第13話 メイドさんの魔法がかかったオムライス
被服室の前。
あれだけ毎日通っていたドアが、病院の手術室のように重く感じる。
「入っていーよー」
先輩の声がした。
扉を開けると——満面の笑みをした明石さんが、オレが作ったドレスを着ていた。
「あっ、忍! 司!」
明石さんがこちらを向く。
自前のカチューシャとリボンをつけて、オッドアイのカラーコンタクトを入れた彼女は、あの三面図通りの闇焔の狂狩人だった。
あのキャラのデザインは元々自分をイメージして描いたのだろう。
明石さんはクールな普段に似合わず、キラキラと子供のようにはしゃいでいる。
「凄くいい! わたくしのイメージよりずっと良かった! 動きやすくて、軽くて、翼もちゃんと生えてる! プロのデザイナーと友達だって、嘘じゃなかったんだ!」
「……そ、そうか。気に入ってくれたなら、良かった」
それは大嘘だけどな。
「忍も手伝いをたくさんしてくれたとおねーさんに聞いた。ありがとう!」
ああ、嫌われてなくて良かった。
「だから杞憂だっていったろ? なあ」
「……うん」
ひとまずは明石さんが喜んでくれたようで安心した。
一方の氷上さんはドレスをずっと凝視して。
「……似ているような、似ていないような」
なんかブツブツ呟いている。どうしたのだろう。
「あっ……東城くん! 聞きたいことが山ほどあるのですが!」
それからの質問攻めは特殊なプレイかと思うほど凄かった。氷上さんは存在しない《《彼》》に対する興味が尽きないようである。メモまで取ってるし。
存在しない人間について応えるのは骨が折れる。
でも、一週間振りに見た氷上さんはやはり綺麗で。オレが選んだメイド服を着て欲しいと思った、すごくすごく。
あといい匂いがする。なんで女の子っていい匂いがするんだろう。先輩からは常に酒の匂いがしたけど。
「デザイナーさんの出身はどちらなんでしょう?」
「えっ、東の方?」
「東北地方ということですか?」
「う、うん多分……」
「8年前はどこにいましたか?」
「し、知らないけど」
何を仮定した質問なんだろう。それは。
「しかしこれだけ出来が良いと受賞も狙えるかもな」
「いける。あまりにも傑作」
盛り上がる司と明石さん。なんか距離近くない? オレが1週間ずっとフリルしてた間にこいつ2人と距離縮めてたりしないよな?
もし氷上さんにまで手を付けてたら、さすがに処刑する絶対絶対絶対絶対……。
「……で、受賞って何?」
「ああ、明石さんが参加するコスプレイベントだけどさ。イベントの1つにコンテストがあってコスプレの完成度を競うらしいぜ」
「へぇー」
「他人事みたいに言うなよ。俺達の進退もかかってるのによ」
「なんで?」
「チーム【Monochrome】としてエントリーしたからな」
「受賞したらアピール出来る! 大チャンス!」
「明後日はみんなで静子の応援をしましょう!」
オレがいない間に色々と話が進展してるじゃん。オレがオーナーなのに……。
「フィッティングが終わったらまたスープカレーに行きたい」
「あ、私はちゃんぽんが食べたいです」
「いやいや、近くのサイゼでいいだろ。安いぞ」
仲いいな。
オレが寝る間も惜しんでフリル地獄にハマってる間に色々イベントを取りこぼしてる気がする。
何? この疎外感は……。
「あ、今日は東城くんがいたんでしたね。お久しぶりに会ったわけですし、何か食べたいもののリクエストはありますか?」
…………え? よく考えたらさ、オレと氷上さん達の関係は1週間前に2,3時間会話しただけの司の友達ってコト!?
だってそれからオレはずっと服作ってて、反対に3人はほぼ毎日会ってあんなことやそんなことしてたってこと!?
オレひとりだけがシャボンディ諸島から2年後に飛ばされた麦わら海賊団ってこと!?
嘘だろ、氷上さん達と一緒の時間より先輩と過ごした時間の方が何倍も長いじゃん。オレはずっと明石さんのこと考えて服作ってたから今の今まで気がつかなかったけどさ!
真実に気づいてしまい、疲労感がどっと襲う。
「あの……東城くんは何か食べたいものありますか?」
「メイドさん」
「…………へ?」
「メイドさんの魔法がかかったオムライス」
「ええ……?」
「ああ、メイドさんに会いたい会いたい会いたい。頑張ったオレに優しく、フリフリのメイド服でご帰宅したオレに魔法をかけて欲しい欲しい欲しい」
「まずい! 忍がメイドさん欠乏症に陥った!」
「なんですかそれは……」
「ここ連日の疲れが爆発したようだ。こうなった忍はメイドさんに魔法をかけて貰わないと治らねぇ」
結局この日は司がオレを労ってロイヤルホストに連れてってくれた。
オレが頼んだメニューは当然、ロイヤルオムライス。
明石さんと先輩が申し訳程度に魔法をかけてくれたので、オーダー通りの夕食だった。
1週間振りのまともな食事は心に染みたという。




