第22話 悪役令嬢の本懐PART1
今日は最高の一日になるわ!
お屋敷の大きい鏡の前に立って、庶民に見られても恥ずかしくないよう気合いを入れてメイクをする。
お母様が教えてくれた通り、気高く、気品良く見えるように、白いフェイスパウダーをつけて濃い口紅を塗る。
以前、派手すぎとバカにした劇団員は理事長に言いつけてサークルを追いだしてやったわ!
『————お父様のよしみでアナタに付き合う理事長も大変だよね』
鏡の中の声は全く届かない。
アタシがこんなに浮かれるのも当然。
2週間前にあの憧れのGUILDからサークルに連絡があったの!
アバンギャルドで、いつも斬新な演劇を披露する新鋭の劇団。
その大胆さは、大本のSHADEにだって引けをとらないとアタシは信じてるの。
そのGUILDが、秋葉原のフェスPR撮影をするから地元の大学サークルにモデルを依頼したいですって!
依頼はサークル宛、でも当然モデルはアタシで決定したわ。他に立候補した身の程知らずもいたけど、理事長の名前を出したらあっさり譲ってくれたの。
『————そして彼女は恨み言を吐いて退会したよね』
今日が楽しみで待ちきれなかったわ!
この日のために、馴染みのデザイナーに特急でドレスも作らせたの!
アタシに似合う黒い肩だしのワンピースドレス。特急だから誰かさんのモノの上から作る形になってしまったけど、それが気にならないくらい良い出来!
『————零が連れていた黒髪の友達は悲しそうにしてたよ。アナタは何も想わないの?』
フェスに行く前に早朝から美容室に寄るわ。
彼女は昔舞台に立っていたお母様のスタイリストなの!
『————最近は小馬鹿にされているのに気がついていないの?』
きっと今日はこれまでで一番素敵な一日になるわ!
憧れのGUILDからのお誘いの撮影会!
今日を皮切りに一躍有名になって、アタシは女優になるの!
格式高い天堂院家の令嬢に相応しい晴れ舞台に立つのよ!
『————うん。そうなれたらいいな』
そう、アタシ——天堂院志緒里は敬愛するお母様のような大女優になるの!
『————そうしたらきっと、お母様もこの家に帰ってくるよね』
◇ ◇
「零! またアタシの邪魔をして!」
撮影の当日、GUILDのメンバー達と楽しく顔合わせをしていたら、リーダーの小泉さんに連れられて来たのが、この不出来な妹、氷上零。
どうやら零が無理を言って小泉さんに自分をモデルにするように懇願したらしいわね。
小泉さんは決して悪くないのよ。この愚妹があの下品な乳を使って誘惑したに決まっているのだから。
「志緒里さん……誤解なんです。私、貴方が呼ばれていたことは知らなくて……」
「うそつき! アタシに対する当てつけに決まってるわ!」
——零の虚言を信じてはダメよ。ああやってあざとく男に媚びて場をコントロールしているの。
そう言ったお母様の言葉を噛みしめる。零を信じてはダメ。
「ねぇ天堂院さん、この子知りあいなの? 何か事情があるんじゃない?」
GUILDに会いたいとアタシについてきた団員が言葉を挟む。
ああ、もう! 気が散る!
——手下に主導権を渡したらダメよ。
「アンタは黙ってなさい!」
「…………はーい」
しけた顔で引き下がる団員。そうそう、アンタらは背後に立ってればいいのよ。
これもお母様の言う通りに!
「あのーだから、ちょっとした手違いがあってですね? 金髪のおねえさんを呼んでるの俺が知らなかったんすよ」
小泉さんが零を庇うような位置取りをする。
小泉さんを挟んで責めるわけにはいかない。
ふん、仕方ないわね。零、小泉さんに感謝するのよ。
その小泉さんはGUILDメンバーに振り返る。
「まったく、お前ら俺の知らねーとこで勝手にモデル募集しやがってよ」
「いや、小泉さん! 俺らもちゃんと小泉さんに確認したっすよ。そのとき『ああ、わかった』って言ったじゃないですか」
「俺が新作のデザインしてるときじゃねーだろうな?」
「え? そのときっすけど?」
「俺がデザインしている間は集中して生返事になるから大事なことは確認するなって言っただろ!」
「ひーすみません、でも、フェスのPR動画のモデルくらい大したことじゃ……」
「大したことあるんだよ! 俺がもう声かけちまったじゃねーか!」
小泉さんは大分お怒りの様子。
そうよね。アタシという女優がいるなら、零に声をかけるなんて、とても出来ないわよね。
「なんか人集まってきちゃったけど、結局どうしようか?」
「いやさすがに2週間前から声かけてたんだし、劇団の子を優先するでしょ」
「そうよ! 先約はア・タ・シよ!」
ちゃんと主張しておきましょうね!
「この人もそう言ってるし、約束を反故にするわけには……ね?」
ふふん、やはり風向きはアタシに向いているわね。
それを受けてファッション界が注目する新鋭高校生デザイナー、小泉さんは、はぁーあと大きくため息をついた。
「お前ら、それマジで言ってんの? ガッカリだわ」
「え? ……小泉さん?」
「あのなぁ、俺達GUILDはあのSHADEのクリエイターってこと忘れてない? 俺はそんな理由で被写体を決めたりしないよ?」
「じゃあ……どうやって、決めるんですか?」
「考えるまでもねーじゃん。《《撮りたい》》と思った方を撮る。それだけだろ」
「た、確かに……」
「一利あるかも」
……いいことを言うわね。
この愚昧に身の程をわからせるいいチャンス……だわ!
「じゃあこの金髪のおねえさんを撮りたいやつ、手をあげろ」
…………へ?
…………なんで? 何かの間違いに決まってるわ……?




