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14.世界が凪ぐ刹那


 視界の奥。

 全てを斬り終えた俺の前に、TARAK-X(ターラクス)が立ちはだかる。

 全高、10メートルを超えるその巨体は、わずかに前傾姿勢をとり、四肢をしならせるように動かした。


 俺は直感的に悟る。




 来る。




 瞬間、TARAK-X(ターラクス)が跳躍した。


 その跳躍は、地球上の重力加速度を前提にした運動ではなかった。

 脚部の可動域も筋繊維密度も、常識の範囲を超えていた。

 着地点で、地面が爆砕した。

 俺は咄嗟に、いや、演算的に回避する。


 解析時間、わずか0.6秒。


 衝撃は、少なく見積もっても重装甲車両を潰せる規模。

 正面から受ければ骨格ごと歪むかもしれない。

 “トリックスター”の仕様を把握していない以上、受け止める判断は論外だった。


 逃げるしかない。反撃の余地すらない初撃だった。


 跳躍地点を斜めに抜けて回避し、同時にトリックスターの脚部構造を軋ませながら離脱する。

 背後で大地が跳ね上がり、亀裂が放射状に開いた。地層が剥き出しになり、砕けた破片が跳ねた音が耳を刺す。


 やはりあの衝撃をまともに喰らえば、トリックスターも俺ごと押し潰されて終わっていただろう。


「防御手段は!ないのか!」


 声が裂けた。

 怒りと焦燥、それでもまだ残る一分の冷静さが喉奥を震わせていた。


〔ワカッタ!〕


 トリックスターの声が響く。

 その直後、制御系が作動する。


 360度に光の多層膜が展開する。

 三重螺旋のシールドラインが空間を包み、衝撃波の角度をずらして散らす。

 空間そのものが、歪んだ。


 再びTARAK-X(ターラクス)が跳躍する。


 だが、今回は衝突はなかった。

 エネルギー波が幾重にも反射し、シールドの内側で激しい火花が散る。

 音ではなく、振動だけが伝わってくる。


〔スゴイデショ!〕


 はしゃいだようなトリックスターの声。


 機体ではなく、演算人格。

 トリックスターは、そう呼ぶ方が近いのかもしれない。


 その無邪気さに、俺は眉ひとつ動かさず視線を前へ向ける。

 俺の怒りは、すべてTARAK-X(ターラクス)に向けられていた。


 俺は、ここで終われない。


「トリックスター、接近せずに刺せる手段を出せ」


 低く命じた。


〔ハーイ!〕


 瞬間、剣が分裂した。


 十片の刃が、重力制御フィールドによって宙に静止し、まるで意思を持った衛星のように軌道を描く。

 それぞれが軸を持ち、静止ではなく回転する。


 次の瞬間、光が奔った。


 螺旋を描く軌道が同時収束し、光線がTARAK-X(ターラクス)を撃ち抜く。

 照射軌跡は時間すら捻じ曲げるように歪み、空間が引き裂かれたように見えた。




 静止。

 沈黙。




 微塵の振動すら、感じられない。

 空間が、ひとつの無音に閉じられた。


「――停止、か。」


 俺はゆっくりと、形状を戻した剣を構え直す。

 熱も、衝動も、いまは刃の先に収束していた。




 静止は終わりを意味しない。嵐の縁が、わずかに凪いだだけだ。

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