16.攫われた後
光を感じて目を覚ます。
ふぁ、よく寝た。ん、よく寝た…?
この状況でよく眠れる5才児、いや5才児だからか。
子犬は近くにいて、俺に気がつくと走って来た。押し倒される。ふかふかの背中を撫でる。
親犬は俺を襲う事なく、匂いを嗅ぐとどこかに消えた。そして、また木の実と果物を取って来た。鼻でぐいと押される。有り難く食べた。
子犬たちも同じものを食べている。犬は雑食だったか。
そんな日々を過ごした。逃げないのかって思うかもしれないけど、山の中を5才児が逃げらる訳が無い。
助けを待つしか無いのだ。
そうして数日経った日、親犬がよろよろと歩いて来た。
あれは何だ?なんで毛が赤く染まってるんだ…。
そして遂にドサリと倒れた。近寄るとお腹に酷い傷を負っていた。これは剣創…ならやったのは人?
「ぎゃうん!」
大きな鳴き声がしてもう1頭の親犬が吹っ飛ばされて来た。
ドサリと目の前に倒れる。
何、が…?
「ナツ、キ…」
兄さんの声が、あの光景がフラッシュバックした。
「兄さん…」
兄さん、嫌だよ…兄さん。
「おい、ここが巣穴か?皮はいい値段で売れるからな!全滅させるぞ!!」
嫌だ、嫌だよ…もう誰も失いたく無い!
俺に力があれば、俺にもっと力があれば…兄さんも瑠璃波さんも、一葉さんも守れたのに…。
「ぐるぅ…」
子犬が俺の前に立った。何をしてる?ダメだ。
巣穴の入り口から煙が投げ入れられた。これは毒?
やめろ…やめろ!
俺にもっと力が有れば!!
力があれば!!!誰にも、何も奪わせないのに…
力があれば…
ピカンッ
「うわ、なんだこれ…」
「ヤバい、逃げろ!」
「おいっ待てって!」
バタバタバタッ
ペロリと口元を舐められて気が付いた。あれ、俺は?
子犬がしっぽを振る。毒は?
効いてない…?子犬は3頭とも無事だ。ホッとする。
いや、待て。親犬はどうした?慌てて駆け出す。そこには横たわった2頭の親犬がいた。
まだ息がある。
助けたい、どうか…俺に力を!兄さん、瑠璃波さん、一葉さん、どうか俺に力を下さい…守りたいものを守れる強さを!
ピカン
「わうん!」
「わう!」
「わうわうん!」
「わん…」
「うぉん…」
ふかりとしたものが膝に乗る。目を開ければ親犬が起き上がって俺を見ていた。
真っ青なその目はとてもきれいで、俺の口元を舐めた。
「わん!」
もう1頭も俺の口元を舐めて
「うぉん!」
その頭を撫でると、すりすりして来た。良かった、助けられたんだ。
俺は泣いた。兄さんたちが助けてくれた、そう思ったから。兄さん、俺はやっと大切なものを守れたよ…
*****
旦那様も奥様もあれから殆ど食事が手に付かない。それも仕方ない。大切な坊ちゃんが魔獣に攫われたのだから。
なんでこんな事に。
ほんの少し離れていただけなのに、ミツキは魔獣に攫われた。
なぜ街中に魔獣が出たのか不明だが、実際にミツキは妻の目の前で連れ去られた。
行方は分からず、冒険者ギルドに依頼を出した。
攫った魔獣はホワイトウルフ。
無差別に人を襲うような魔獣ではなく、寧ろ手を出さなければ向かってこない知能の高い魔獣だ。
だとしたら、ミツキが攫われたのは彼らを怒らせた奴がいたからだろう。
冒険者ギルドにはその調査も依頼している。
ホワイトウルフはその白くて豪華な毛皮が王都で人気だと聞いた。まさか、密猟の為にこの街に入り怒りを買ったのか?
何にせよ、救出が先だ。
そんな時、入った連絡に唖然とした。
―ケガをした冒険者を聞き取りしたところ、ホワイトウルフを狙って森に入り、密猟していたと判明。
仕留める直前に返り討ちにあい、命からがら逃げ帰った ―
怒りで目の前が真っ赤になった。
ミツキが攫われてからホワイトウルフを見つけたら即座に通報するよう言っておいたのに。
もしミツキが生きていたら、ホワイトウルフ共々殺される可能性があるからだ。なのに、それを無視しただけではなく狩ろうとするなど。
すぐに馬車を走らせ冒険者ギルドに向かった。
ドアを蹴破る勢いで中に入るとズンズン進む。ギルマスの部屋のドアも蹴って中に入った。
「ドアに当たんなよ!」
「当たらずにいられるか!」
ギルマスは肩をすくめる。
「これからAランクパーティーが森に入る」
真剣な顔でそう告げた。
「ホワイトウルフには手を出させない」
「信用できんな!俺のミツキを危険に晒した奴らだぞ!」
「テイマーを同行させる」
睨み合いから目を逸らしたのは私だ。
「Sランクテイマーだ」
顔を上げた。任せるしか、無いのか。
「次はないぞ!」
「屋敷で朗報を待て」
仕方ない、奴に任せるしか。
ミツキ、どうか無事で…。
「お前ら、失敗は許されない。ホワイトウルフを見つけろ。手は出すな!ミツキ様の救出が最優先だ。分かったな!」
「「「おうっ」」」
「レイカ」
「あぁ」
「生きて返せ」
「承った」
頼むぞ!お前たち。
*****
あの後、親犬に認められやっと仲間になれた。でもまた人が来たらどうしよう。僕はもうこの子たちの家族だ。失いたく無い。
でも所詮は5才児。
ふかふかの毛皮と体温であっさり寝てしまった。
「ぐるぅ…」
「ぐわぁ…」
唸り声で目が覚めた。僕は飛び起きた。
また人が?緊張して体を硬くする。背中に子犬を庇って待つ。
ザクッ
来た!
「待て、私は敵じゃない!」
「…」
「ぐるぅ」
「ぐわぁ」
親犬は臨戦体勢で、姿勢を低くしている。
ザクッ
そこに見えたのは白。えっ…?この子たちと同じ?
そこには立派な体格の白い犬がいた。
うわぁきれい。立ってるだけで凛々しいその姿は輝いて見えた。
「わぉーーん!」
その犬が遠吠えする。
親犬は警戒を解かないけど唸らなくなった。
その犬はこちらにお尻を向けた。ん?
親犬は戸惑ってるみたいだ。
すると今度は後ろ向きのまま、ゆっくりとこちらに寄ってきた。
途中で止まる。
きっと自分だけしかいないと言ってるんだろう。しかもお尻を向けることで敵意がないと伝えている。
「その子は私の従魔でスカイだ。私はSランクのテイマーなんだ。レイカと言う」
Sランクの?
テイマー職でSランクなんて凄い!
「聞こえるかい?ミツキ君」
俺の名前、なら父様が依頼した?
「もし君がそこにいるのなら、そしてその子たちを守りたいなら…契約をしなさい。そうすれば意思疎通が出来る。助けられるんだ。共に、人と共に暮らすことが出来る」
一緒に暮らせるの?この子たちと??
「契約は前脚を握って額を合わせ、名前を呼ぶ。それだけだよ」
俺は親犬を見る。片方が振り向いた。父親の方だ。
「わん!」
俺の方に歩いて来た。目を合わせると前脚を挙げた。だからその前脚を握って額を合わせる。
「テッド…」
ふわん
光った?
『俺の名前か?ふん、悪くない』
と聞こえた、声が聞こえた!
「彼の話が聞こえたの?」
『いや、同胞の声が聞こえた。共にありたいのなら前脚を挙げおとなしくしていろ、と』
そうなのか、同胞の声か。
『何を呆けている?妻と子供たちも頼むぞ!』
頷く。テッドが見張りをして母犬がこちらを向く。
前脚を握って額を合わせ
「マーヤ…」
ぴかん
『あらまぁ、いい名前ね!』
ペロンと顔を舐められた。
順番に子犬も
ぴかん
「イチ…」
「リハ…」
「ルカ…」
『ナツキー!』
『名前だー』
『僕はルカ…』
俺はこの時、ホッとしたのと緊張で、前の世界の自分の名前を呼ばれた事に気が付かなかった。
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