1.目覚めを赦さぬ者
視界が、白い。
まぶたが開いたのだろう。
それだけで、眼球の裏が焼けるように痛んだ。
まばたきを一度。
それが、唯一、自分の意志で行えた動作だった。
呼吸はある。心拍もある。
だが、首も、腕も、脚も、動かない。
拘束されている。
全身を覆う硬質の圧迫感が、自分の形を固定していた。
喉元まで固定され、発声の自由も奪われている。
――呼吸する棺。
音は三つのみ。
心電の低い電子音、換気の気流、そして金属が冷却される微かな収縮音。
視線だけを動かして、周囲を探る。
天井は見えない。均質な光が陰影を殺していた。
それは“清潔”ではなく、“隔離”だと理解した。
ここは、生者のための部屋ではない。
蘇生と監禁の境界線。
まばたきを一度。
自分の意志が世界に介入できるのは、その瞬間だけだった。
そして、フラッシュのように――あの光景が蘇る。
焼けた金属。溶けた装甲。
黒く炭化した、人の形。
焼け焦げた剣。自分の手。
そして、ナミ。
視界が白に染まる。
音が遠のく。
何も見えない。
だが、脳内でナミの名だけが膨張していく。
【観察者】
ナミがいる。
ナミがいない。
観測不能。ナミ。ナミ。ナミ。
【演算者】
ナミ=存在。ナミ=消失。
矛盾。再計算。ナミ。ナミ。ナミ。
答え:ナミ。
【実行者】
ナミを探す。触れる。焼ける。
剣。手。ナミ。焼ける。ナミ。
俺が、俺が、俺が――ナミ。
【破壊者】
世界を壊せ。
ナミがいないなら。
ナミを取り戻す。
ナミ。ナミ。ナミ。ナミ。
【叫び】
ナミィィィィィィィィィィィィィィィィ――!!
全身を締め付ける拘束具が、金属製のベッドをわずかに軋ませた。
それでも、ナミの名が止まらない。
頭蓋の内側で、意味もなく響き続ける。
どれほど時間が経ったのか、もうわからない。
『やぁ!“TARAK-Xを撃破した”、相澤ナギ君!聞こえるかい?』
機械越しの声が、突然響いた。
無機質なスピーカーの反響音。
声の主は、作戦会議で顔を合わせたことがある、VELUCT佐久支部長――古川 幸人。
思考を戻す。
ナミ。ナミ。ナミ。
それ以外の音は、届かない。
『……うーん、聞いていないな。これ』
『――相澤ナミについて』
その瞬間、ナギの瞳孔が開いた。
世界が一斉に焦点を取り戻す。
『相澤ナミ君の現在について、知りたくないか?』
白い部屋の中で、ナギのまばたきが止まった。




