3.当面の目標
カバンがあれば…どうしよう。その場で口元に前脚を当てて固まってしまった。知らない人が見たら可愛い絵面かもしれないが、俺は本当に頭が真っ白になった。
草をどこかにしまって…どこに?
ヒュン
…草が消えた。そして頭の中に草があることが伝わってくる。
えっと何これ?まだ固まっていると
『アニキ、なんか来る!』
あ、そうだ。今の俺は弱肉強食の最下層。巣穴以外でのんびりしてたら命の危険がある。とにかく巣穴に全力で戻った。
はぁはぁ、ドキドキした。どうやらイタチのようだ。奴らは一見可愛いが、獰猛な肉食獣だ。良かった。ふぅ…落ち着こう。巣穴に帰る途中に、ルリハは俺が背中からお腹に移らせた。
無意識にルリハを撫でて頬ずりする。それからお互いの口元に水球を出して飲む。
『プハー生き返る!いや、マジで怖かった…』
『そうだな、俺もだ。ボーッとしちゃ危険だな。ルリハ知らせてくれて助かった』
『えへへっ、アニキだって俺を庇ってくれただろ!』
少しだけどほんわかした。
『アニキ、やっぱ凄えな!亜空間収納だろ?さっきの。俺はしびれた!』
俺は笑ってしまった。人間のルリハが良くそんな言い回しをしていたから。
「ハルカ、お前凄えな!そんな問題解けるなんてさ。俺はしびれたぞ!」
目を大きく開いて俺を見て笑うルリハ。
目の前のネズミのルリハとその笑顔が何故か重なった。同じ名前だからだろうか…何故か切なくなってルリハを抱きしめる。
『アニキ…』
キュウ…と鳴くルリハ。で、亜空間って何だ?
ルリハの知力は100だから、そこまで高くなかったが?
『ルリハ、亜空間収納って?』
『アニキ、よくぞ聞いてくれた!別次元の収納だよ!アニキの固有空間にあの草を収納したんだ!凄えな。うさぎなのによ』
嬉々として語るルリハ。そんな姿もルリハに似ている。いかんな、どうも予想以上に弱っている。
『そうか、また色々教えてくれよな?』
『おう!』
今日はもう寝よう。そう思って草を取り出した。というかバサバサと出てきた。俺もルリハも草まみれになったのはご愛嬌だ。
その後も実際に寝るために草をきれいにしたり、魔法で干したりしたのだが、とにかく疲れていたのでルリハを抱きしめて寝た。ネズミのルリハは不思議と幼馴染のルリハと同じ匂いがした。
あれはまだ7才頃。ルリハが夜中に俺を揺すった。眠いのに何だよ、と思って嫌々目を開けると泣いているルリハがいた。
ルリハは俺より少しだけ後に施設に入った。慣れない環境に塞ぎ込んでいた。泣いているルリハがナツキに重なった俺は、布団をめくってルリハを俺のベットに入れた。そのまま俺にしがみ付いて泣いた。
まだ俺と同じくらいだったその体を、抱きしめて寝た事があった。その後も何度かそんな事があった記憶がある。もちろん小学生の低学年くらいまでだが。
その時の匂いを何となく思い出した気がした。
目が覚めた。パッチリと。俺は体を震わせ耳を立てる。前脚でネズミのルリハをしっかりと抱きしめていた。前脚と胸毛と腹毛に囲まれて頭としっぽしか見えない。スピスピと寝ている。うん、平和だ。
水が飲みたい、そう思ったら目の前に水球が現れる。便利だ。何度か水を飲む。排泄がしたくなる…散らす。これも慣れたもんだ。
ネズミのルリハの排泄も何となくしたいなって分かる。だからやっぱり散らした。きょとんとした顔の後、えぇーーー!って驚いてたのが可愛かった。
さて、うさぎだから木の実でも充分な食事だ。そもそも草食だしな。でもやっぱり人としての記憶が肉や魚を食べたいと騒ぐ。しかし、弱肉強食の最下層だ。危険はおかしたくない。まだ様子見だから我慢しよう。
当面の目標は
1.寝床を安全かつ快適にする
2.周囲の把握
3.自分の能力の把握
4.ルリハの能力の把握
そんなところか。
寝床は内側から穴を塞げるようにしたい。木でも石でもいい。隙間風が入らない作りだ。
空気は巣穴の上部にごく細い穴が空いているから入り口は塞いでも大丈夫な筈だ。
空間も拡張したい。寝室と居間と食堂、台所ぐらいか。あ、お風呂も欲しい。
必要な材料を探して掘ればいいかな。
寝床はもっと草を増してふかふかにして、ベットを作りたい。
居間には柔らかいクッションとソファ。座るのかは不明だがソファが欲しい。
食堂は机かな?お皿も欲しい。前脚を拭く布も欲しい。夢は広がる。
台所は基本、保管庫だ。このまるんとした前脚で料理は出来ないだろう。
となると必要な材料は
草
木
布
か、皿とかはルリハの土魔法で何とかならないかな。
後は食料の補充もだな。
木の実は保管してても大丈夫だけど、果物とかあったらすぐ食べないとかな?
でもそれだとその場でしか食べられない。うーん、これはまたどうするか考えなければ。
そこまで考えて、お腹が空いてきたことに気がつく。ひとまず、ルリハを起こそう。
もふんな前脚でルリハを起こす。
『ルリハ、起きろ!』
『ん、もうちょっと…』
『こら、起きろルリハ!』
『ハルカ、後少しだけ…』
…今何て言った?ハルカって?
『ルリハ!』
『後少しだから…』
俺は思わず
『ルリハ、院長先生に怒られるぞ!』
ネズミのルリハは目をパッチリと開けると、あわあわして
『ヤベー、ハルカ今何時?』
『…』
『ハルカ!ハ、あれ…れ?…ネズミ…?えぇーーー!』
狭い巣穴にルリハの悲鳴がこだました。
俺の前脚に包まれてしょんぼりと項垂れるネズミのルリハ。
チラッと上目遣いで俺を見る。
『あ、その…あのさ…』
もじもじしながら顔を上げると
『ハルカ、なのか…?』
俺は鼻をぷもぷも、しっぽをタンタンしてルリハを撫でる。
『そうだ。で、お前はルリハ、なのか?』
またチラッとこちらを見るルリハ。そしてコクンと頷いた。
俺は驚いた。まさかうさぎに転生した先で、ネズミになったルリハと出会うとは。どうりで昨日からルリハと重なる訳だ。
しかし俺はきっとトラックに跳ねられて死んだ。ルリハがここにいるなら、ルリハも死んだのか?
『なぁ、お前はその…何でここにいるんだ?』
死んだのか、と聞けずにそう聞いてみた。
『俺はさ、ハルカが弟を庇って死んだ後、49日の少し前に事故現場に行ったんだ。ずっと行けなくて…ハルカがいなくなった事が信じられなくて。でもまだ魂が残ってるなら連れて帰ってやろうって思ってさ。そこで手を合わせて、戻ってこいよって。ダメならどうかハルカのそばに行かせてくれてって…神様に願ったんだ』
俺がナツキに対して思ったような事をルリハは俺に思ってくれたんだな。
『だってよ、俺には兄弟がいなかったからさ。ハルカとカズハが俺にとっての家族みたいなもんで。特にハルカとは良くつるんだからな…もう会えないなんて信じたくなかったんだよ』
『それでここに転生したのか?』
『いや、死んだんだと思う。手を合わせてた時に急ブレーキの音とか危ない、って声が聞こえてな。目を開ける間もなく衝撃が来て…そこからはなんかふわふわした感じで。ハルカの事を思い出したのは、ついさっきだ。俺、何で亜空間とか知ってるんだろうって昨日思ったんだよ。まさかの前世知識とはなぁ』
そうか、ルリハは昨日じゃなくて今朝、思い出したんだな。
しかし、うさぎとネズミって何でだよな?何で人間に転生させてくれなかったんだよ。前途多難じゃないか。
『ルリハ、気持ちは嬉しいし心強いがな。俺たちは最弱だぞ?生きるのも大変だ。どうしたらいいんだこれ』
『ハルカ、俺のラノベ知識があるだろ!これはきっとレベルを上げたら人化出来るんだよ』
『人化?人になれるのか?』
『いや、種族はうさぎのままだと思うぞ。人型になれるんだ』
『それはもう人でいいんじゃないか?』
『それがなぁ、魔物の人化は見破られそうなんだ』
『マジか?レベル上げたらバレないとか無いのか?俺はナツキを探したいんだ!お前が俺を思ってここにいるならナツキもきっと…』
『うーん、今はいないかもしれないぞ?俺たちは魔物になってる。寿命も伸びてる筈だ。ならまだ転生してない可能性がある』
『そう、なのか…そうか』
ナツキの為に転生したと思うのに…うさきだし。もし見つけられなかったり、この世界にナツキが転生しなかったら?
『ハルカ、落ち込むな!まずはレベルを上げよう。そして生き抜かないとな』
『そ、そうだな…』
そうだ、自分たちの力で生きなくては。
かくして生まれて間もないうさぎとネズミは手を(前脚を)取り合って誓った。強くなろうと。
『そういやステイタスとか見れるのか?』
呟きながらルリハは目の前を見ている。
『見れた!…ショボイ…』
ルリハ
種族 白魔ネズミ
年齢 3ヶ月
レベル1
体力 15
魔力 100
知力 450
魔法 土魔法レベル1
従魔契約者 ハルカ
『昨日より知力がぐんと上がったぞ?』
『ハルカは?』
『空間魔法が増えたな…体力と魔力も少し上がってる』
『早くレベル上げたいな…』
ハルカ
種族 白魔うさぎ
レベル1
体力 55
魔力 130
知力 500
魔法 浄化魔法レベル1 風魔法レベル1 治癒魔法レベル1 従魔法レベル1 空間魔法レベル1new
従魔 白魔ネズミ
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