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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第六十三話「愚者のバスツアーと辛亥隧道(四大心霊スポット篇・一)」

台湾祓清愛哀歌

第六十三話「愚者のバスツアーと辛亥隧道(四大心霊スポット篇・一)」


1.合同依頼とエセ霊媒師の残骸

春節の喧騒がすっかり過ぎ去り、台湾にじっとりとした湿気が戻り始めた頃。

双霊相談事務所のソファには、台北市役所の林担当員と、警察の陳巡査部長が、示し合わせたように深い溜め息をついて並んで座っていた。


「……つまり、悪徳旅行会社が『台湾四大心霊スポット巡り』なんていう不謹慎極まりないバスツアーを企画したと?」

佐藤蓮が、急須から温かい烏龍茶を二人の湯呑みに注ぎながら尋ねた。


「ええ、その通りです」

林担当員が疲れた顔で頷く。

「ご存知の通り、現在では幽霊の存在は科学的に実証され、霊障は現実の脅威です。だからこそ祓清には国家資格が必要なのに、彼らは無資格の『エセ霊媒師』を雇い、面白半分で素人の客を危険地帯に連れ込んだんです」


「結果はお察しの通りだよ」

陳巡査部長が苦虫を噛み潰したような顔で続けた。

「ツアーの参加者20名のうち、数名が行方不明になり、数名が原因不明の昏睡状態に陥った。我々警察が突入して悪徳業者とエセ霊媒師は詐欺と業務上過失致傷で逮捕したが……医学的にも警察の捜査でも、被害者たちの目を覚まさせることはできない。そこで、台北市役所と台北警察からの『合同特別依頼』として、君たちに事態の収拾をお願いしたいんだ」


李美鈴はiMacのキーボードを叩き、警察から提供された資料を画面に表示させた。

「昏睡状態の人は、魂の一部を現地に『置いてきぼり』にされている霊障ですね。……四大心霊スポット。すべて回って、被害者の魂を取り戻し、怒り狂っている現地の霊を鎮める必要があります」


「自業自得とはいえ、素人を放っておくわけにはいかないな。よし、引き受けよう」

蓮が帰真剣グイジェンジエンを手に取ると、美鈴の足元で黒い分霊の犬・シャドウが力強く「ワン!」と吠えた。


2.第一の地:辛亥隧道(シンハイ・トンネル)

黒のトヨタ・カローラ・アルティスが最初に向かったのは、台北市内にある第一のポイント「辛亥隧道」だった。

隣接する市立第二葬儀場や広大な墓地の影響で、古くから台湾屈指の心霊スポットとして名高いトンネルである。深夜のトンネル内は不気味なほど閑散としており、オレンジ色のナトリウムランプがねっとりとした闇を照らしていた。


「後輩さん、資料によるとここで昏睡状態になったのは、大学生の男の子だったな」

運転席の蓮が、トンネルの中腹で車を路肩に停めながら言った。


「はい。エセ霊媒師がここで『霊を呼び寄せる降霊の儀式』の真似事をした直後、男の子が倒れたそうです」

美鈴は車を降りると、ケルト系魔術で霊感を研ぎ澄ませた。彼女の翠色の瞳が、トンネルの壁面に渦巻くどす黒い霊障を捉える。


「……最悪です。ただでさえここは葬儀場の近くで悲しみが集まりやすいのに、エセ霊媒師のデタラメな儀式が『霊への侮辱』として伝わり、無数の霊を激怒させています。あそこ、トンネルの非常電話の前に……魂を捕らえられた大学生がいます!」


3.怒りのメガホン

「シャドウ、男の子の魂を守って!」

美鈴の叫びと共に、シャドウが黒い疾風となってトンネル内を駆け抜け、うずくまる半透明の少年の魂の前に立ちはだかった。周囲からは、無礼な生者に対する怒りで凶暴化した霊たちが、黒い霧となって少年に襲い掛かろうとしている。


「全く、霊感のない素人が面白半分で霊を煽るからこうなる。……後輩さん、少し荒療治になるが、一気に分断するぞ!」

蓮は懐から分厚い符の束を取り出し、手裏剣のように連続して投げ放った。


「道法無辺、急々如律令!」

展開された複数の結界が、少年の魂を安全なドーム状に保護し、同時に周囲を取り囲んでいた怒れる霊たちを壁際へと乱暴に押し込めた。


「ギィィィッ!」

脳を直接揺さぶるような霊障の叫び声がトンネルに木霊する。物理的な音ではないが、普通の人間ならこれだけで発狂しかねない念の奔流だ。


「怒る気持ちは痛いほど分かる。現世の愚か者が、あなたたちの静寂を乱してすまなかった」

蓮は黒い布を払い、帰真剣を静かに抜き放った。

彼は霊の姿こそ視えないが、怒りの気配と美鈴の視線から、その「核」となる悲しみの中心を確実に見据えていた。


「だが、生者を道連れにしても、あなたたちの心は救われない。その怒りごと、俺が断ち切ってやる」

蓮は八極拳の力強い踏み込みでコンクリートの床を鳴らし、高く跳躍した。ナトリウムランプの光を反射した剣身が、美しい弧を描いて振り下ろされる。


「帰真――本来の姿へ還れ」

真言と共に、鋭い送魂の剣閃がトンネル内の淀んだ空気を一刀両断した。

激しく渦巻いていた黒い霧が、嘘のようにスッと晴れ渡る。美鈴の目には、怒りから解放された霊たちが安らかな顔を取り戻し、光となって天井へ昇っていくのが見えた。


同時に、結界の中で震えていた少年の魂も、肉体の待つ病院へと引き寄せられるように、ふっと空中に溶けて消えていった。


4.四大スポット巡りの幕開け

「ふぅ……。終わったな」

蓮が帰真剣を鞘に収め、額の汗を拭った。


その直後、蓮の携帯電話が鳴った。陳巡査部長からだ。

『佐藤君か! 今、病院から連絡があった。昏睡状態だった大学生の意識が戻ったそうだ! 全く後遺症もないらしい!』


「了解しました。第一のポイントはこれで『祓清』完了です」

蓮が電話を切り、美鈴に向かって親指を立てると、美鈴はシャドウの頭を撫でながら嬉しそうに笑った。


「さすが先輩! これで一人目は無事に救出できましたね。でも……」

美鈴は手元の資料のページをめくった。

「残り3箇所。昏睡状態の被害者だけでなく、行方不明者もまだいます。次は台北を離れて、台中方面へ向かうことになりそうです」


「ああ。台湾全土の四大心霊スポットを巡るロードムービーになりそうだな。後輩さん、車のガソリンと、道中の買い食いの資金は十分か?」

「ふふっ、林さんから出張経費を前借りしてきたのでバッチリです! 台中に行ったら、絶対に太陽餅(タイヤンビン)を食べましょうね!」


「ははは、たくましいな」

蓮は苦笑しながら、カローラ・アルティスのエンジンをかけた。

愚かな人間の好奇心が引き起こした、前代未聞の心霊バスツアートラブル。双霊相談事務所の二人は、残る被害者たちを救うため、深夜の台湾を南へと走り出した。


(四大心霊スポット篇・二へ続く)

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