2.名前をつけた
考え事をしていると気配を感じた。
振り返ると小さなネズミが食料として保存していた木の実を齧ろうとしていた。咄嗟に後ろ脚でキックした。
ネズミはキュウと鳴くとパタリと倒れた。殺してはいない。牽制だ。ネズミは動かず様子見をしている。
そのネズミはそれなりに小さな俺よりもさらに小さかった。ネズミ色の、いや、ネズミなんだから当たり前か、灰色の小さなネズミだ。
なんだか人恋しく、この場合はネズミ恋しくか?なって木の実を齧った。外は固い殻だから、前歯で割って柔らかい実を齧り、更に実の中の3粒の種を取り出す。
この種はひまわりの種みたいに柔らかい。
それを倒れているネズミの鼻先に放り投げる。
キュウとまた鳴いて俺を見たネズミは種を恐る恐る手に取ると齧り始めた。
俺が見ているだけなのが分かると残りの2つも齧って食べた。食べ終わると後ろ脚で立ち上がって俺に向かってぺこりと頭を下げた。なんだか可愛いかも?
人恋しさ、いやネズミ恋しさか…に負けた気分だ。
近寄って前脚をそっと小さなネズミの頭に乗せるとビクリとする。そのままポンポンすれば大人しくされるがままだ。
キュウキュウと鳴くネズミ。
あれ?仲間にしてって言ってるのか?何となく考えてる事が分かる。
コクコクと頷くネズミ。名前付けたらいいのか?これ。
*****
俺が施設にいた頃、同学年は俺を含めて3人いた。
体は大きいのに気弱で、後にラノベにハマったルリハ。バスケ部のエースのカズハだ。
施設の子はいじめられやすい。だから自然と一緒にいることが多くなる。
ルリハは大きな目と口の一見コワモテだ。体も大きい。だが性格は温厚で心優しかった。
カズハは運動センスの塊で、近所のバスケチームから勧誘された。しかし施設の予算では遠征費やら合宿費を捻出出来ない。もちろん、ユニフォーム代も出せない。
だから本人も断った。しかし、その費用をチームが負担するからぜひにと言われてチームに加入、すぐに頭角を表してエースになった。
それでもチーム内では微妙な立ち位置だったらしく、普段は俺たちとつるんでいた。
ちなみに色白で目元の涼しげなイケメンだ。
そう、俺、ハルカ、ルリハ、カズハはみんなヤローだ。可愛らしい名前だが間違いなくヤローなのだ。
俺は基本、勉強ばかりで進学校に通った。
ルリハは猛勉強して俺と同じ進学校に。
カズハは推薦枠で同じ進学校のスポーツ科に入学。
結局、同じ高校に通った。大学はやっぱりルリハが猛勉強して俺と同じ有名な国立大学へ。カズハはやはり推薦で有名な私立大学に進学校した。
なんだかんだで大学に入ってからも時々会っていた。
大学生になったルリハはやっぱり大柄で温厚なコワモテだがそれなりに整った顔に育った。
カズハはイケメンがそのまま青年になったので、良くモテる。
俺は子供の頃から目付きが悪くて怖いと言われていた。が、小学生の高学年頃にルリハ、カズハと一緒に風呂に入った時にカズハに言われたのだ。
「ハルは睨まなければイケメンなんだね」
「あぁ?」
条件反射で睨んでしまった。
「下から見上げるように目を細めるからだよ。正面から見ろよ」
カズハに言われて確かにそうかも、と思って顔を上げて正面からカズハを見る。カズハの隣でルリハがえっと呟いた。
そして俺とカズハを見比べて
「ほんとだ…なんかきれい?」
「あぁ?」
「確かに。目つきが悪くて分からなかったけど、きれいな顔だな」
それ以降は誰かの忘れ物の度なしメガネを掛けて過ごした俺だった。男できれいとか意味不明だからな。変な女子とか男子に目を付けられても面倒だし。
なんだか不意にそんな昔の事を思い出してしまった。
そうそう、名前な…。小さなネズミに名前…、ん?その前になんだか喉が乾いたぞ。水、飲みたい。でも、外には危険がいっぱいだ。
水が飲みたい…水…と考えていたら目の前にちょうど飲み込めそうな大きさの水球が出現した。そしてなんとなく飲めると感じた。
なので口を開けてパクリと飲み込む。うん、美味い!もっと…何回か繰り返してホッとした。
あ、ネズミ…と思ったらじっとこちらを見ている。ネズミにも水を…と思ったらやっぱり水球が現れた。ネズミが口を開けて飲み込む。
何度か繰り返してネズミも満足したようだ。
そしてネズミを見ていて気がついた。なんだかくたびれている。汚れてるのか…?きれいにならないかなぁ。さっき木の実を食べたから俺の前脚も少し汚れている。気になる…きれいにしたい。
するとさわりと風が抜けるような感じがして、前脚がきれいになった。
満足して後ろ脚で立ち上がりもふもふな胸毛を撫で付けていると、視界に白いものが映った。白?
そちらを見ると真っ黒な潤んだ目でこちらを見つめるネズミがいた。ん?ネズミ色だった筈では…?
キュウ
と鳴くネズミ。白い。さらにじっと見ているとまたキュウと鳴く。
あ、名前だ。さっきあちらのことを思い出したからか、すがるようなあの目を見たからか
『ルリハ…』
言葉がポロリと出た。
キュウ!
ネズミは大きく鳴くと
『アニキ!』
えっ…声が聞こえる…?
『アニキ、俺だよ、俺!』
ネズミが小さな手を自分に付けてキュウキュウ言ってるのが分かる。
『えっと、声が聞こえるぞ?』
『アニキ!そりゃ従魔契約したからだぜ』
従魔契約…ラノベにハマってたルリハがそんな話をしていたっけか。俺自身は読んだことがないが、熱弁をふるっていたような。
いや待て、そもそも俺はうさぎだ。うさぎが従魔契約者ってなんだそりゃ。ルリハなら分かるんだろうが俺にはそれがラノベあるあるなのか分からない。
じっとネズミのルリハを見つめる。
名前 ルリハ
種族 白魔ネズミ
年齢 3ヶ月
レベル1
体力 10
魔力 100
知力 100
魔法 土魔法レベル1
従魔契約者 ハルカ
…どうやら契約したらしい。それにネズミの情報が見れた。これはなんだ?
自分の産毛に覆われたまるんとした前脚を見つめる。
名前 ハルカ
種族 白魔うさぎ
レベル1
体力 50
魔力 120
知力 500
魔法 浄化魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1 治癒魔法レベル1 new 従魔法レベル1 new
従魔 白魔ネズミ
と出た。何やらネズミに治癒魔法を施したらしい。いつだ?全く分からない。寂しい気持ちからネズミ恋しさが募ったのが従魔になった所以か?
分からない事だらけだ。
ネズミのルリハを見れば期待に満ちた目で俺を見ている。
『えっと、よろしくな?』
『うん、よろしく!』
小さな前脚を擦り合わせながらぺこりとした。なんだかその仕草までルリハみたいだ。
俺はほんの少し切なくなってルリハを腕に抱いた。ふかふかだった。小さいのにふかふかで温かい。
どうやらネズミに頬擦りする程度には気持ちが弱っているようだ。しばらくふかふかのルリハを堪能した。
少し後にルリハを解放すると
『苦しくなかったか?』
と聞いた。嫌われたら悲しいからな。するとルリハは小さな前脚をブンブン振って
『とんでもない!もふもふな胸毛が最高だったよ!』
とつぶらな瞳で言った。
良かった、取り敢えず嫌われてない。
その小さな頭を撫でる。目を閉じて嬉しそうにしっぽが振られた。
どうやら転生を自覚したうさぎ初日は寂しくなく過ごせそうだ。
食べ物はある。水も出せる。排泄は散らせる。後は寝床か…。周りを見回りしても土しかない。せめて草でもあれば。よし、快適な寝床のために草を取りに行こう!
『ルリハ、俺は今から寝床用の草を取りに行く!』
『アニキ、付いていく!俺は気配に敏感だから』
『分かった、後は任せるぞ!』
『おう!』
2匹で巣穴を出る前に周囲を探る。音、匂い、気配…大丈夫そうだな。
ルリハは俺の背中に張り付いている。まぁそれが安全だろう。
周りを見回して、草のあると思われる方向に進む。あった!背の高い草がたくさん生えている。
前脚で抑えて歯で嚙み切る。うん、面倒だな。一気にパパッと取れないかね?これ。風の刃でシュパンとかさ。
シュパン
…えっ、一陣の風が通り抜けた。俺のもふ毛がそよぐ。そして目の前の草が、風が通り抜けた部分だけ刈り取られて寝ていた。
はっ?いや、考えるのは後だ。まずはこれを持って帰って…どうやって?
自分のもふ毛に覆われたまるんとした前脚を見る。背中のルリハを見る。小さい。どうやって持って帰ろう?
つい人間の感覚だった。マジ?ヤバくね…
どこかに収納とか出来ないかな?まるんとした前脚で胸毛を撫でてお腹を撫でる。うん、何も持ってない。当たり前だ、今はうさぎだ。
カバンがあれば…どうしよう。その場で口元に前脚を当てて固まってしまった。
※読んでくださる皆さんにお願い※
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