15.気が付いたら5才
ん、何…?まだ眠いよぉ。
「…ちゃん、坊ちゃん。起きてください」
「ん、まだ寝る…」
「今日はお外に出る日ですよ!」
お外に…?お外、坊ちゃん…えっ、何それ?
パッと目を開ける。
「えっ…」
見えた風景に驚いて上げた声は高かった。へっ…?
手を見ればふにふにしてる。
小ちゃい?俺はなんで小ちゃくなってるんだ…?
「坊ちゃん、着替えましょう!」
横を見れば穏やかな顔の男性。ニコニコしてる。ここは話に乗るしか無いな。
「うん」
そのままベッドから降りて、服を着替えさせられる。あれ、なんか気合い入ってる?
これがいつもの服とか無いよな…。だって小さいながらも立派な紳士みたいな服だ。
立襟にボウタイ、ベストに上着、ハーフパンツに白い靴下、ピカピカの靴。
鏡に映った俺はいっぱしの子供紳士だった。
これが、俺…?
白い肌に金色の髪、青くてまん丸な目。ふにふにした幼児体型。
男なのに可愛い。俺ってこんなに可愛く転生したのか?
いや、転生か…これ。
マジマジと見る。どことなく兄さんに似てる?目つきは悪かったけど、遥兄さんは整った顔立ちだった。色素も薄目だったし。
確か一葉さんによる瑠璃波さんの異世界知識によると、転生は異世界への生まれ変わりで、転移は前の体で移ること。
子供になってる時点で転生だと思うけど、何才くらいかな。どう考えても生まれたてじゃ無い。
ズキッ
うわぁ!何だこれは…。
そして悟った。転生だ。今までのことが、ここで過ごした時間が雪崩のように思い出せた。何が原因か分からないけど、俺が菜月であった事を思い出したんだ。そうか、転生したのか。
ならばやっぱり俺は死んだんだな。感慨深くも無い。だってきっとここに俺を呼んだのは兄さんだから。
とこで会えるんだろう?兄さんを探さなきゃ。
いや、待てよ。もしかしてもう会ってるとか?俺の記憶が無かったから気が付いてなかったとか。
1人で鏡を見て考え込んでいたからな
「ふぉっふぉっふぉっ、見とれてますかな?初めてのお出かけですからな!さあさ、旦那様も奥様もお待ちです。行きましょう」
その人に付いて部屋を出る。
廊下を歩いて階段を降りて向かった先は食堂だった。
「おはよう、ミツキ」
ミツキ…俺の名前か?
「おはよう、ミツキ。何だ緊張してるのか?似合ってるぞ」
「ええほんと、似合ってるわ!」
そうだ、今日は5才の誕生日。教会に祝福をもらいに行くんだ。
25才のお父様に23才のお母様。
俺には兄と姉がいる。
そして俺は末っ子。
この世界では5才までは家の外に出さない。単純に危ないからだ。人攫いも魔獣もいる。もちろん、病気もあるから抵抗力のない子供は家にいる。
そして5才になると教会で祝福を受け、外に出られるようになる。
祝福ではその人に与えられるギフトを授かる。これは全員だ。ギフトの内容は自分にしか分からない。そして、そのギフトは公開しても隠してもいい。
ただ、強力なギフト、聖女や神官、剣聖や賢者などは公開の義務がある。
というか、こういうギフトは神父さんに神託が降りる。少なくとも前日まで分かるから、俺はセーフだ。
瑠璃波さんの知識ではチートも大概らしいから。今度こそ兄さんと、そして出来れば瑠璃波さんや一葉さんと平穏に暮らしたい。きっとこの世界にいる筈だから。
だから目立つ必要は皆無なのだ。
「お父様、お母様、おはようございます!」
「さあ、食べましょう」
今日はいつもより朝が早いから、兄さんと姉さんはまだ寝ている。だから3人で朝食だ。
パンとスープにサラダ、ハムとチーズ。
俺は伯爵家に生まれた。
豊かな土地ではないけれど、産業が盛んで比較的裕福な家だ。
ただ、領地の北側は山に囲まれていて魔獣が多く棲息する。そんな場所だ。
南は牧草地で、だから新鮮なハムやチーズ、牛乳は安価に買える。食事は普通に美味しい。
食べ終わると
「さあ、では行こうか」
父様に抱き上げられて屋敷を出て、馬車に乗る。
わぁ馬車だ!凄い。
まるで中世みたいだ。
と楽しんでいたのは始めだけだった。いや、揺れるわ揺れるわ。げぷっ…。下を向かないようにするので精一杯だった。
父様が抱き上げてくれて、少しマシになった。
「大人って大変…」
そのつぶやきを拾った父様が吹き出した。母様は優しく笑っている。
「ミツキはまだまだ子供でいていいのよ?」
まぁ5才だしな。
やっと教会に着いた。
今日は俺ともう1人だけらしい。先に入る。うわぁ、凄い!高い天井から明るい光が降り注ぐ。
これはまた神秘的だ。
「ようそこお越しくださいました。ブランデュール伯爵様」
「あぁ、この子がミツキだ。よろしく頼む!」
「はい、ミツキ様。初めまして。ここアルカナの教会で神父をしておりますラクロスと申します」
「ミツキ・ブランデュールです!」
壮年の神父ラクロスさんは優しく微笑むと
「元気で良いですな。こちらへ」
神様の像の近くに立つ。
「私の手の上にお手を…」
言われた通り神父さんの大きな手に自分の手をのせる。
ふわりっと何かが体に入ったような感覚。そして
―*****―
えっ何これ?
「見えましたかな?あなたのギフトですよ」
えっ…と読めなかった。えぇー!
しょんぼり。
項垂れる俺を見て父様も母様も困っている。
「ミツキ、そのな…ギフトは神様からの贈り物なんだ。良いとか悪いとか無いんだぞ」
「そうよ?あなたの為のギフトなのよ」
必死に慰めてくれる。違うんだよ、そもそも見えなかったんだ…良いも悪いも、そもそも何かわからないんだから。
でも2人に申し訳なくて、だから
「うん、そうだね!」
と答えた。だって分からないから正解がない。
そして、父様は神父さんと話をすると言って先に母様と外に出た。
少し離れた所にいた馬車を待っていると、突然世界が横になった。
えっ?
母様が遠ざかって行く。
「ミツキ!」
「ミツキ様ー!」
バンッ
「どうした?!」
「ミツキ様が…」
「ミツキーー!」
僕は苦しくて、気を失った。
ふと目が覚めた。何か温かい。うん、もう少し寝させて…あれ、寝る?
あ、俺は…確か。そっと目を開ける。ん?白い。何だこれ?そっと触れるとふかっとした。えっと。
体を動かすとふぁさと何かが顔にかかる。触るとやっぱりふかふかだ。
「はっはっ…」
ん?横を見たら目が合った。白い犬?
「はっはっ…」
犬…なの?
ベロン
うわぁ、顔を舐められた。驚いてるとしっぽがぶんぶん揺れた。その時
「ぐるぅ」
「ぐわぁ」
声がした。そして分かった。僕は連れ去られたんだって。体を見ると、お腹の辺りに血が滲んでいる。少し痛いけど、かすり傷かな。
俺を舐めたのは子犬、で後ろから出てきた2頭は多分大人。
どういう状況なの、これ。
子犬はきゃんきゃんと鳴いて俺に頭を擦り付ける。背後から匂いを嗅がれて背中にももふっとした毛が当たった。横からは膝の上に顎が乗る。
絶賛混乱中だ。
犬?に攫われたなら俺は獲物だ。なのに子犬たちに懐かれている。
親犬を見ても襲う素振りはない。どゆこと?
結局、よく分からないままに子犬にまとわりつかれ、何やら木の実まで貰い、どうすることもできずに寝た。
いや、この状況で寝るか?と思うけど、5才児にはキツいんだ。
目を覚ますと暗かった。怖い…夜の森は色んな声が聞こえる。ぎゅっと目を瞑るとペロンとされた。
耳元で
「はっはっ」
と声が聞こえる。手を伸ばせばふかっとした毛。そっと抱き寄せると大人しく腕に収まる子犬。しっぽの風圧で髪が揺れる。
少なくともこの子は味方だ。そう思ったら子犬の体温に安心してまた眠った。
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