフラグだんだよなぁ。
その日、巣穴を警邏中のルリハの眷属から連絡が来た。
どうやって?
スパの糸だ。糸電話だな。実際に糸が繋がってるわけじゃない。原理は糸電話。で、糸の代わりに魔力を飛ばす。念話はみんなが使えるわけじゃないからな。これなら魔力さえあれば会話が出来る。
その仕組みは後に魔力波による連絡手段として、この世界に広がるのだが、それはまだ先の話。
で、
(隊長!不審なうさぎを発見!しかし、動きません)
ルリハと顔を見合わせる。動かない?
(生きてるのか?)
(はい!ただ、衰弱してる模様)
ルリハはうさぎと聞いてそわそわとヒゲとしっぽを動かした。
『行くか?』
『おう!』
ルリハが感知した場所へ飛ぶ。
シュタッと敬礼するネズミ。なかなか面白い絵面だ。
案内された場所は巣穴の少し先で、確かに白いうさぎが踞っていた。動かない。
『おい、生きてるか??』
『…ん。もう、死ぬ…』
慌てて駆け寄る。
『どこか痛いのか?ケガか、病気か…』
『…減った…』
『ん?』
『腹、減った…』
この時期はもう秋の恵みもほぼ無くなっている。備えなかったのか?巣穴に。
『備えは?』
『取られた…』
『誰に?』
『イタチに追われて…巣穴を捨てて、逃げて逃げて…もう、ダメだ…』
そういうことか。この辺りの生態系はあらかた把握している。ならさらに遠くから来たんだろう。
まずは巣穴にご案内だ。
『お前たち、うさぎさんを巣穴へご案内だ!』
『あいあいさー!』
わらわらとネズミが出て来てうさぎをえっちらおっちらと担いで運ぶ。
取り敢えず、客間だな。そこの床に降ろすとすかさずルリハが土魔法でテーブルを作る。俺がほかほかなスープとパン、茹でた野菜を載せる。
ゴクリ…
『食べていいぞ!同族だからな』
信じていいのか?と思うだろう?実はルリハには悪意が見える。どうやら俺がぽけっとしてるから、不安でそういうスキルが生えた!とはルリハ談。俺は疑り深いくせに人がいい、らしい。今はうさぎだけどな!
ルリハのスキルはとても有り難い。なんせこちとら最弱なんだ。
で、そのルリハが巣穴にご案内と言うなら大丈夫なんだろう。
ガツガツパクパク…
行き倒れうさぎは一通り食べると泣いた。
『お、美味しい…うくっぐすっ…パクパク…ぐすっ…』
食べながら泣いた。俺は背中を撫でてやる。ルリハは胸元にしがみ付いた。俺に負けずとも劣らないもふもふだからな。うさぎはルリハを抱えながらパクパク食べる。
ようやく落ち着くと
『助かった…お前たちは命の恩人だ』
『同族だからな』
『お前は魔うさぎか?俺はただの雪うさぎだ…最弱なんだ』
しょんぼりする。
『俺だって死にかけて、願って進化した。お前も出来る!思いは力だ』
ルリハが力説する。
ソイツは顔を上げて多分、笑った。
この出会いが大きく運命を変えることになると、その時の俺たちはまだ知らなかった。
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