24.アベルの反抗
母様の手が頭を撫でようとしたから、その手を払った。
『触るな!僕の、僕の友達を…返せ!せっかく出来たのに…せっかくの友達なのに。うわぁぁん…』
『ベル、母様は良かれと思って…』
言い訳をしようとする。もう沢山だよ!
『母様なんて大嫌いだ!あっち行けー。僕の…友達が、せっかく出来た友達が居なくなったじゃないか…』
アベルのステータス画面から友達の欄が消えていたのだ。増えた友達、それを見て寝るのが日課だったのに…。もう友達の欄すら無くなってしまった。
『か、母様が悪かったわ。謝ればいいでしょ!』
『そんな訳あるかよ!』
母様を突き飛ばして屋敷に転移した。自分の部屋に閉じ籠る。ハルカ、ルリハ…ごめん。ごめんなさい。うわぁん…
涙はなかなか止まらなかった。
巣穴にはアベルに嫌いだ、とかあっち行けと言われ手を振り払わられたアリレルが呆然と立ちすくんでいた。
シュン
『ハルカ、っていないのか…。ん?アリレル。何をしてる?』
『ガビル…私。アベルに嫌いって言われたわ…』
『ぬ?当たり前であろう。ハルカたちは死にかけてたぞ?魂が抜ける寸前だった』
ビクッとしたアリレルの体はゆらゆらと心許なく揺れた。
『そんなつもりじゃ…』
『全く呆れたわい。あやつらは頑張って強くはなっただろう。が所詮最弱底辺の獣だ。強くなろうともしれてる。我らドラゴン族に会ったらそれだけで魂が昇天してしまう』
『そんな…』
『殺すつもりで寄越したとしか思えんかったぞ』
『わ、私…。だからアベルは怒ったのね?』
『違うな、悲しんだんだろ。せっかく出来た友達を失ったんだからな』
『えっ…?』
『無意識だろうが、もうアベルの顔も見たくないじゃろ』
『なんで?』
『母親に殺されかけたんじゃ。当然だな』
『だから殺すつもりは…』
『一緒だ!お前がどんなつもりかは知らん。死にかけた事実は変わらん』
『…』
『アベルを見れば、お前に殺されかけたと思い出す。だから無意識に友達ではいられないと判断したんじゃろ』
『そんな…』
『流石にやり過ぎじゃ!我も怒っておる。100年は絶交じゃ』
私はアベルの為に、友達の願いを叶える為に強くしようと思っただけなのに…
*****
『ピィッ!』
なんとかしてくれ!俺は必死にカヅキから逃げる。まだ飛べないからぴょんぴょん跳ねて後ろをついて来る。
そして背中に張り付くのだ。
俺の頭に顎を乗せて羽をパタパタさせて。後ろ脚は背中を、前脚は首毛を掴む。痛くはないんだが、ずっと張り付かれてるのは苦手だ。
うさぎがドラゴンベビーをおんぶしてる絵面だ。シュールだ。
しかも、まだ赤ちゃん。頭を吸う。乳は出ないのにちゅぱちゅぱ吸う。
俺はきれい好きなんだ!カゲツの唾液でベトベトだ。ルリハはいち早く退避している。
狡いぞ!
巣穴に戻れない俺たちだった。
アベルの態度に流石にカチンと来た。ルリハがキレるくらいだから余程だ。友達だと思ってたのに、ママのいうなりじゃないか、呆れた。
で、他の巣穴に転移した。しばらくは顔も見たくない。
そのままルリハをいーこいーこして、転んだ。
疲れ切っていたからな。主に気持ちが。もてなされようとも、ドラゴン族のそばでは気が休まらない。
やっぱり巣穴は落ち着く。
耳をピクピク、鼻ももんもんしっぽをたしたし…ふう落ち着く。そのままマイルームで少し眠った。ルリハもマイルームで丸まってたぞ!
どれくらい経ったか、腹が減って目が覚めた。亜空間から木の実を出して齧る。ローストしたら香ばしくて美味しくなった。食事は大切だ。
ふと
『…て』
何が聞こえたか?…気のせいだな。ロースト木の実うまうまーと齧る。
『…こ…?』
ん…やっぱり何か聞こえるか。
むむっ腕を組めないから前脚を合わせる。多分、単に可愛いだけの仕草だ。後ろ脚で立っているうさぎが前脚を合わせる。俺的には可愛いさは不要なんだがな。
『…パ、パパ…どこ…?』
これは、どうやはりカゲツに探されている。しかしドラゴン族の巣は休まらない。出来れば行きたくない。
『ハルカー!カゲツが呼んでるぞー』
なんで分かるんだ?
『んーなんとなく?』
『ドラゴンの巣に行きたくない』
ルリハもヒゲを下げた。だよな?
『でもよぉ…探してるぞ…』
ぐっ…ルリハが前脚を彷徨わせる。捨てた母親を探すみたいな仕草に居た堪れなくなった。
ルリハは家族に憧れがある。俺たち仲間に対して何か言われたりされた時だけ怒るのも、きっと疑似家族と認識しているからだろう。
そう、ルリハは自分の事では怒らない。いつだってカズハや俺が傷つけられた時だけ怒る。それは俺とカズハも同じだ。自分の事なら我慢できる。でもルリハやカズハの事になると沸点が低くなる。
彷徨わせたルリハの前脚を握る…ことはできないから、もふもふの前脚に載せる。
潤んだような黒目で俺を見て何かを言いかけた。
『行くか?』
ルリハは目を大きく開いて
『でも…』
『まだ赤ちゃんだからな!』
ヒゲをピンと張って俺のもこもこな前脚を小さな前脚で掴むと
『だよな!』
分かってる、ルリハはそばに居てやりたいんだ。優しい奴だ。自分と同じような気持ちにさせたく無いんだろう。もっともカゲツにはちゃんと両親がいるけどな。
マーキングしてあるドラゴン族の巣にルリハを抱えて飛ぶ。
ヒュン
座り込んで翼を抱えている、大きな赤い目に涙を溜めたカゲツが目の前にいた。
『来たぞ!』
ルリハが俺の胸から飛び出してカゲツの頭に乗る。ツノにしっぽを絡めてぶら下がった。
カゲツの顔の前にぷらぷらしてる。小さな前脚でカゲツの涙を拭いてやっている。あれは、羊毛のハンカチだな。ふわもこだから赤ちゃんでも大丈夫だろう。
もっともドラゴンだ、柔肌とは程遠いが。
目をパチパチさせたカゲツは
『ルリハ兄ちゃん、ありがとー!』
興奮したカゲツの鼻息でルリハが飛ばされたのは…想定内だ。ちゃんとぽよんぽよん結界を展開したからな。
何度か跳ねて隆起させた土に着地した。お見事!
『うわぁ、大丈夫?ごめんね…力加減が』
トコトコ歩いてルリハをそっとそーっと前脚で抱き上げる。
『大丈夫だ!ベビーだからな』
『えへへっありがとう』
興奮して振り回したしっぽの風圧でまたルリハが飛んだ。ルリハ自体にぽよんぽよん結界をつけよう。鞠みたいに天井から壁やらを転がって着地した。
カゲツは流石にしょんぼりだ。
『カゲツ、無理する必要はないが…少しずつな。俺たちは全身を常に柔らかい結界で覆うから、大丈夫だぞ』
柔よく剛を制す、さ。
カゲツは顔を上げると
『パパ、なら僕自身に結界を!』
なるほどそれもありか。カゲツに柔らかいぽよんぽよん結界を付けた。体当たりで、お互いにぽよよんだ。喜んだ、カゲツがめちゃくちゃ喜んだ。
喜んだ、めちゃくちゃ喜んだ。
俺は小さい子は同じ遊びをそれこそ何度も何度も続けることを忘れていた。
まだナツキが3歳ころ、河原で石を投げたら喜んで
「もう1回」
と言われた。得意になって投げた。
「もう1回」
それがその後永遠と…俺の腕が上がらなくなるまで続くなんて思わなかった。
飽きるという感覚が大人より遥かに少ない。
忘れていた。
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