ゼルバインでの商談成立
翌朝。
ゼルバイン南部の町にまだ朝霧が立ち込める中、まるふく商店の荷馬車が広場に入った。
今日は炊き出しではない。昨日声をかけてきた若い商人たちとの顔合わせ――正式な取引の話だ。
ショウイチは長机に腰を掛け、煙草をふかしていた。
向かいには、昨日より少し小綺麗な格好になった若者たち。
後ろにはリナとカイルが控えている。
「で、何が欲しい?」
ショウイチの短い問いに、商人頭らしき青年が答える。
「塩、油、干し肉。それと、布だ。戦争で全部足りなくなってる。」
「ふん……まあ塩と油は出せる。干し肉は少し時間かかる。布は質が落ちてもいいか?」
「構わねえ! 今はとにかく数だ。」
ショウイチは頷き、背後のカイルに指示する。
「おい、値段は王都の卸値に上乗せ二割で。運賃別。前金半分。」
カイルは即座に書類に記す。
青年たちは顔をしかめたが、ショウイチは容赦しない。
「嫌なら他を当たれ。だが、俺たちの物は全部安全に届く。盗賊も腐った在庫も無しだ。」
沈黙の後、青年は渋々手を差し出した。
握手と共に、ゼルバインとの初めての商取引が成立する。
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だがその場の空気を切り裂くように、甲冑の音が近づいた。
ゼルバイン駐屯兵の隊長らしき男が、部下を引き連れ現れる。
「貴様ら! 何の許可で商売している!」
兵士たちが剣の柄に手をかける。
ショウイチは立ち上がり、ゆっくりとその隊長に歩み寄った。
「許可? お前らの王は戦に負けた。勝った国の商人が物を売るのは当然だろ。」
「ふざけるな! 俺たちは――」
言い切る前に、ショウイチの拳が隊長の顎を撃ち抜いた。
甲冑が鈍く鳴り、隊長は後ろに吹き飛ぶ。
「殴られたくらいで引くなら最初から絡むな。命が惜しいなら帰れ。」
兵士たちは武器を抜く気力を失い、隊長を担いで退散した。
残された広場には、呆然とする商人たちと、煙草を吸い直すショウイチ。
「こういう邪魔は必ず出る。だが商売は続ける。それが戦後だ。」
リナは横でため息をつきながらも、机の上の契約書を整えた。
カイルは黙々と護衛の配置を確認する。
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その日の夕刻、最初の商隊がゼルバイン南部を出発する。
荷馬車には塩と油がぎっしり積まれ、少年隊が武装して護衛についた。
道中、瓦礫と焦土を抜けながら、ゼルバインの子供たちが物珍しそうに隊列を見送る。
この商隊の成功が、後に「南部再建の第一歩」と呼ばれることになる。
だがその影で、ゼルバイン貴族の一部は不満を募らせていた。
「敗戦国を食い物にする強欲な商人」という噂が、ゆっくりと形を取り始めていた――。




