13.終わりの始まり
ナミ。
お前のために俺は、どこまででも堕ちていける。
怒りはもう、心の奥に沈んでいなかった。
それは血流のように全身を駆け巡り、剣に乗って世界を切り裂く動力となっていた。
ひと振り。
剣が空を裂くたび、第二群体の構造体が無音のまま機能を停止していく。
斬撃に伴う衝撃波は、空気をわずかに振動させるだけ。
なのに、内部構造が断裂する音が微かに響き、時間差で崩れる。
裂けた断面からは、黒と赤が混ざった高粘度の液体が噴き出し、足元を染め上げていく。
細胞を分解したわけでも、火で焼き払ったわけでもない。ただ、整合性の全てを否定しながら破壊する。
コックピット内の俺は返り血すら浴びない。
周囲は血の海と化し、視界の端々に赤黒い液体が飛び散っている。
それでも、トリックスターのコックピットだけは、まるで無音の胎内のようだった。
“ここ”だけが、流血という概念すら排除された閉鎖空間であるかのように。
ひと振り、またひと振り。
第二群体は、花弁のように散っていく。
その散り際には何の叫びも、悲鳴もない。ただ構造体としての生を終え、塵へと還るように崩れる。
理屈を超えている。
量子断裂? 局所重力崩壊? 空間ごとの再構築?
いずれの仮説も、この切断の瞬間には届かない。
トリックスターの剣は、「因果律」をも断ち切っているかのようだった。
だが俺はもう、思考することすら煩わしかった。
考えるより先に、斬りたかった。
異様な光景に、俺の理性は警鐘を鳴らす。
この手応えは、快楽だ。
殺戮の、絶対的な支配感覚。
科学的に説明しようとすれば、アドレナリンとドーパミンの過剰分泌による陶酔状態なのだろう。
だが、そんな分析すら今の俺には無意味だ。
ただ、斬る。
ただ、壊す。
そして――終わらせる。
目の前を塞いでいた第二群体の、最後の一体が立ちはだかる。
「残るは、一体。」
その構造体には、明確な“違和感”があった。
立ち姿に不自然な重心のブレがある。肩部がわずかに揺れ、定期的に重心を移しているように見える。
まるで……何かを“待って”いる。
だが、こちらに与えられた選択肢はひとつだ。
炎をまとった剣を突き刺す。
その動作に意味があるのなら、それごと否定してやる。
最後の一体を、剣の一突きで断つ。
フレームごと破断された構造体は、震えるように振動しながら崩壊した。
その瞬間、胸の奥に微かな痛みが走った。説明のつかない違和感。
だが、それが何なのか、俺にはわからない。




