またも暗殺者と嫌がらせ
ゼルバイン南部の港に、夜の潮風が吹き抜けていた。
支店開店から二週間、まるふく商店は順調に荷を捌き、炊き出しも港の労働者に受け入れられつつあった。
だが、街の裏側では別の空気が漂っていた。
カルステン商会の裏倉庫。
薄暗い灯の中、長机を囲む三人の男が座っている。
「……あの田舎商人、力でねじ伏せられんとはな。」
番頭が唇を歪める。
「正面からは無理です。ですから――静かに消していただきたい。」
黒い頭巾の男がうなずき、机の上に短剣を置いた。刃には黒光りする液が塗られている。
「三日以内にケリをつける。遺体は海の底だ。」
---
三日後の夜。
ショウイチは支店裏口で荷受けの最終確認を終え、ふぅと息を吐いた。
「今夜は潮が高いな……」
その瞬間、背後で水音。
振り向くと、港の影から三人の黒装束が滑るように現れた。
月明かりに光る刃。距離は十歩もない。
「動くな。」
先頭の刺客が低く言う。
ショウイチは鼻で笑った。
「動くな? ……動くのはお前らの骨だ。」
一人目が飛び込む。短剣の刃先がショウイチの脇腹を狙うが、ショウイチは半歩引いて肘を相手の顔面に叩き込む。骨が砕ける鈍い音、刺客は崩れ落ちる。
二人目は背後から縄を回そうとしたが、ショウイチは肩を落として体重を預け、そのまま背負い投げ。石畳に叩きつけられた衝撃で息が止まる。
最後の一人が距離を取って構える。
「……化け物め。」
ショウイチはゆっくり歩み寄る。
「商売の邪魔をする奴は、全部潰す。港のルールだ。」
刺客は短剣を投げた。刃は頬をかすめるが、次の瞬間にはショウイチの拳が相手の顎を砕き、男は意識を失って倒れた。
---
港の静寂が戻る。
ショウイチは三人を縄で縛り、荷車の横に放り出した。
「港の衛兵に渡せば、誰が雇い主かすぐに割れるだろう。」
翌朝、港の広場で捕らえられた刺客たちが晒されると、街はざわついた。
「カルステンが……刺客を?」
噂は一気に広がり、カルステン商会は信用を失い始める。
その日の夕方、港の食堂で炊き出しをしていたショウイチのもとに、地元の労働者たちが次々と寄ってきた。
「兄貴、あんたがいてくれてよかった。」
「もうカルステンの奴らに頭下げる必要ねぇな。」
ショウイチは笑って鍋をかき混ぜる。
「腹減ってんなら食え。文句言う奴は……ぶっ飛ばす。」
湯気と笑い声が港に広がる。
その裏で、カルステン商会の屋敷では、番頭が頭を抱えていた。
「……次はもっと確実な手を打たねば。」
ゼルバイン支店は順調に動いていたが、突然、税務官が帳簿を持ってやって来た。
「価格設定が適正かどうか、詳しい資料を提出してください。」
その口ぶりは明らかに嫌がらせで、カルステン商会の圧力が背後にあるのは明白だった。
ショウイチは冷ややかに舌打ちした。
「またかよ…」
そこへ現れたのは、ルードヴィヒ伯爵の甥、ルードヴィヒ・ファン・ヴァルデンだ。
彼は商工会の有力者で、地域の商人たちから厚い信頼を受けていた。
ルードヴィヒは帳簿に目を通しながら、静かに役人たちに告げた。
「まるふく商店の価格は公正であり、地域経済にも好影響を与えている。過剰な調査は控えるべきだ。」
彼の発言は官僚の動きを封じ、税務官たちは渋々調査を終えた。
ショウイチは感謝の念を込めて言った。
「助かった。お前がいなければ潰されていた。」
ルードヴィヒは微笑み、
「甥として、そして地域のために力を貸すのは当然だ。カルステン商会に好き放題させてはいけない。」
以降、カルステン商会は官僚を利用した嫌がらせをやめ、まるふく商店は安定した経営を続けていった。
ルードヴィヒの支援はショウイチの最大の後ろ盾となったのだった。




