第17話 あまりじろじろ見ないでください
イベントが始まり、オレ達は屋外のコスプレエリアを汗を拭いながら歩いていた。
「オイ忍見ろ! あっちで織姫のコスプレしてるぞ! いやーおっぱいでけーな!」
「でかいのはお前の声だ」
前言撤回、だな。
オレに浮かれないように釘を刺した割に、司は思いっきり雰囲気に流されている。
「それに、オレの目算によるとあの子は2枚以上はパッドを重ねている」
「は? わかるのか?」
「本来胸が大きい人の場合、体の重心が前方に偏るから背中の筋肉が身体を後ろにひっぱるような形に発達するはずだが、それが見られない」
「それだけで判断つくのか?」
「あとああやって、ポーズを決めて動いていれば胸の上下のたわみで一目瞭然だ。あれは人間の脂肪の弾力じゃない。あの子だけじゃなく、あの航海士のコスプレの子も、あっちの白衣の科学者のコスプレの子は逆にさらしを巻いている」
「夢のないことを言うんじゃねーよ! 聞きたくなかったわそんなん! このおっぱい博士が」
仕方ねーだろ。わかっちまうんだから。
「大きければいいというわけでもないが、みんなが氷上さんみたいに張りのある天然のHカップ(推定)でいられるわけじゃないからな」
なんせ人口の約0.2%だぞ。
「まったくあの中にどんだけ夢が詰め込まれてるんだか」
「随分と女性の胸に詳しいようですね」
「そりゃあだってオレは…………へ?」
後ろを振り向くと氷上さんが凄い形相でオレを見ていた。司は素知らぬ顔でそっぽを向いている。
「ひ、氷上さん!? いつから!?」
「一色くんが大きい声を出したあとからです」
全部聞かれてるじゃん……。
氷上さんが出会った頃のようなゴミを見るような眼でオレを見ている。……怖い。
「それで、だってオレは……なんですか?」
しかもその追及はマズイ。へ、下手なことはいえない。
「だってオレは…………おっぱい博士だから」
「そうですか。よーく覚えておきます」
あ、これ一生おっぱい博士だと思われるやつだ……。
◇ ◇
夏のお祭りらしく、外の屋台でかき氷を購入していた氷上さん。冷たいものが食べたかったようだ。
「あっちに静子がいますから、行きますよ。一色くん、博士」
「あの、オレを博士と呼ぶのやめてほしいな、なんて……」
「…………」
冷めた顔でスルーされる。
オレだけに冷たい氷の令嬢……。この暑さが嘘のように冷える。
「この辺りにいるはずですが……」
サマーフェスにはかなりの人間が集まっている。
初開催とは思えない熱狂だ。
その中に、
「うわ、すっげぇクオリティ……でも何のキャラなんだ?」
「キレイなドレス……でも見たことないキャラね」
「あの子お人形さんみたいで可愛いなぁ……キャラはわからないけど」
なんだろう、長い列が出来ている。
さりげなく先頭を確認すると、見知った顔だった。
「あれ明石さんじゃん!」
「あわわ……私がちょっと離れている間にあんなことに……!」
「闇ちゃん人気者だなー!」
撮影者に向けて、次々とカッコいいポーズを送る明石さん。
撮影には慣れているようだが並びが多い。
「列を切った方がいいかもな。俺が確認してくる」
司が明石さんの元に向かう。
そしてオレは氷上さんと二人きりに……。
無言でかき氷をちびちび食べ進める氷上さん。
今日は動きやすさを意識してか、白いオーバーサイズのTシャツにハーフ丈のカーゴパンツ。
ストリートキャップを被り、靴は水色のスニーカーを履いている。
髪は後ろに一束にまとめている。人気ファッションモデルのラフな素顔。直視するとこっちが照れてしまうくらい眩しい。
「あまりじろじろ見ないでください」
「いや、今日は動きやすそうな格好だなって思って……」
「そんなこと、誰でも見ればわかります」
服を褒めても今日は簡単には折れてくれない。かなり怒っているようだ。
まったく、最悪のスタートだ。
今日は氷上さんとイベントを楽しんで、もっと仲良くなれると思ったのに、喧嘩みたいになるなんて。
クソッ、背後から近寄ってくる氷上さんに気づいてさえいれば……。
真夏の太陽が照りつける中、建物の影から盛況なイベントを眺める。
カシャ、カシャッと一眼カメラのシャッター音が響く。
レイヤーさん達は色とりどりの衣装で着飾って、イメージのままにポーズを決める。
陽炎の中に、ふと、懐かしい景色が蘇った。
――あの日も、こんな灼熱の最中だった。
高校1年の夏休みに、オレ達はワンボックスカーに乗って郊外の河原で下りて、それで……。
「……許してあげなくもないですよ」
「へ?」
氷上さんの言葉で現実に帰る。
いかん、暑さのせいか一瞬意識が抜けていた。水分が不足していたかな。
「貴方の友達の『Project SHADE』のデザイナーさんについて話してくれたら、考えてあげます」
「SHADEのデザイナーか……」
「教えてください! その人がずっと探している人かもしれないんです! どことなく、衣装の構造が似ているといいますか……」
氷上さんがどうしてこんな熱心に聞いてくるのかオレにはわからない。




