表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
PR
63/64

第六十二話「再会の土産と摩天楼再び」

第六十二話「再会の土産と摩天楼再び」


1.事務所に揃ったふたつのピース

春節の喧騒が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた台北市大同区。

数週間ぶりにシャッターが開いた双霊相談事務所の中には、和やかな笑い声と、お茶の香りが漂っていた。


「はい、美鈴ちゃんには約束の『白い恋人』と『明太子』。それから陳巡査部長には日本の麦焼酎で、林さんには抹茶の焼き菓子だ」

佐藤蓮がスーツケースから取り出した土産をテーブルに並べると、李美鈴は目を輝かせて歓声を上げた。


「わあーっ! ありがとうございます、先輩! これが食べたかったんです!」

美鈴の足元では、分霊の黒いラブラドールレトリバー『シャドウ』も、久しぶりに会う蓮の匂いを嗅いで嬉しそうに尻尾を振っている。


「いやあ、いつもすまないねぇ、佐藤さん。非番の日に寄った甲斐があったよ」

制服姿の陳巡査部長が、焼酎の瓶を嬉しそうに撫でた。


「李さんからの香港の月餅と中国茶も、市役所の皆で美味しくいただきますね。……それにしても、お二人が無事に帰ってきてくれて本当に良かった。お互い、母国で一人で祓清をして大変だったと聞きましたよ?」

市役所の林担当員が、温かいお茶をすすりながら微笑む。


「ええ、本当に……」

美鈴が明太子の箱を抱きしめながら、しみじみと頷いた。

「私一人じゃ、幽霊を見つけても送魂ができなくてボロボロでした。やっぱり、先輩の剣がないとうちの事務所は成り立ちません」


「俺の方こそ、後輩さんの『目』がない暗闇での祓清は二度と御免だ。お互い、離れてみて初めて自分の半身の重要性に気づいたよ」

蓮が苦笑いしながら肩をすくめると、陳巡査部長と林担当員も顔を見合わせて温かく笑った。


和やかな空気の中、春節の土産話に花が咲く。しかし、幽霊が隣り合わせのこの街は、彼らに長い休息を許してはくれなかった。


2.休む間もないSOS

ピロリン、と。

事務所の空気を切り裂くように、デスク上のiMacから鋭い通知音が鳴り響いた。


「……緊急のメールです」

美鈴の表情が、ただの少女から『国家公認祓清技能士』の顔へと一変する。彼女は素早くキーボードを叩き、暗号化された依頼フォームを開いた。


「先輩、大変です。場所は信義区の『台北101』……その低層階にある巨大な商業施設からです。白昼堂々、高級ブティックのフロアでマネキンが勝手に動き出し、ショーウィンドウのガラスが次々とひび割れているそうです。買い物客がパニックになっていて、現在フロアを封鎖中とのこと」


その報告を聞き、林担当員がハッと顔を上げた。

「台北101の商業施設……! さっき市役所の防災課にも『緊急性の無い、設備の一部不調』として第一報が入ったばかりの案件です。まさか、霊障だったなんて」


「世界最大級の超高層ビルか。あそこには世界中から莫大な富と、大勢の人間が落とす『欲望』が渦巻いている。何が引き寄せられてもおかしくはないな」

蓮は立ち上がり、壁に立てかけてあった黒い布包み――愛剣『帰真剣』を手に取った。


「陳巡査部長、林さん、せっかく来ていただいたのにお茶出しもそこそこに申し訳ない」

「気にしないでくれ! 現場の周辺警備や野次馬の整理は、管轄の警察にも連携して対応させる。君たちは祓清に集中してくれ!」

陳巡査部長が力強く請け負い、林担当員も「市役所側での事務手続きは私が全て取りまとめます。気をつけて!」と二人を送り出した。


3.摩天楼への出陣

黒のトヨタ・カローラ・アルティスが、春節明けの台北の街を信義区へ向かって疾走する。

運転席の蓮は、助手席でパソコンを広げて建物の図面を確認している美鈴に声をかけた。


「長旅の疲れは残っていないか、後輩さん」

「全然平気です! 先輩のお土産を見て、すっかり元気が出ましたから。先輩こそ、日本の怪異相手に無茶をして疲れているんじゃありませんか?」

「俺も、君の淹れてくれた中国茶で完全に目が覚めたよ。それに――」


蓮は前方のフロントガラス越しに、天を突くようにそびえ立つ巨大な摩天楼『台北101』の偉容を見据えた。


「隣に君の目と、シャドウの鼻がある。今度は暗闇の中で素振りをする必要はないからな」

「はい! 私が絶対に見つけ出します。だから先輩は、思う存分剣を振ってください!」

美鈴の足元で、シャドウが「任せておけ」とばかりに力強く吠えた。


4.欲望のショーウィンドウ

現場である台北101の商業施設に到着すると、既に一部のフロアはシャッターが下ろされ、物々しい空気に包まれていた。


特別通用口から内部へ足を踏み入れると、きらびやかな大理石の床や高級ブランドのロゴが並ぶ空間に、似つかわしくないドロドロとした冷気が充満している。

蓮には姿こそ視えないが、肌にまとわりつくような悪意のない、しかし巨大な「混乱」の気配を感じ取っていた。


「……すごい数の念が混ざり合っています。誰か個人の霊というより、この場所に集まった人々の『見栄』や『嫉妬』が、霊界の門から漏れ出た古い霊気と結びついて、ひとつの巨大な塊になっているみたいです」

美鈴がケルトの術式を展開し、翠色の瞳で異界の気配を捉えながら言った。


「なるほど、富の象徴が生み出した副産物か。だが、これ以上この街で好き勝手はさせない」

蓮は帰真剣の布を解き、静かに鯉口を切った。


「位置とタイミングは任せるぞ、後輩さん」

「了解です、先輩! シャドウ、行くよ!」


休む間もなく訪れた巨大な摩天楼での霊障事件。しかし、二人の心に不安はない。

互いの存在という最高の「ピース」を再び手に入れた双霊相談事務所のバディは、深い信頼と共に、欲望渦巻く大理石の戦場へと力強く足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ