17.家族
私は息を吐いた。
まさかこんな事がおきるとは、な。
寄り添ってそのまま疲れて眠ってしまったミツキ。無事で良かった。
昨日、ギルマスから
「屋敷で朗報を待て」
と言われ、仕方なく屋敷で仕事をしていた。ミツキの事が気にならないわけはない。しかし、何日も放って置けるほど少ない仕事でも無い。
気を紛らわすように仕事に打ち込んでいた昼前。
「旦那様!」
いつもならノックをし、返事をしてからしかドアを開けない執事が、ノックもせずに執務室の扉を開けた。
「見つかりました!ミツキ様が!かすり傷はありますが、無事に…無事に…」
目に涙を溜めてそう伝えて来た。
「そうか…」
ベキッ
手元でペンが折れたが、些細な事だ。
私が立ち上がると
「馬車を用意してございます!」
シュタっと背筋を伸ばし、上着を私に着せて送り出した。
そうか、ミツキが無事で。
「あなた、ミツキが!」
妻が走り寄って来た。やつれたその顔は、しかし目が輝いている。
「迎えに行ってくる」
軽く抱きしめて急いで屋敷を出た。
冒険者ギルドに着くとすぐに静養室に案内された。そこで見たものは未だに信じられない光景だった。
5頭のホワイトウルフに囲まれて、スヤスヤと眠っているミツキがいたのだから。まるでミツキを守るように寄り添って、ミツキもウルフを守るように。
無邪気な顔で、ウルフのしっぽを握りしめて。
「くくくっ、流石の領主様も開いた口が塞がらんか?」
殴ろうと手を出すと避けられた。
「避けるな!」
「避けるだろう?」
ミツキのそばに行くと、ホワイトウルフが体を起こした。私の匂いを嗅ぐと興味なさそうにまたミツキに寄り添った。
そっとミツキの頬を撫でる。
少し汚れているが、元気そうだ。良かった…本当に良かった。
不覚にも涙が溢れ出した。
私は伯爵家の次男として生まれた。
次男だからと、家のために剣の道に進み、12才で領軍に見習いとして入った。
ここは国の北部。街の北側には広大な山が広がり、魔獣が多い地域だ。
だから領軍とはいえ、魔獣の討伐に出かける。その際、冒険者ギルドと手を組むことも多かった。
近隣の国とは現在、小競り合いはあるものの大きな戦争はない。だからこそ、軍は魔獣の討伐にも力を入れている。
冒険者ギルドのマスターとは若い頃に何度も衝突した。
守るべきものが違うからだ。私たちは領地を領民を守る。冒険者ギルドは冒険者を守る。
立場の違いは明確で相容れなかった。
そんな時、魔獣の氾濫が起きた。
突然、土地の魔力素が濃くなるスポットが運悪く複数発生した。魔力素が濃くなると、魔獣が凶暴化する。
そうして凶暴化した魔獣が街に大挙して押し寄せた。
領軍も、冒険者も、領民も…一丸となって討伐に当たった。戦えないものは領主館に集め、我々は各場所を守る為に奮闘した。
ようやく魔獣を討伐し終えたのは、実に1週間後だった。被害は甚大で領軍もたくさんの死傷者を出した。
そして、領主館に戻ると…そこには3体の骸があった。
なんで領主館で…?
「裏庭からはぐれが入り込みました…その数10。お館様も善戦されました…ヒロイ様も…奥様も…。しかし、も、申し訳ありません…。お守り、出来ません、でした…。う、うわぁー!」
後にも先にも、執事のセバスが感情を現にしたのはこの時だけだ。いや、ついさっき…もか。
使用人たちの啜り泣く声が聞こえる。ここは、魔獣と戦う最前線なのだ。そう、改めて思った。
必然的に次男の私に全ては委ねられた。泣いている時間など無かった。街は疲弊し、直ぐにでも動かなくてはならなかったから。
そんな時、力になってくれたのはそれまで散々衝突してきた冒険者ギルドのマスターであるブリッツだ。
「泣いてる場合じゃねえぞ?生き残っても飢え死にしたんじゃ笑えねぇ。気合い入れろ!」
そうだ、俺には守るべき領民がいるんだ。
ふと懐かしいことを思い出した。あれから8年か…。早いもんだな。
諸々が落ち着いてから授かった末っ子のミツキ。私より妻より兄に似た子だ。兄はまだ結婚すらしていなかったからな。
その子が、いつの間にか…大きくなったなぁ。生まれたばかりの小さな我が子、兄にそっくりの色を持つ我が子を見た時の喜びを思い出す。
「黄昏てるとこ悪いが、話がある」
ブリッツに呼ばれて別室につれていかれた。
そこにいたのは大きなホワイトウルフと肩には猛禽類、鷲だろうか、を乗せたまだ若い男性だ。
「紹介する。レイカ、Sランクの冒険者だ」
不審に思ってブリッツを見る。今回の騒動は全てここのギルドの不始末だ。ミツキの救出に一役買ったとして、私に紹介する理由が分からない。
「レイカと申します。伯爵様にお伝えしたい義がございます」
冒険者なのに敬語、貴族か?
「申せ!」
「ご子息、ミツキ様の件ですが。最近、ギフトを授かったとか。何か、テイマーだというような話をしていませんでしたか?」
ミツキが、か?
あの時の様子を思い浮かべる。いや、それは無い。確かにミツキは小さな頃から動物が好きだ。家で飼っているシェパードのライラとは大の仲良しで、だからもしテイマーなら喜んだ筈。あの落ち込みようからすればそれは無い。
「聞いてはいない。が、それは無いな」
レイカは考え込む。
「そうでしたか…。私が見るに、ミツキ様には類稀なテイマーの素質があります」
「何故分かる?」
そこでレイカから語られたのは衝撃的な話だった。ミツキがホワイトウルフを守った?あまつさえ、傷すら治したと…?
あり得ない、そう言いたいがミツキがしがみ付くホワイトウルフには確かに赤い血が付いていた。しかも傷口は見えなかった。そしてまるで守るようにミツキに寄り添うホワイトウルフたち。契約したのは間違いない。
「ミツキ様が何も言われないのであれば、詮索は出来ませんが」
まだレイカからは衝撃の事実が語られる。
テイマーとは契約することで、主従関係を結ぶ。従魔は主人の言う事に逆らわず、しかし自主的に行動することもない。それが一般的なテイマーだ。あくまでも主導権は主人にある。
しかしミツキは違う。そうレイカは言う。
「言葉は聞こえなくとも意思は感じられます。あの子たちはミツキ様のそばに寄り添うと決めていました。何も言われずともお守りするでしょう」
「それは契約者なのだから普通ではないか?」
「いいえ!命令しなければ守ることもしません。それが普通です」
「…」
なるほどな。ブリッツを見れば頷く。
「ミツキに指導する気はあるか?」
「はい!」
こうしてミツキの家庭教師が決まった。貴族ならば作法も勉強も教えられるだろう。
この後、ミツキに大いに驚かされることなどまだ知る由も無かった。
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
評価は任意ですが…もらえるととっても嬉しいです!
モチベーションになりますのでどうぞよろしくお願いします♪




