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「メイド服なんか絶対に着ません」とゴミを見る目を向けていた氷の令嬢が、俺のメイドカフェになぜか毎日居る  作者: ツインテール大好き


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第18話 Project SHADE

氷上(ひかみ)さんはSHADEについて詳しいの?」


 前に食堂で会ったとき、興味があると言っていたはずだ。


「はい! それはもう、ファンなので! 東……博士は当然ご存知ですよね?」


 わざわざ博士と言い直さなくていいのに……。

 だが、SHADEについて詳しいのは事実だ。


『Project SHADE』

 SNS上の縦長ショート動画を主戦場としていた動画撮影サークル。

 当時のメインメンバーは全員学生。

 動画の内容は、異界に迷い込んだアンティークドールのような少女が、異形(いぎょう)の者や不気味な生物と対峙(たいじ)する伝奇物語。

 役者はその少女だけで、彼女自身も一切のセリフはなく、異界の伝承を巡るような連続したシナリオの奥深さが話題を呼び。

 SHADEは学生を中心に急激に勢いを伸ばし続け。

 結果、シリーズの総再生数10億回。

 数年経った今となっては法人化して多数の役者と動画制作チームを有する一大劇団に発展した。


「デザイナーさんはいつから参画していたのですか?」

「……最初の方にはもう参加していた、らしいよ」

「ええ! 立ち上げメンバーじゃないですか! もっと詳しく聞かせてください!」


 今は存在しない彼について話した途端に機嫌が戻る氷上さん。

 そ、そんなに近づかれるとボリューミーなお胸が間近に迫っていて……いかん心までおっぱい博士になってしまう。


 と、司が戻ってきた。


「列を切ってきたぞ」


 明石(あかいし)さんのところに戻ると、明石さんはタオルで汗を拭きスポーツドリンクを飲んでいた。

 司が日傘をさして明石さんを入れる。


「ふふ、いきなり人気者になってしまった。それもこの衣装のおかげ」


 明石さんもとい闇焔の狂狩人ダークネス・マッドハンターは誇らしげに胸を叩いた。


「みんな何のキャラかわかってねーみたいだったけどな。俺もわからねーし」


 司は何もわかってないようだな。


「このニワカが、これは闇焔の狂狩人ダークネス・マッドハンターと言って、普段は高校生の黒崎玲子がダークワールドの使者と闘う時の変身姿なんだぞ」

「どうして静子のオリジナル漫画の設定に詳しいんですか……この人は……」


 オレは一週間闇焔の狂狩人ダークネス・マッドハンターについて考え続けた男だからな。あの三面図に書いてあった細かい設定は全部把握ずみなのだ。


「この翼の迫力にみんな驚いていた!」


 オレがずっと頭を悩ました作品が評価されていて良かった……。あの努力は無駄じゃなかったんだ……。


「ちょっと屋内で休憩してくる」

「おー、俺も飲み物でも買ってくるわ」


 できる限りの対策はしたが、やはり炎天下での黒ドレスはきつかったのか休憩に入る明石さん。と、それに続く司。

 そしてまた氷上さんと二人きりに。


「…………」

「…………」


 しばしの沈黙。

 気まずいので周りを眺めていると、イベントTシャツと腕章を付けたスタッフ4人が隣のレイヤーさんに声をかけていた。

 その中の茶髪でアップバングの高校生くらいの男が和服を着たレイヤーさんに手を振って声をかける。


「おねえさん、その衣装良い出来ですねー! おねえさんめっちゃ美人だし、どっすか? このあとのコンテスト出てみないっすか?」


 こんなバイトみたいな男がコンテストの参加者を決めるのかよ。

 審査とはいうけど結構適当だな。


「せっかくだし広報に載せたいんで写真撮らせてくださいよ」


 一緒にいた男達がソフトボックスを装着済みのストロボと、三脚に載せた一眼カメラを設置する。

 レイヤーさんの背面が壁になるようにスペースを整理して、2灯のストロボを教科書通りに配置。光量調整などのプレチェックも素早い。


「……バイトにしては手際がいいな」


 指示を出す茶髪のバイトを残して、3人は撮影に入る。

 撮影を見守る茶髪のバイトの視線が、ふと氷上さんを捕らえた。

 やはりというか、男はぎょっと驚いた顔をした。そしてこちらに届くほど大きい声で、


「うおおおおお! エッグい美人さん発見!」


 その様子にはあ、とため息をつく氷上さん。

 そして氷上さんに詰め寄るように前に出る男。


「ねーねー、おねえさんはコスしないんっすか?」

「私は見る派なので」

「ええー、おねえさん超美人なのに勿体ないなぁ。あ、そうだ! 衣装は俺達が用意するんでなんか着てみませんか?」

「必要ないです。そんな間に合わせの衣装」

「間に合わせじゃないっすよ。すげぇ良いヤツをパパッと用意しちゃいますから!」


 男の目は完全に氷上さんに釘付けで、なかなか引かない。

 こういうとき司がいたら圧をかけてくれるのに、こんなタイミングに限っていない。

 ……よし、オレだって黙ってみているだけじゃないってとこを見せてやる。


「おい、氷上さんが嫌がっているじゃないか」


 男と氷上さんの間に割り込むオレ。

 こういうシチュエーションは何度かネット小説で見たことあるんだ。

 しつこくナンパする男からヒロインを守る主人公、みたいな。

 オレのヒロイン、氷上さん。悪くない……!


「突然氷上さんに話しかけるなんて失礼だぞ。しかも変な衣装を着せようとするなんて許さない」

「どの口がいうんですか、どの口が」


 おかしいな、前じゃなくて後ろから刺されてる気がする。


「あらら、隣のおにいさん知り合いだったんすか。ちっとも仲良くなさそうだから、気づきませんでしたよ。さーせん」


 くっ……ただの高校生バイトのくせに舐めた態度とりやがって。

 大人(だいがくせい)の余裕ってやつを見せてやるよ。


「そうだ君。わかればいいんだよ。オレはこれから氷上さんと大人の話があるんだからな」

「話って何を話すんすか?」

「SHADEのデザイナーについてこの人から教えて貰おうとしてるんです」


 そうだそうだ。氷上さんがいうとおり、オレ達はこれから大切な話をするんだぞ。


「あ、それ俺っすよ」

「「…………へ?」」


 氷上さんとほぼ同時にリアクションする。

 こいつ今なんていった。

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