22.試練
それで、何故こうなる?
『ドラゴンちゃんたちも冬は眠くなるのよー?だからその前に…行ってらっしゃい!』
ドラゴンの巣に放り込まれた…アリレルママのスパルタは健在だ。マジか…鼻息の風圧だけで飛ばされる勢いなんだが?
見上げても頭が見えないほどの体格差。翼をはためかせたら、もう瞬殺。ブレスも要らないだろう。
脚に踏み潰されたらぺちゃんこだ。
『ヤベェ…』
ルリハが俺の胸にダイブして震える。
クソッアリレルママめ…詰んだ。
そもそも何故こうなったのか。
俺たちは順調に冬籠りの準備を進めた。ふかふかのお布団。スパたちの力作だ。自分たち用の座布団も作ってたな、もちろんなんの問題もない。羊毛は果てしなくある。
ハッチもアンも羊毛が欲しいというので、分けた。仲間だからな。
みんなふかふかもこもこの羊毛に気分もアゲアゲだ。
そして、巣穴をより快適にする為、アンは浄化魔法が使えるようになった。空間魔法はアン以下精鋭部隊が既に使えている。そこに浄化魔法と治癒魔法まで覚えた。
何かとケガをするからな。使えて損はない。
本来なら使い捨ての働きアリだが、彼らによる治療で戦闘力が格段に上がった。
そして、ただの軍隊アリからマジック・アント、つまり魔アリに種族進化したのだ。魔力は少ないながらもある。そして数が多い。
100万からいるのだ。集まれば大きな力となり、森のアリ界の頂点に君臨する部隊となった。
戦闘部隊に巣穴作成部隊、食料調達部隊に、種族間交渉部隊。さらに監視部隊も登場した。女王を守る精鋭部隊に、アンをはじめとする中枢部隊。
最早国家に近しい。
彼らの張り巡らせた巣穴は俺の巣穴10を繋ぐ。しかし、そこはアリサイズ。ルリハはなんとか通れても俺は通れない。ルリハは時々、穴に詰まっている。
ルリハは小さくなりたい!と切実に思い、体の大きさを変えられるようになった。と言っても大きくはならない。小さくなれるだけだ。
それならば、俺も小さくなりたい!と考えたら出来た。ルリハと同じでは跳ねたら頭が痛く当たるので、より小さくなった。7cmくらいだ。
ふふふっ、ルリハを見上げる俺。そのふかふかの短い毛が詰まった胸に抱きつく。
おぉー、ふかふかだ。良き、これは良きだ!すりすりする。ルリハはその小さな手で俺を撫でる。
うん、眉間撫で撫で気持ちいいぞ!
『えへへ』
『へへっ』
ちょっと守られる気分を味わった。
こうして冬籠りが進んだある日。
シュン
『はぁい、ご機嫌いかが?』
アリレルママがやって来た。嫌な予感しかしない。ルリハの背毛が逆立ってる。俺の首の後毛もチリチリする。
ママの機嫌がいい時は要注意だ。
アベルが困った顔をしている。敵前逃亡を図るべし。さっとルリハを抱えて
転移!
…あれ?発動しない。
ヤベェ、掴まれてる。ママの手が俺の首毛を掴まえている。
『あら、どうしたの?うさちゃん…』
このうさちゃん呼びはママのご機嫌が悪い時の呼び方だ。目を逸らす。ぷらんぷらん体が揺れる。
『ふふっ、冬の間は暇でしょ?ちょうど彼らも眠い時期だし…遊んでくれるわよー』
とそのままどこかに…どこか…やめてくれ!
ドラゴンの巣の中に放り出された。
すかさずルリハが土魔法を展開、俺はぽよんぽよんの結界で自分たちを包み、地上に激突する前に跳ねた。
ぽよよーーん。
何度か跳ねて、ルリハが隆起させた土の天辺に着地した。するすると地面に戻る。
鼻息の風圧だけで死ねる。
ちなみにいくらアリレルママが鬼畜とはいえ、もちろん死なす為ではない。なぜなら、彼らドラゴン族とママたち人魚族は旧知の仲だ。
『私の可愛い息子を鍛えてあげて♪』
と言われ、死なない程度に鍛えられたアベルを見れば分かる。例え夜ごと、俺に抱きついて泣きながら眠ったとしても、夢でうなされたとしても、だ。
死にはしない。
言い換えれば死なないだけだ。
怖え…。もちろん、俺たちがそれなりに治癒魔法を使えることも知っている。
『即死以外ならありよね?』
とか高笑いしてるママが目に浮かぶ。
ルリハと抱き合った。ぶるってるぞ、もちろん。浄化してるからチビらないが、気分はジャバジャバチビッてる。俺はビビリなんだ。
ドラゴンが顔を間近に寄せる。
顔もデカい…目の大きさより俺は小さいし、鼻の穴よりルリハが小さい。
無理だ!ルリハを胸にヒシと抱きしめて、へたり込んだ。
鼻息が顔にかかる。死んだ、訓練だとしても死んだ。
ナツキ、兄ちゃん頑張ったけどダメだった。ごめんな…目を瞑る。
ん…あれ…何も無い。
そっと目を開ける。えっと…?すぐ横にドラゴンの顔、しかも地面に顎をつけてる。チラッとこちらを見るドラゴン。
『我の咆哮だけで潰れてしまうからなぁ』
え?実はいい奴か…?
ヒュン
『これなら怖くなかろう!』
縮んだ!俺と同じくらい小さい。マジか?羽をパタパタさせてる。可愛いぞ。前脚を出すとそっと乗る。
『ドラゴンか?』
『ははっ、そうだ。全くアリレルも酷いことを…』
俺は気持ちが昂って堪えきれず
『うわぁーん…えぐっ…うぐっ…死ぬと思ったよぉ…えぇーん…』
俺は恥も何もなく大泣きした。
『悪かったなぁ…大きくて怖かっただろうに…おぉ、よしよし』
翼で頭を撫でてくれるドラゴン。いい奴だ。
ルリハも泣いてる。
『ぐすっ冬籠りが…意味なくなるかと…うぐっぐすっ…』
本当に死んだと思ったんだ。
生きてて良かった。
アリレルママなんか嫌いだ!もう本当に嫌いだ…ぐすっ、思い出してまた泣けて来た。その間、ドラゴンはずっとそばにいてくれた。
『あ、ありがとう…お前、いい奴だな』
『がははっ!そうか、我はガゼルだ!』
『お、俺はハルカだ』
『俺はルリハだ』
俺の胸毛から顔を出してルリハも挨拶する。
目を細めてガゼルは笑う。
『アリレルにはキツく言っておく』
ぐすぐす…まだ涙が止まらない。
『そうだ、お前たちは充分強い。だからな、ちょうどいい相手がおる。仲間にしてやってくれ』
ドラゴン相手なら無理だろ。首を振る。
『大丈夫だ!』
そう言ってどこかに飛んで行った。
俺はルリハを抱えたまま、そこに座っていた。腰が抜けたんだ。立てない…!
すると、またガゼルが戻って来た。
『お待たせだ!』
腕に何かを抱えている。よく見たら卵か?
『もう孵化する』
えっとドラゴンの子?いや、待て待て。子供は手加減出来ないだろ?死ぬ未来しな見えないぞ!
やめてくれ。逃げたいのに腰が抜けて立ち上がれない。
詰んだな。
『ははっ本当に大丈夫だ』
何を根拠に?俺は最底辺最弱なんだぞ?
最強の奴に最弱の気持ちなんて分かるか!
ピキッ…
来たか?来ちまったか…その時が。
ピキピキッ…
『ピッー』
生まれた…目の前に殻から頭を出したドラゴン。そして、動かない俺。
まん丸な目で見て俺を見るドラゴンベビー。その目は真っ赤だ。そしてバッチリしっかりと目が合っている。
殻を破って出て来たベビーは
『ピッピッ』
跳んで俺の前に来た。
『ピッピッ』
頭を上下に動かして羽をバサバサする。
どうしろと?
『名付けを頼もう』
…無理だろ?俺の名付けセンスは終わってる。自分でも分かるんだ。なんせ蜂にハッチ、蜘蛛にスパ、アリにアンだぞ?ひねりも何も無い。
ルリハにすらジト目で見られたんだ。
『難しく考えるな!大切な名前でも良いぞ』
一番大切なのはもちろんナツキだ。でもな、ナツキ以外にその名前は付けたくない。
ふと昔のことを思い出した。
「兄ちゃん、いもーととおとーとが欲しい」
どこで覚えたんだ?それ。
「んとねーちーちゃんとりょーくんがいもーととかおとーとがいて、可愛いって」
余計なことを。離婚した母親には無理だろ。
「でねーいもーとにはミツキ、おとーとにはカゲツって付けるんだー!」
「そうか、楽しみだな!」
「うん!兄ちゃんと2人もいいけど…」
そんなことをふくふくと笑いながら小さな手で俺の手を握って言っていたナツキの事を思い出した。
だからか、ポツリと
『カゲツ…』
と呟いた。
『ピッ、僕の名前はカゲツー!パパありがとう』
『ぐはっ…』
『パパ?』
「カゲツのパパはそこの立派なドラゴンだ!」
今は小さいけどな。ちなみにベビーは俺よりもまだ小さい。
『父上はもちろん、分かるよ!でも名前をくれたから、パパだよーピッ』
マジか?生後4ヶ月で子持ち…。嫁の来てが無くなる。ま、それも運命か。
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