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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第五十七話「緑野香坡の迷い子」

ホラー日間ランキング3位に入りました。皆様ありがとうございます。特に評価してくれた方、お名前は存じ上げないですが、ありがとうございます。貴方のおかげです。

第五十七話「緑野香坡の迷い子」


1.丘の上の閑静な異変

台北市郊外、新北市新店区の山腹に広がる巨大な住宅街「緑野香坡リュエシャンポー」。緑豊かで閑静なこのコミュニティは、都市部の喧騒から離れたベッドタウンとして知られている。

しかし現在、双霊相談事務所のiMacの画面には、その穏やかな名前とは裏腹な、切実なSOSが映し出されていた。


「先輩、今度の現場は新店の緑野香坡です。ここ数週間、特定の区画で夜な夜な『鞠突き』のような音が響き、住民が深刻な睡眠障害と金縛りに悩まされているそうです」

李美鈴が、プリントアウトした住宅街の地図に赤いペンで印をつけながら言った。


「なるほど。山を切り拓いて作った土地は、地脈の流れが変わりやすく、行き場を失った霊が滞留しやすいからな」

佐藤蓮は、八極拳の套路で流した汗をタオルで拭い、傍らの帰真剣を手に取った。

「悪意のある呪詛ではなさそうだが、住民の健康被害が出ているなら放っておけない。行こうか、後輩さん」


美鈴の足元で、分霊の黒いラブラドールレトリバー『シャドウ』が、主人の外出を察して嬉しそうに尻尾を振った。


2.坂道で弾む音

黒のトヨタ・カローラ・アルティスは、曲がりくねった急な坂道を登り、緑野香坡の奥深くへと進んでいった。車を降りると、山の冷涼な空気が頬を撫でるが、指定された区画には、肌にまとわりつくような不自然な重さがあった。


蓮には幽霊の姿は視えないが、長年の経験から「そこに何かがいる」という気配だけは感じ取れる。

「……後輩さん、どうだ?」


美鈴は静かに目を閉じ、ケルト系魔術の霊感を研ぎ澄ます。翠色の瞳が開かれると、彼女の視界には、現実の景色に重なるようにして、一人の幼い少年の霊が視えていた。


「視えました。昔の服を着た男の子です。古びたゴム鞠をつきながら、坂道を登ったり降りたりしています。誰か一緒に遊んでくれる人を探しているみたい……。でも、無自覚に撒き散らしている霊障が濃くて、これじゃあ生きている人間は耐えられません」


「ワン!」

シャドウが低く吠え、見えない鞠を追いかけるように斜面を駆け上がった。


3.結界と優しい嘘

「シャドウが対象を公園の砂場に誘導しました! 今です、先輩!」

美鈴の声が響く。


「よし!」

蓮は素早く懐から黄色い符を取り出し、砂場を取り囲むように四方へ投げ放った。

「道法無辺、急々如律令!」


符が空中でぴたりと静止し、透明な結界が展開される。男の子の霊は、突然見えない壁にぶつかり、驚いて鞠を抱え込んだ。


「怯えさせないように、少しずつ間合いを詰めるぞ」

蓮は帰真剣を引き抜き、切っ先を下げたまま、シャドウが威嚇せずに見守っているポイントへと歩み寄った。美鈴が隣に立ち、男の子に優しく語りかける。


「もう暗いから、お家に帰る時間だよ。そのボール、向こうの世界のお友達も一緒に遊びたいって待ってるよ」

美鈴のケルト魔術を帯びた声が、少年の心を落ち着かせていく。


霊感のない蓮だが、美鈴の目線とシャドウの穏やかな尻尾の揺れで、少年が安心したことが分かった。蓮は静かに帰真剣を構え、美しい歩法で踏み込んだ。


それは、霊を斬り捨てるためではなく、迷い子に開かれた「門」を示すための優しい演武だった。

「帰真――本来の姿へ還れ」


真言と共に剣が振り下ろされると、空気がふっと軽くなった。

美鈴の目には、少年が鞠を抱えたまま嬉しそうに微笑み、光の粒子となって空へと昇っていくのが見えた。同時に、住宅街を覆っていた重苦しい霊障が、山の風に乗って綺麗に消え去っていった。


4.新店の夜風と温かいスープ

「ふぅ……。終わったな。今回は相手が子供だったから、結界の調整に気を使ったよ」

蓮が帰真剣を布に包みながら、ほっと息をついた。


「ええ、先輩の剣の軌道、とても優しかったです。シャドウも上手にお兄ちゃんしてくれましたし」

美鈴がしゃがみ込み、シャドウの頭を思い切り撫で回すと、シャドウは誇らしげに鼻を鳴らした。


すっかり日が落ち、緑野香坡からは新店市街の美しい夜景が見下ろせた。


「さて、仕事も無事に終わったことだし……後輩さん、このまま坂を下って碧潭ビータンの辺りまで行かないか?」

蓮が車のキーを指で回しながら言う。


「碧潭ですか? いいですね! あの辺りは美味しいお店がいっぱいあります。今日は少し肌寒かったから、温かい羊肉湯ヤンロウタン麺線ミエンシエンが食べたいです!」

美鈴はすっかり空腹を思い出したのか、目を輝かせた。


「ははは、相変わらず食欲旺盛だな。よし、お前の奢りなら最高なんだが」

「先輩、それくらいサービスしてくださいよ!」


軽口を叩き合いながら、二人はカローラ・アルティスに乗り込む。

エンジン音が静かな住宅街に小さく響き、ヘッドライトが暗い坂道を明るく照らし出した。幽霊が日常に溶け込むこの台湾で、二人のささやかな夜の休息が始まろうとしていた。

主人公二人のモデルにさせていただいた旅行系YouTuberのまいさんとYUUさんのYouTubeチャンネル

「MaibaruTravel」

私の小説の百倍、面白いので是非見て下さい。

まいさん、YUUさん、100万人突破おめでとうございます。

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