第一〇二話「南半球の邂逅と四人の師弟」
シルバーウイーク連続投稿のラストになります。
第一〇二話「南半球の邂逅と四人の師弟」
シアトルとスコットランドに渡ってから二日目の夜――時差の関係で、片方は澄み渡る朝、片方は黄昏の時刻だった。
「先輩、シアトルの居心地はどうですか? 美味しいサーモン食べました?」
『ああ。ウェイさんが巨大なサーモンステーキをご馳走してくれた。そっちはどうだ?』
「イザベラ先生の焼くスコーンが本当に美味しくて、お腹いっぱいです! でも……たった二日なのに、何だか不思議な感じですね。隣に先輩がいないの、久しぶりだから」
シアトルのオフィスで携帯電話を耳に当て、少し照れくさそうに微笑む佐藤蓮。その背後で、深煎りコーヒーのカップを手にニヤニヤと聞いていたマーカス・魏が、大きな体を揺らして割り込んできた。
「ヘイ、レン! 電話の相手が例の美鈴ちゃんか?」
「あ、はい……そうですけど」
「ちょっと電話を貸してみろ」
ウェイは蓮から携帯電話をひょいと取り上げると、スピーカーモードに切り替えて朗らかな大声を張り上げた。
「ハロー! 美鈴ちゃんかい? 俺はレンの師匠のマーカス・魏だ! いつもウチの不器用な弟子が世話になってるね!」
『えっ、あ、初めまして! 李美鈴です! こちらこそ、先輩にはいつも助けられていて……!』
電話の向こうで美鈴が慌てる声が聞こえたかと思うと、今度はスコットランド側で上品な女性の声が割り込んできた。
『あら、あなたが蓮さんのご経験を導いたマーカスさん? 私は美鈴の師匠のイザベラよ。……ちょっと美鈴、電話を私に貸し出しなさい』
「先生!?」
予期せぬ形で、海を越えた「師匠同士」の会話が始まってしまった。
『マーカスさん、総統府での戦いのお話を聞きましたわ。あなたの弟子である蓮さんが、うちの美鈴を命がけで護ってくださったのね。本当にお礼を言いたかったの』
「いやいや、イザベラさん! 感謝するのはこっちですよ! 美鈴ちゃんの温かい光がなかったら、レンの不器用な剣術だけじゃ絶対に打ち破れなかった。……そうだ、こんな電話越しじゃ味気ないな! 直接会って、お互いに弟子自慢とお礼の乾杯をしませんか?」
『まぁ! それは素敵な提案ね。でも、アメリカとイギリス……どこで会いましょう?』
ウェイはデスクの地球儀をグルリと回すと、南半球の一点を太い指でポンと叩いた。
「アメリカとヨーロッパの中間……いや、いっそ南半球のオーストラリアなんてどうです? シドニーに俺の懇意にしているホテルがある。時差も台湾と一時間しか変わらないし、二人にとっても戻りやすいでしょう!」
『まぁ、南半球! ちょうど今の時期は気候も穏やかで素敵ね。フライトの手配は私に任せて頂戴。美鈴、荷物をまとめなさい!』
「「ええぇぇぇーっ!?」」
蓮と美鈴の悲痛な叫びも虚しく、規格外の行動力を持つ二人の師匠によって、急遽「オーストラリア合流計画」が決行されることとなった。
二日後。オーストラリア、シドニー。 澄み渡る青空の下、世界遺産であるオペラハウスとハーバーブリッジが一望できる港沿いのオープンテラスレストラン。 潮風が心地よく吹き抜けるその特等席に、奇妙で豪快な四人と一匹が集結していた。
「ハハハ! 初めまして、イザベラさん! 実物はお噂以上にエレガントな淑女だ!」
「お上手ですこと、マーカスさん。あなたも写真で見るよりずっと頼もしいお方ね」
特大のオージービーフステーキを豪快に切り分けるマーカス・魏と、優雅に紅茶のカップを傾けるイザベラ・メイブ・シンクレア。二人は出会って数十分とは思えないほど意気投合し、術式の理論や昔の失敗談で大盛り上がりしていた。
「……なぁ、後輩さん。なんで俺たち、オーストラリアにいるんだろうな」
向かいの席で、豪快に笑い合う二人の大人を見つめながら、蓮が呆れたように小さく呟いた。
「私もわかりませんよ……。一昨日までスコットランドの静かな丘にいたのに、気がついたら飛行機に乗せられて南半球に来てました」
美鈴は苦笑いしながら、足元でオーストラリア特産のボロネーゼを(味付けなしで)美味しそうに平らげているシャドウの頭を撫でた。
「でも、先輩」
「ん?」
美鈴はトロピカルフルーツが山盛りになったパフェのスプーンを止め、満面の笑みを蓮に向けた。
「私、すっごく嬉しいです。シアトルとスコットランドで別々に離れていた時はちょっと寂しかったけど、こうして先輩にまた会えたし……お互いの大切な師匠同士が、あんなに仲良くなってくれて」
蓮は美鈴の真っ直ぐな瞳に一瞬ドギマギしながらも、照れくさそうに視線を泳がせた。
「……まあ、そうだな。ウェイさんがあんなに楽しそうに笑うのも久しぶりに見た。イザベラ先生も、お前のことを本当の娘みたいに自慢していたぞ」
「本当ですか!? うわぁ、後でイザベラ先生にたくさん抱きついちゃおう!」
その様子を、チラリと横目で見守っていた二人の師匠が、お互いに目配せをしてクスリと微笑んだ。
「素晴らしいバディだわ、マーカスさん。陰と陽、剣と光……二人の魂が綺麗に補い合っている」
「ああ、イザベラさん。互いを信頼し切っているのが目を見ればわかる。俺たちがわざわざ出向いて、変なお節介を焼く必要すらなかったな」
ウェイはビールグラスを高く掲げ、イザベラはティーカップを軽く持ち上げた。
「「東西の良き師弟と、若き『双霊』の未来に――乾杯!」」
青い海と空が広がるシドニーの港街。 南半球の温かい風に包まれながら、四人と一匹の笑顔と笑い声が、どこまでも爽やかに響き渡っていた。
以上となります。次回から通常営業とさせて頂きます。それでは皆様、良い連休のラストスパートをお過ごし下さい。失礼します。




