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ゼルバイン王国での炊き出し

ゼルバイン王国南部、戦で荒れ果てた町。

瓦礫の残る広場に、まるふく商店の炊き出し隊が大鍋を並べた。

香ばしい肉と野菜の匂いが風に乗り、空腹の民の鼻をくすぐる。

しかし、近くにいたゼルバイン兵の残党や町民たちは、眉間に皺を寄せたまま近づこうとしない。


「敵の食い物なんざ、喰えるか!」


ひとりの若い男が怒鳴った。すると数人が同調し、広場の空気が一気にざわつく。

罵声、石、足元の土を蹴りつける音――火花はすぐそこにあった。


少年隊が動こうとした、その瞬間。

ショウイチが無言で前へ出た。

腰の刀は抜かず、だが目は鋭く光っている。


「文句ある奴は、並ぶな。邪魔するならぶっ飛ばす。それだけだ。」


男たちは一瞬たじろぐ。しかし、ひとりが虚勢を張り胸ぐらを掴もうとした。

その腕をショウイチががっちり掴み、腰を落とす――瞬間、男は地面に叩きつけられ、土煙を上げた。

残りの数人も「おおっ!」と威勢を上げたが、一歩踏み込んだショウイチの気迫に飲まれ、後ずさった。


「腹が減ってないなら帰れ。減ってるなら黙って食え。それが答えだ。」


静寂が広場を覆う。

やがて、小さな影が列の端に立った。ゼルバインの子供だ。

その後ろには痩せこけた老人。

匂いに誘われ、少しずつ列が伸びていく。


リナは鍋の前で笑顔を絶やさず、子供にスープをよそいながら片言のゼルバイン語で話しかけている。

「おいしいよ」「元気出るよ」――その声に、警戒していた町民の表情が和らいでいった。


ショウイチは無愛想に器を手渡しながらも、目だけは列の動きを追う。

ときおり「スープ少なめで」と遠慮する者には「食えるだけ食え」とよそって渡す。

その横でカイル率いる少年隊は警戒態勢を崩さず、炊き出し場の周囲を巡回していた。


昼過ぎ、ふと数人の若者が列の外から声をかけてきた。

「お前ら、これ売ってくれねぇか?」

聞けば、町の外れで市場を再開しようとしている商人見習いだという。

ショウイチは鼻で笑ったが、耳は逃さない。

「食い物じゃなく、仕入れの話なら後でしろ。こっちは慈善事業中だ。」


カイルがその場を引き継ぎ、詳細を記録する。

のちにそれが、ゼルバインとの交易路再建のきっかけになることを、このとき誰も知らなかった。


日が傾き、炊き出しの鍋が底を見せる頃。

広場には、笑顔や安堵の息が少しだけ戻っていた。

ショウイチは空になった大鍋を見下ろし、煙草を一本くわえる。


「……戦争は勝って終わりじゃねぇ。こうやって売り場を作るところまでが仕事だ。」


そう呟いた声は、湯気と共に冬の空へと消えていった。

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