21.冬への備え
ハッチたちは冬籠りという名の冬眠だと言う。確かに、本来なら冬を越す前にその短い命は終わってる。雪が降れば飛べないからな。
さて、どうするか。
『やぁやぁ、元気かい?』
現れたのは新しい仲間の軍隊アリのアンだ。巣穴をイタチに水責めされてる時に助けた縁で、今は仲良しだ。
お互い巣穴を作るからな!
しかも、解体屋の別名がある彼らは俺たちより早く丁寧に、完璧な解体をしてくれる。持つべきものは友だ。
アンは女王アリの参謀で、ハチ界のハッチみたいな立ち位置だ。要するに幹部。アンなら冬籠りの準備に詳しいかもしれない。
同じことを考えたであろうルリハと頷き合って
『アン、元気さ。変わりはないか?』
『俺たちも元気さ!』
解体した時に出るゴミ(内臓とか食べられないもの)はアンたちが持ち帰る。まさにウィンウィンだ。
『アンたちは冬をどう越すんだ?』
ルリハが聞く。
『冬?巣穴に籠るぞ』
だよな?
『準備は?』
『食料庫に入れられるだけ入れて過ごす』
だよな…。
『寒さ対策は?』
『女王が火魔法で温める』
なるほど。種族が違うからな。冬籠り、やっぱりアベルに聞くしかないか。
シュン
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!』
くしゃみしてないぞ?アベルがやって来た。しかし、いいタイミングだ。
『アベル、ちょうど良かった。聞きたいことがある』
目を輝かせて何?というアベル。普通に可愛い。
ルリハは何故か優しい眼差しでアベルを見る。友達居ないんだなって顔だな、アレは。
『冬に向けての準備だ!ふかふかの布団が欲しい』
目をパチパチさせるアベル。
変なこと言ったか?
『もふもふなのに?』
この際、俺のもふもふは関係ない。
『んー仲間にしたら?』
『何をだ?』
『やっぱり羊?毛をくれるから』
それだ、そういう情報が欲しいのだ。
『でもよぉ、仲間になってくれるか?』
問題はそれだ。仲間になって?オッケー!みたいなノリにはならないだろう。何か対価がいる筈。
『んー大丈夫だと思うよ?彼らはネズミが大好きだから』
ルリハを食わせるのか?そんなのダメだ。
『好きってそのままだよ。食べないし、むしろ仲良しになりたいみたいな?』
意味が分からん。
『警戒してくれるから』
あ、そっちな。
『安全確保の為か』
『そうそう』
なら納得だ。こう見えてルリハはここらのネズミを束ねる存在だ。数が多いからな。
『俺っちの部下に見回りさせたらいいんだな!』
そうなるな。
『うんうん』
『彼らはさ、毛が伸びると痒くなるんだ。アンかスパに毛刈りをして貰えば、彼らも助かる。僕たちも嬉しい』
しれっと僕たちって言ったぞ!
まぁそれはさて置き、行くか!ルリハの頭を撫でる。ふかふかだ。そのまま俺の胸毛にダイブして来た。よしよし、可愛いぞ。
俺の胸毛を堪能したルリハは背中に飛び乗る。
『行ってくる!』
『僕も行くよー』
アベルと連れ立って羊の元へゴーだ。何故かアベルは俺を抱えている。楽だからいいけどな。
抱えている指が腹を撫でるのはくすぐったいからやめて欲しいが。
程なくして羊の群れが見えた。沢山いるな。
『みんな、元気ー?』
声を掛けた。
『めぇーーー』
各所から返事が来た。知り合いか?
『うん、まぁそれなりに付き合いはあるよ』
なら任せるか。
『毛刈りして欲しい子ー?』
シーン
あれ?そうか…もう冬が近い。今、毛を刈ったら寒いじゃないか。俺としたことが!
『毛が欲しいのか、めぇ』
『うん、冬支度でね?』
『備蓄があるよ、めぇ』
『ほんと?』
『ただでは無理だ、めぇ』
だよなぁ。
羊を見る。毛に埃とか草が絡まってるな。なら…。ルリハと目を合わせると頷く。
『体をキレイにしてやるぞ!』
もこもこな羊は俺を見る。
『魔うさぎか?珍しいな。キレイにとはいかに?』
『浄化だ!』
驚いて足踏みする。
『めぇー!それは助かる』
試しに目の前の羊に浄化を掛ける。どうだ?毛はふっかふかのもっこもこだぞ。
『おぉーこれは素晴らしい』
ふふん、ドヤっ。
『めぇーーーー』
後ろからぞろぞろ来た。
『まずはワシの備蓄毛から献上する』
おっ、もこもこじゃないか。ルリハはサクッと浄化して毛の塊にダイブしてるぞ。
あ、こら寝るな!
毛はかなりの物量で、俺の20倍以上の嵩がある。素晴らしい。羊はなんせまだまだいる。
やるぞ、おー!
…ぜぇぜぇはぁはぁ。
やり切ったぞ…まさかな。別の群れも合流するとか、ないだろ?お陰でくたくただ。
しかし、凄い量の羊毛が手に入った。これでふかふかのお布団が作れる。クッションとか枕、上着に帽子。手袋。手はないが、な。全て巣穴の床一面に敷き詰めてもまだまだ余る。蓄えるか。
この毛、スパに頼んだら布に織ってくれるだろうか?
『呼んだー?』
『おわっ』
上から垂れ下がって来た。ビックリするだろ!
ルリハなんて驚いて俺の胸毛に埋もれたじゃないか。
『ははっ、悪いな。羊毛か、上等じゃないか。色々作ってやろうか?冬の準備だろう?』
『そうだぜ!頼めるか?』
『ふっ任せろ!ただ頼みがある』
だよな?ただより高いものはない。
『俺たちに出来ることならなんでも』
スパは何故か前脚で顔を覆う。照れてる、のか…?
『冬の間、巣穴に住まわせて欲しい』
なんだ、そんな事か。ルリハは俺の胸毛から顔だけ出して
『もちろんいいぞ!室が必要なら作る。どんなのがいい?』
『卵を産むための室が欲しい』
それからスパとルリハで打ち合わせをする。巣穴の生産はいまやルリハにお任せだから。なんたって土魔法のレベルがカンストしてるからな!
スパは自分の空間魔法に羊毛を詰めて帰って行った。一部は俺たちも保管したぞ?そのまま敷物にしてふかふかを楽しむんだ。
『アベル、助かったぞ』
ニコニコしたアベルは
『良かったよ。羊たちの様子を見に行ってってママに言われてたから』
なるほどな。でも助かったのは本当だからな。
こうして俺たちの冬籠り準備は進んでいった。
それで、何故こうなる?
『ドラゴンちゃんたちも冬は眠くなるのよー?だからその前に…行ってらっしゃい!』
ドラゴンの巣に放り込まれた…アリレルママのスパルタは健在だ。マジか…鼻息の風圧だけで飛ばされる勢いなんだが?
見上げても頭が見えないほどの体格差。翼をはためかせたら、もう瞬殺。ブレスも要らないだろう。
脚に踏み潰されたらぺちゃんこだ。
俺らの目線に映るのはぶっとい前脚と凶悪な爪だけ…
『ヤベェ…』
ルリハが俺の胸にダイブして震える。
クソッアリレルママめ…
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