↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/69

1.目覚めを赦さぬ者


 視界が、白い。


 まぶたが開いたのだろう。

 それだけで、眼球の裏が焼けるように痛んだ。


 まばたきを一度。

 それが、唯一、自分の意志で行えた動作だった。


 呼吸はある。心拍もある。

 だが、首も、腕も、脚も、動かない。


 拘束されている。

 全身を覆う硬質の圧迫感が、自分の形を固定していた。

 喉元まで固定され、発声の自由も奪われている。


 ――呼吸する棺。


 音は三つのみ。

 心電の低い電子音、換気の気流、そして金属が冷却される微かな収縮音。


 視線だけを動かして、周囲を探る。

 天井は見えない。均質な光が陰影を殺していた。

 それは“清潔”ではなく、“隔離”だと理解した。


 ここは、生者のための部屋ではない。

 蘇生と監禁の境界線。


 まばたきを一度。

 自分の意志が世界に介入できるのは、その瞬間だけだった。




 そして、フラッシュのように――あの光景が蘇る。




 焼けた金属。溶けた装甲。

 黒く炭化した、人の形。

 焼け焦げた剣。自分の手。

 そして、ナミ。




 視界が白に染まる。

 音が遠のく。

 何も見えない。

 だが、脳内でナミの名だけが膨張していく。




【観察者】

 ナミがいる。

 ナミがいない。

 観測不能。ナミ。ナミ。ナミ。


【演算者】

 ナミ=存在。ナミ=消失。

 矛盾。再計算。ナミ。ナミ。ナミ。

 答え:ナミ。


【実行者】

 ナミを探す。触れる。焼ける。

 剣。手。ナミ。焼ける。ナミ。

 俺が、俺が、俺が――ナミ。


【破壊者】

 世界を壊せ。

 ナミがいないなら。

 ナミを取り戻す。

 ナミ。ナミ。ナミ。ナミ。


【叫び】

 ナミィィィィィィィィィィィィィィィィ――!!




 全身を締め付ける拘束具が、金属製のベッドをわずかに軋ませた。

 それでも、ナミの名が止まらない。

 頭蓋の内側で、意味もなく響き続ける。

 どれほど時間が経ったのか、もうわからない。




『やぁ!“TARAK-X(ターラクス)を撃破した”、相澤ナギ君!聞こえるかい?』


 機械越しの声が、突然響いた。

 無機質なスピーカーの反響音。

 声の主は、作戦会議で顔を合わせたことがある、VELUCT(ヴェルクト)佐久支部長――古川 幸人(ふるかわ ゆきと)。


 思考を戻す。

 ナミ。ナミ。ナミ。

 それ以外の音は、届かない。


『……うーん、聞いていないな。これ』


『――相澤ナミについて』




 その瞬間、ナギの瞳孔が開いた。

 世界が一斉に焦点を取り戻す。




『相澤ナミ君の現在について、知りたくないか?』




 白い部屋の中で、ナギのまばたきが止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。