第14話 氷のお姫さまPART1
むかしむかし、あるところにかわいらしいおんなのこがいました。
ふこうなことに、おかあさんはびょうきでなくなり、おとうさんはあたらしいおかあさんとけっこんしました。
ふたりのあたらしいおねえさんはわがままでいえのそうじや、おせわをおんなのこにおしつけます。
おんなのこはへやもうばわれ、えんとつのちかくのはいまみれのベッドだけがいばしょです。
はいまみれのおんなのこは「シンデレラ」とよばれ、ますますいじめられます。
そんなあるひ、おしろからぶとうかいのしょうたいじょうがとどきました。
◇ ◇
私の名前は氷上零。この春大学に入学し、今は成り行きでメイドカフェを手伝っています。氷の心は持っていないしお金持ちでもない《《極普通》》の学生です。
「内装も整ってきましたね」
メイドカフェ【Monochrome】は、モノクロを意識した壁紙が貼られ、白と黒の小物が壁際スタッキングシェルフに収められているオシャレデザインになっています。
足下まで白黒のタイルが交互に敷かれていて、築43年の古ぼけたビルの気配は完全に抜け切りました。
これも私と静子の努力の賜物です。
「おお、知らん間にメイドカフェっぽくなってる!」
「1週間、氷上と闇ちゃんにも手伝って貰ったからな。俺だけじゃ飾り付けのセンスに欠けてたから助かったぜ」
「いい、いいぞ! メイドカフェっぽくなった! メイドさんの住み処って感じだ!」
静子のドレスを引き取った翌日。
今日は東城くんは久々にお店に戻ってきました。
デザイナーさんの手伝いであるはずの東城くんですが、昨日は疲労の後が色濃く残っていて、作業の過酷さが伺えました。
デザイナーさんは大丈夫でしょうか。体調を崩してないと良いのですが。
あのハイレベルな服を1週間で用意してしまうんですから、きっと頼りがいのある大人の男性に違いありません。
「だが忍。闇ちゃんを確保したとはいえ、メイドさんはもっと必要だ」
「そうだな。まだ2人だし」
「1人ですよね? 私を頭数に入れてませんか?」
とぼける2人にツッコミを入れると。
「お、出たな」
「これが氷の令嬢の氷のツッコミ……」
「……私の得意技みたいな反応やめてください」
なんなんでしょうこの2人は。
大学一年生のこの時期にメイドカフェを経営するという意味不明な挑戦をするし、大体その資金はどこから?
成り行きとはいえこんな人たちに静子を任せて大丈夫なのだろうか……。
その静子はそんな二人をとびきりの笑顔で見守っています。やけに上機嫌ですね。
「しかし氷上もなんだかんだ毎日来てくれるよな」
「氷上さん、や、やっぱりメイド服が気になってるんじゃ……」
あ、また東城くんが変態的な目で私を見ています。特に胸のあたりに視線が集まるからわかりやすいんですよね。
彼はメイド服につよいこだわりがあり、定期的に私にメイド服を着せようとする変態なので油断なりません。
静子のために頑張ってくれたことは感謝しますが、ここははっきりお断りしておくべきでしょう。
「メイド服なんか絶対に着ません! 私はその件に関しては氷の令嬢なので!」
「っ……自分を氷の令嬢と認めるほどに嫌なのか……」
「氷上の意思は固い。諦めて俺ともう一回ナンパしようぜ」
東城くんの肩を叩く一色くん、それを満面の笑顔で見守る静子。
…………何? どうしてそんなに機嫌がいいの?
さりげなく静子に近寄ると、どうやらノートに絵を描いているようでした。
静子は同人活動をしていて、オリジナルの同人誌を定期的に売っています。作ってもらった衣装もそのキャラクターです。
やたらと難しい漢字が並ぶその漫画は独特な世界観ですが、まあまあの人気があるようで、ファンも多いです。
「静子、また漫画を描いているの?」
「うん! でもこれは新しい試み」
さっとノートをスライドさせ、私の前へ。どれどれ……。
描かれているのは美麗なイラストで、赤髪の男の子と黒髪の男の子の会話でした。
『忍! 明日がオープンなのにメイドさんがひとりもあつまらねぇ! どうする!』
『こうなったら背水の陣だ。司、お前がメイドになるしかねぇ(ドンッ!)』
(ふりふりのメイド服を押し付ける忍)
『なっ……(赤面)。ふざけるな! 俺にメイドなんか、務まるわけねぇだろ!』
『できねぇじゃねぇ、やるんだよ。ほら、返事は、なんていうんだっけ?(アゴクイッ)』
『クッ(屈辱的な顔)。わかりました……忍、ご主人様……(上目遣い)』
『つ、司(ドキン!)』
ほあああああああああああ!
なんてものを描いているの! この子は!
「「メイド服なんか絶対に着ねーぜ!」と高をくくっていた相棒が、オレのメイドカフェのメイドを毎日やっている」
それがタイトル!? タイトルなの!?
「ちょ……なんてものを、貴方いつのまに……」
半分軽蔑を混ぜて、横目で睨みます。
「試しに描いてみたら案外悪くない」
「……消しなさい」
「わかってる。ちょっと魔が差しただけ」
静子が昔から男同士の恋愛ものを嗜んでいるのは知っていますが、まさかあの2人をモデルに漫画を描くなんて……。2人とも美化されすぎですが。
そういう私はあまりそういったものに心を惹かれないのです……(本当ですよ!)
「おい!」
一色くんの呼びかけに、2人でビクッと跳ね上がります。まさかバレたんじゃ……。
「行くぞ、メイドカフェに」
「へ……」
「何故です?」
「見ろ、また忍がメイドさん欠乏症になりかけている」
東城くんは、秋葉原のフリーペーパーを眺めながらブツブツ何か言っています。
「この銀髪のメイドさんに癒やされたい癒やされたい」
「もうこの人秋葉原じゃないと生きていけないじゃないですか……」
「2人も行くぞ。せっかくだし接客の見本として吸収してこい」
「ラジャー」
「……私は行きませんよ。今日はこれから用事があるので」
でも、何だかんだいって開店に向けて仲間達と作業をすることが楽しいと思う自分もいます。




