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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第四話「交番の迷い子と消えた鍵」

台湾祓清愛哀歌:第四話「交番の迷い子と消えた鍵」

1.誠実な警察官の悩み

台北市大同区、双霊シュアンリン相談事務所の扉を叩く、聞き慣れたノックの音。

「佐藤さん、李さん、ちょっといいかな?」

入ってきたのは、近所の交番に勤務する陳巡査部長でした。制服の襟を正しながらも、その表情には困惑の色が滲んでいます。

「陳さん、どうしたんですか? また酔っ払いが霊に憑かれたって大騒ぎでも?」

佐藤蓮が八極拳の整理体操を終え、タオルを首にかけて尋ねます。

「いや、今回はもっと奇妙なんだ。数日前から、交番の『遺失物保管庫』から、夜な夜な子供の泣き声が聞こえるという通報があってね。同僚たちも気味悪がって、夜勤を嫌がる始末で……」

「遺失物……物に霊が憑いている『付喪神つくもがみ』の類でしょうか」

李美鈴がiMacのスリープを解除し、最近の万華・大同区付近の霊障発生データを照合し始めました。

「悪いが、公的な『祓清依頼』としてではなく、まずは相談に乗ってほしいんだ。二人の腕は信じているからね」

陳巡査部長は、外国人である二人にいつも偏見なく接してくれる数少ない友人です。二人は顔を見合わせ、即座に頷きました。

2.深夜の交番

夜の帳が下りた大同区の交番。

蓮と美鈴が到着すると、陳巡査部長が奥の保管庫へと案内してくれました。

「……いるわ。すごく、寂しそうな気配」

美鈴の隣で、分霊のシャドウが鼻を鳴らし、棚の一角にある小さな箱に歩み寄りました。そこには、古びた「クマのキーホルダー」が収められていました。

「これだ。一週間前、公園で拾得物として届けられたものだよ」

陳巡査部長が説明します。

美鈴が集中して霊感を研ぎ澄ますと、キーホルダーの周りに、泣きじゃくる小さな男の子の姿が浮かび上がりました。

「先輩、この子……自分がどこにいるか分からなくて、お母さんが迎えに来てくれるのをずっと待ってる。でも、このキーホルダーは『依代よりしろ』として、彼の執念を強く引き止めすぎているわ」

3.国家公認祓清技能士の証明

「さて、仕事に取り掛かるとするか」

蓮が技能士カードを首から下げ、帰真剣の鯉口を切ったその時、交番の奥から別の若い警察官が顔を出しました。

「おい陳さん、民間人を勝手に保管庫に入れるのは……」

陳巡査部長は、毅然とした態度で若い警官を制しました。

「彼らは市役所にも登録されている国家公認祓清技能士だ。この事案は法執行機関の手に負えるものではない。下がっていなさい」

その言葉に背中を押されるように、蓮は符術を展開しました。

「道法自然――四方を囲み、迷える魂を定めん」

蓮の結界がキーホルダーを包み込み、シャドウが優しく男の子の霊に寄り添います。

「お母さんは、きっと先で待ってる。君がこの場所に縛られている限り、会うことはできないんだ。……道を作ってやる。行け」

蓮の送魂の術式が発動し、柔らかい光がキーホルダーから男の子の姿を解き放ちました。男の子は最後に、陳巡査部長の制服のボタンをそっと触るような仕草を見せ、満足そうに消えていきました。

4.朝食の湯気

「……ありがとう。これで、彼もようやく家に帰れたんだな」

陳巡査部長は、重荷が取れたように深く息を吐きました。

翌朝。二人は陳巡査部長に誘われ、交番近くの朝食屋ザオチャンディェンにいました。

テーブルには、揚げたての油條ヨウティァオと、熱々の豆漿ドウジャンが並んでいます。

「佐藤さん、李さん。君たちがこの街にいてくれて、本当に助かっているよ」

陳巡査部長は、豆乳を啜りながら穏やかに笑いました。

「僕たち警察は生きてる人間を守るのが仕事だが、君たちは『死者』の尊厳を守っている。誇りに思っていい仕事だよ」

「……陳さんにそう言ってもらえると、台湾に来て良かったなって思います」

美鈴が少し照れくさそうに笑い、油條を豆乳に浸しました。

蓮もまた、八極拳で鍛えた身体に染み渡る豆乳の温かさを感じながら、この街の「日常」を守る決意を新たにするのでした。


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