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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第八十六話「覚醒の甘い罠と暗躍する影」

すみません。遅くなりました。

台湾祓清愛哀歌:第八十六話「覚醒の甘い罠と暗躍する影」

1.電脳空間の噂と和音の着信

台北の空にどんよりとした雲が垂れ込める、湿度の高い朝。 双霊相談事務所の土間では、佐藤蓮が深く息を吸い込み、鋭い呼気と共に八極拳の套路(型)を打ち出していた。「フッ……ハッ!」という規則正しい踏み込みの音が、古い建物の床を小さく震わせる。道士として気脈を整え、基礎体力を維持するための欠かせない日課だ。

「先輩、お疲れ様です。……ちょっと、嫌なものを見つけちゃいました」

デスクの上の分厚いiMacのモニターから顔を上げた李美鈴が、マウスをカチカチとクリックしながら眉をひそめた。

「どうした、後輩さん」 蓮が首にタオルをかけながら覗き込むと、画面にはアンダーグラウンドなネット掲示板が表示されていた。

「最近、ネット通販で『霊感覚醒サプリ・開眼丹』っていう怪しい錠剤が流行ってるみたいなんです。飲むだけで幽霊が見えるようになり、運気が上がるとか……」

「そんな馬鹿な。霊能力がサプリで身につくなら、俺がウェイ師匠の下でどれだけ苦労したか……」

蓮が呆れたようにため息をついたその時、美鈴の折りたたみ式携帯電話が、ピコピコとした和音の着メロを鳴らした。画面の小さな液晶には、市役所の林担当員の名前が光っている。

「はい、美鈴です。……えっ? 大学生が三人、急性精神錯乱で搬送? 全員が同じサプリメントを……?」 美鈴の顔色が変わる。どうやら、画面の中の「噂」は、すでに現実の被害を生み出していたようだ。

2.強制的な「見鬼」と呪詛の痕跡

二人は黒のカローラ・アルティスに乗り込み、指定された市内の総合病院へと急行した。 林の案内で通された隔離病室には、焦点の合わない目で 허空(こくう)を睨み、「来るな、あっちへ行け!」と怯えて暴れる男子大学生がベッドに縛り付けられていた。

「林さん、彼は?」

「昨夜、自室で倒れていたそうよ。部屋からは、ネットで買ったという例の『開眼丹』の空き瓶が見つかって……。精神科の薬も効かないから、霊障の可能性が高いと判断して急いで呼んだの」

美鈴は静かに目を閉じ、自身の見鬼の力を研ぎ澄ませた。分霊の黒犬・シャドウも、ベッドの下から唸り声を上げる。

「……ひどい。これはただのサプリじゃありません。中に『呪詛』が練り込まれています」

美鈴の言葉に、蓮と林が息を呑んだ。

「呪詛だと? 誰かに危害を加えるための?」

「いえ、もっと悪質です。このサプリは、服用した人間の精神の防御壁を強制的に破壊し、一時的に霊界と波長を合わせる(チャネリングさせる)術式が組まれています。霊感のない一般人が急に無数の低級霊や怨念を視せられれば、当然、精神が耐えきれずに崩壊します」

大学生の周囲には、開いてしまった彼の「波長」に引き寄せられた低級霊たちが、どす黒い霧のような塊となって群がり、彼の精神を貪ろうとしていた。

3.結界と強制送魂

「原因が分かれば対処できる。後輩さん、群がっている霊の正確な位置を!」

「はい! ベッドを中心に、半径2メートルのドーム状です!」

蓮は一切の躊躇なく、懐から数枚の符を取り出し、病室の四隅へ向けて投擲した。

「道法無辺、急々如律令!」

符が淡い光を放ち、大学生の周囲に強固な結界が展開される。霊界との強制的な繋がりが遮断され、病室内に充満していたおぞましい冷気がピタリと止んだ。 大学生に群がっていた低級霊の塊が、行き場を失い結界の中で暴れ回る。

蓮は帰真剣を静かに引き抜き、剣先をその黒い霧の核へと向けた。

「他人の遊び(サプリ)に呼び出されて災難だったな。あるべき場所へ帰れ」

「帰真(グイジェン)!」

蓮の力強い真言と共に、剣から放たれた清浄な波紋が黒い霧を貫いた。群がっていた霊たちは浄化され、光の粒子となって消え去る。 同時に、大学生を縛っていた呪詛の波長も断ち切られ、彼は糸が切れたように深い眠りへと落ちていった。

「……終わりました。彼、もう大丈夫ですよ」

美鈴がホッと息をつき、シャドウを影へと戻した。

4.暗躍する枢栄会(すうえいかい)

その頃、台北市内のとある薄暗い雑居ビルの一室。

「あーあ。せっかく『開眼丹』がバカ売れしてたのに、どこかの誰かさんに術式を解除されちゃったみたいね。クレームが来る前にサイトは閉鎖っと」

派手なネイルの指でキーボードを叩きながら、張麗華(ジャン・リーファ)は呆れたように笑った。彼女の目当ては金だけだ。口座に振り込まれた大金を確認し、満足げに鼻を鳴らす。

「姉さん、気にするな」 部屋の奥、旧日本軍の古びた資料に囲まれたデスクで、弟の張志豪(ジャン・ジーハオ)が不気味に目を光らせていた。

「あれはほんの実験だ。凡人どもの精神を霊界に繋げれば、あの『門』の所在を掴むヒントになるかと思ったが……やはり一般人の脳では耐えきれんか。だが、私の呪詛の理論は完璧だ。次こそは必ず……」 狂気を孕んだ天才のつぶやきは、雑居ビルの闇の中へ静かに溶けていった。

5.夜市に漂う胡椒の香り

「はぁ〜、今回のは悪質でしたね。呪詛をネット通販で売るなんて」

帰りの車内、美鈴は助手席で大きく背伸びをした。

「ああ。裏で糸を引いている組織……『枢栄会』の手口かもしれないな。今後も似たような事件が起きる可能性が高い。呉さんにも情報収集を頼んでおこう」 蓮は片手でハンドルを握りながら、表情を引き締めた。

「そうですね……。あっ、でもその前に!」

美鈴 は言った。

「呪詛の解析で頭を使ったら、お腹がペコペコです! 先輩、あそこの夜市に寄りましょう!」

美鈴が指差したのは、煌々と提灯が灯る饒河街(ラオハージエ)観光夜市だった。

「いいだろう。今日は俺も腹が減った」

数分後、二人の手には、夜市名物の「胡椒餅(フージャオビン)」が握られていた。 炭火のタンドールのような窯でこんがりと焼き上げられた生地をかじると、中から熱々の肉汁と、ピリッとスパイシーな黒胡椒の香りが弾け出す。

「はふっ、熱っ! でも美味しい〜! お肉がゴロゴロ入ってますよ!」

「焦って食べるなよ、火傷するぞ。……うん、確かにここの胡椒餅は絶品だな」

蓮は片手に冷たい豆漿(トウジャン:甘い豆乳)を持ち、夜市の喧騒を心地よく感じながら頬を緩めた。足元ではシャドウが、美鈴から胡椒のついていない端っこの生地をもらって嬉しそうに尻尾を振っている。

姿を見せない悪意がネットの海に潜む時代。それでも、彼らの絆と確かな温もりがある限り、この街の夜は守られていく。香ばしい胡椒の匂いに包まれながら、二人は笑顔で次の屋台へと歩き出した。



皆様へ連絡です。ハーメルンで二次創作小説を投稿してます。その関係で今後は一話づつの小説の投稿となります。

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