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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第三十七話:「狂信の終焉、双霊の剣撃」


台湾祓清愛哀歌:第三十七話「狂信の終焉、双霊の剣撃」

1.天才の暴走

廃工場の中に、耳を劈くような高周波のノイズが響き渡った。

「大日本帝国陸軍の遺産、そして私の天才的な呪詛の力を見よ!」

張志豪ジャン・ジーハオが印を結ぶと、床に描かれた幾何学的な陣から、泥のように濁った真っ黒な呪詛の塊が出現し、無数の蛇となって蓮と美鈴に襲いかかった。幽霊のような「残留思念」ではなく、明確な殺意を持った「兵器」としての呪詛だ。

「……速い! しかも全方位からか!」

霊感が乏しい蓮の目には、呪詛の塊は空間の歪みのようにしか見えない。直感と八極拳の体捌きで辛うじて躱すものの、少しづつ切り裂かれていく。実体は無い為、外傷は無いが、鋭い痛みを感じる。

「先輩、右斜め上からです! シャドウ!」

美鈴の叫びと共に、シャドウが蓮の死角から迫る黒い蛇に噛みつき、影の力で相殺する。さらに美鈴はケルト魔術の詠唱を紡ぎ、空中に淡い緑色の光の粉を散布した。

光の粉が呪詛に付着し、不可視だった悪意の軌跡が、発光する輪郭として蓮の目にハッキリと映し出される。

「見鬼の補助結界……助かる、後輩さん! これで見える!」

蓮は帰真剣に道教の符を滑らせ、襲い来る呪詛の蛇を的確に斬り落としていった。

2.拝金主義者の誤算

「ふん、弟のオカルトごっこに付き合ってられないわ。術者を直接叩けば終わりよ!」

蓮が志豪の呪詛を捌いている隙を突き、姉の張麗華ジャン・リーファがスタンガンを手に美鈴の背後へと回り込んでいた。

霊能力を持たない麗華だが、裏社会で生きてきた身のこなしは鋭い。高圧電流の青い火花が、美鈴の首筋に迫る。

「美鈴!」

蓮が叫ぶが、志豪の呪詛に阻まれて救援が間に合わない。

だが、美鈴は振り返りもせず、口元に冷たい笑みを浮かべた。

「……祓清技能士を、ただのお祈り係だと思わないでくださいね」

美鈴が指を鳴らすと、あらかじめ足元に仕掛けていたケルトの茨の魔術が床を突き破って出現した。実体の無い幻覚の茨が麗華に絡みつき、混乱した彼女は腕を振り回し、自ら無様に転倒する。

「きゃあっ! な、何よこれ!」

すかさずシャドウが麗華の上にのしかかり、鋭い牙を見せて低い唸り声を上げた。

「ヒィッ……! 動かない、動かないから噛まないで!」

拝金主義の姉は、あっさりと無力化された。

3.破邪の一撃

「姉さん! 大丈夫か?姉さんを放せ!従わないなら、この若者たちの霊力を一気に搾り取り、巨大な呪詛の砲弾にしてやる!」

志豪は狂乱し、気を失って倒れている若者たちへ向けて術式を反転させようとした。

「させない!」

蓮は深く腰を落とし、構えをとった。

手にした帰真剣が、かつての持ち主の記憶と共鳴し、キィンと高く澄んだ音を鳴らす。

(――迷いなく、踏み込みなさい)

脳裏に響く凛とした声に背中を押されるように、蓮は爆発的な踏み込みで空間を詰めた。志豪が展開した分厚い呪詛の防壁を、道教の符力と剣の記憶を乗せた切っ先が、紙のように易々と貫いていく。

「な、馬鹿な! 私の完璧な呪詛が――」

「お前の妄想は、ここで終わりだ!」

蓮の帰真剣が、志豪の手にある呪詛の要――旧日本軍のレプリカの軍刀――を真っ二つに叩き斬った。

呪詛の供給源を絶たれた黒い泥は、断末魔のような悲鳴を上げて霧散し、廃工場に静寂が戻った。志豪はへたり込み、信じられないという顔で折れた軍刀を見つめている。

「私の……門が……偉大なる使命が……」

4.エピローグ:夜明けの豆乳

数時間後。廃工場の外にはパトカーの赤色灯が眩しく点滅していた。

通報を受けて駆けつけた陳巡査部長が、手錠をかけられた張姉弟をパトカーへと押し込んでいる。若者たちも無事に保護され、病院へと搬送されていった。

「佐藤くん、李さん。今回も本当に助かったよ。誘拐事件まで解決してくれるとはな」

「いや、俺たちはあくまで霊障を祓っただけです。後の法的な処理は、警察と市役所にお任せしますよ」

徹夜の戦闘を終え、朝日が昇る台北の街を、二人が乗ったカローラが走る。

助手席では美鈴が疲れ切ったように目を擦り、後部座席では元のサイズに戻ったシャドウが丸くなって眠っていた。

「……終わりましたね、先輩」

「ああ。呪詛のデータもすべて林担当員に引き継いだ。これで枢栄会は完全に解体されるだろう」

蓮はハンドルを握りながら、ふと口元を緩めた。

「よく頑張ったな、後輩さん。囮作戦の時は少しヒヤリとしたが」

「ふふっ、先輩が必ず助けに来てくれるって信じてましたから。だから私の名前を呼び捨てにした事は今回特別に許してあげます……あーあ、お腹すきました。帰りにいつものお店で、温かい豆乳シェントウジャン油条ヨウティヤオを買って帰りましょうよ先輩の奢りで」

「ハハハ、賛成だ。今回だけの特別だぞ。シャドウには特大の肉まんを買ってやろう」

狂気の事件は幕を閉じ、双霊相談事務所の二人は、再び温かく騒がしい台北の日常へと帰っていくのだった。

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