11.調停と衝動
視線が一斉にこちらへ向く。
空調音がひときわ大きく聞こえるほど、会議室が静まった。
注目されるという事態そのものの重さを理解する。
「ナギ・アイザワです。オリビアさんと同じく、共鳴率の高さを理由に選ばれました。
よろしくお願いします」
古川の意図どおり、必要最低限の情報だけを置く。
そのまま静かに終えるつもりだったが、つんざくような声が耳を打つ。
「アイザワって第二群体全員やっつけたんだろ!?すげーよ!
なぁ!オレと模擬戦やんない!?」
右側のモニターが一瞬だけ光量を上げ、弾む声が割り込んだ。
エマ・ハリントン。
この短いやり取りだけでも推測できる。
無邪気で、直線的で、考えるより先に動くタイプなのだろう。
古川へ視線を投げると、返ってきたのは一度の瞬きだった。
許可、という意味だ。
「機会があれば、ぜひ」
「じゃあ今から行く!」
即答。
エマという少女にはどこにもブレーキがないのか。
「エマ、静かにしなさい。今は会議中ですよ」
エマ陣営から制止する声が入ったが、本人は気にする様子もない。
「だってパイロット候補生はいっぱいいるじゃん。
エースが強くなりに行くのは良いことだろ?」
国家間の会議を、自分の練習試合の口実にねじ曲げるつもりらしい。
軍事の重さを、少なくともこの場では重く扱っていないように見える。
意外なことに、その論理の飛躍にジョンソン司令が興味を示す。
「……ふむ。確かに。
我が国としても、そちらの未知の機体――“トリックスター”だったかな。
興味はある。どうだいオリビア、行けるか?」
正面モニターでオリビアが飾られた花のように微笑む。
「はい。それに皆さんにも興味があります。
……カレンさんはいかがですか?」
話題に上がっていない陣営にも声をかける。
オリビアという少女は周囲を見渡すことが得意なのだろう。
左側のモニターが静かに揺れ、抑制された低い声が響く。
無機質な響きが皮膚の表面を冷やした。
「……二国が行くのであれば、こちらも問題ありません」
淡々とした返答。
カレンと呼ばれている少女は最初と変わらず、短く合理的に応じた。
空気がまとまりきらない中、古川が閉会の流れをつくる。
「では後ほど日程を決めよう。各国の皆様は――」
「え? 今から行くよ」
エマの声が古川の言葉を正面から斬る。
会議室の空気に、目に見えない棘が混じった気がした。
古川は俺に聞こえるか聞こえないかという小さなため息とともに、目を深く閉じた。
抗議ではない。ただ、理解と諦念の境目の反応。
「じゃあ十時間後〜!」
エマがそれだけ言い捨てると、右側のモニターのひとつが突然ブラックアウトする。
直後、エマ陣営から慌ただしい謝罪が入り、回線が切れる。
ジョンソンも肩をすくめるような気配を見せ、
「こちらも準備が整い次第、オリビア達を派遣する。よろしく」
と言い残し、回線を落とした。
カレン陣営も静かに一言だけ残す。
「よろしくお願いします」
最後のモニターが暗転した瞬間、会議室が急に広く感じられた。
冷房の風だけが、妙に肌に残った。
古川が深く息を吐く。
「……はぁ。まったく、子どもは読めないね」
その横顔に向け、俺は淡々と尋ねる。
「現時点では、俺には情報が足りません。
他三機と、我が国のトリックスターの違いを教えていただけますか」
その問いで、場の空気が再び引き締まった。
――ここからが俺の本題だ。




