第5話 人に変な属性をつけないでください
「改めて、氷上零です。白崎大の1年生です」
「わたくしは闇焔の狂狩人」
「この子は明石静子です」
「むっ、わたくしの真名をバラすな」
氷上さんがくだらない争いはやめましょうと懸命に止めてくれたおかげでオレ達は正気に戻れた。
今は4人で食事をしている。
「東城忍だ。こっちは一色司。同じく大学1年生だ」
「よろしくな!」
氷上さんは観念してくれたのか、食べながらも話を聞くモードになっている。
「いつもは静子がこんなに流されることないのに……」
「わたくしだってそんじょそこらのナンパ男には興味がない。零と一緒にいるとうんざりするほどナンパされるから慣れた。でも、この2人は少し違うのかも。面白い」
「それは静子が少年漫画好きなだけでは……」
「氷上はすっげー美人だもんな! 声かけたくなる気持ちもわかるぜ!」
氷上さんの周囲で今まさに次に誰が声をかけるか牽制しあっているくらいだしな。今は司がにらみを利かせて抑えてるけど。
ちなみに、司と一緒に歩いてても頻繁に逆ナンされる。そしてオレはおまけどころかのけ者扱い。
「それで、メイドカフェでしたっけ?」
「そ、そうだ! オレがオーナーのMonochromeって店をジャンク通りに開くんだぞ!」
「おっ、もしかして興味ある感じか?」
「違います。メイドには興味ありません。ただ、開業資金とかどうしたんですか? お店を開くには結構な費用が必要ですよね?」
うぐ……。探られたくない腹を……。
「レ、レアなポケモンカードをたまたま持ってて……売った」
「なにか隠してません? 挙動不審ですよ」
氷上さんがやけに鋭い視線を送る。
「これが……氷の令嬢……」
「人に変な属性をつけないでください。氷でもなければ令嬢でもないと先ほど言いました」
「そうそう、零はとても親切で優しい。それにすごく美人」
「もう〜静子は余計なこと言わないの」
え? なんかオレ達に対する態度と違くない?
「でもメイドカフェはやらないと思う。零は自分好みの服しか着ないから」
「そうです。服には拘りがあるので、特に——貴方達の店のメイド服なんか絶対着ませんよ。どうせ露出の多いいかがわしい服に違いないんですから」
座っている氷上さんの服装を見ると確かにこだわりが見受けられた。
結構なお値段がするであろう白いブラウスは、高級な天然素材で縫い合わされており、立体裁断による自然なドレープ感は彼女のスタイルの良さをこれまでかと言うほど醸し出している。
し、しかし胸が大きいな。目測でもGカップは優に越えてそうな……。
「…………じろじろ見ないでください」
は! 氷上さんがまた氷の視線でオレを睨んでいる。
「いや、いい服だなって思ってさ。肌抜けが良くて動きやすそうだし。あ、それに服だけじゃなくてアイロン掛けも丁寧にされてるなって」
「そう、ですか。服を褒められるのは嬉しいです」
氷上さんが少し上機嫌になる。ふいの笑顔にドキッとしてしまう。
これが……恋?
「零はその路線で責めると案外チョロい。撮影のときも服を褒めると笑顔になると聞いた」
「ちょっと静子……」
さっき本名をバラしたお返しとばかりに明石さんがニタッと小さく口角を上げた。
司がすかさず反応する。
「撮影? モデルでもやっているのか?」
「うむ。零は高校のときから雑誌のファッションモデルをやっている」
「マジかよ!? すげぇな!」
「ほらこれ、可愛いでしょ」
明石さんはカバンから雑誌を取りだすと、その表紙はなんと氷上さんが飾っていた。
クールな表情の氷上さんがミントグリーンのノースリーブシャツにドロップショルダー気味のデニムジャケットを合わせてポーズを決めている。
プロの撮影技術もあり、非現実的なほど突き詰められた美しさはまさに妖精のようで。
「うそだろ……。ティーン誌の表紙までやっているのか。さすがにレベチすぎるだろ……」
あれほどはしゃいでいた司が震えるほどの存在感を放つ。
信じられん美人だと思ったが、よもや天上人だったとは。
「静子、その号を見せて回るのはやめてっていったのに……」
「やだー。みんなに自慢したい」
だからこそオレも久々に胸の内を沸き立たせた。
ああ、やっぱり……着せてみたいな。オレが一番だと思うメイド服を。この子にそれを着せれたらきっとオレもまた——。
「……にしても、わかんねぇな。白崎大のモデル様がウチになんのようで? インカレサークルにでも入ってんのか?」
司が率直な疑問を述べる。
「零は……」
か細い声で明石さんが返答している最中に、周囲がざわめく。
「なんだ?」
皆が食堂の入り口に着目する。そこには10人前後の集団の姿があった。
先頭の女生徒はカツカツと高いヒールの音を食堂に響かせて、蜘蛛の子を散らす学生の群れを中央突破して闊歩する。
「司、あれは?」
「間違いない。天堂院先輩だ。ウチの演劇サークルの代表で、親が理事長と縁が深いらしい」
「周囲の学生が急に散っていったぞ」
「彼女はその横暴な振るまいから女帝と恐れられている。周囲に連れているのもサークルの連中だな。全員スクールカースト上位だ」
優美に歩く金髪の女生徒。
背が高く、彫りの深い顔で、歩く度に無差別なプレッシャーを撒き散らしている。
そして、オレ達のテーブルの横に立ち止まった。
「司、これは?」
「俺にわかるわけないだろうが」
こそこそ話をするオレ達には目もくれず、女帝は氷上さんを睨みつけた。
演劇サークルらしく、腰を回し役者然とした態度で腕を振るった。
「許可なくアタシの縄張りに押し入るとは。どういう了見なの? 零」
「……志緒里さん」




