戦後と戦果と失くしたもの
戦は終わった。だが、勝利の影には深い悲しみが残っていた。
戦場からの凱旋後、グランツ領の中央広場には喪服に身を包んだ人々が集まっていた。
その中央、黒布をかけられた棺が静かに横たわっている。
カール・フォン・グランツ。リナの父であり、侯爵の腹心の一人だった男だ。
鐘の音が重く響くたび、領民の中には涙をぬぐう者も多かった。
カールは領民からの信頼も厚く、戦時中は最前線で兵を守り続けた。
だが、その忠義は彼自身の命と引き換えとなった。
棺の前に立つリナは、泣き腫らした瞳で父の顔を見つめていた。
ショウイチは何も言わず、その横に立っていた。
彼にできるのは、リナが倒れぬよう肩を支えることだけだった。
葬儀は粛々と進み、侯爵は喪主として参列者に頭を下げた。
しかし、その背筋は決して折れることなく、むしろ鋼のような威厳を放っていた。
「カールは最後まで我が右腕であり続けた。彼の名と功績は、領地の歴史に刻まれるだろう」
低く通る声が、広場全体に響き渡った。
埋葬が終わった後も、重い空気は続いた。
戦争は終わったとはいえ、兵の損耗や領地の疲弊は深刻だった。
そして、戦後処理という現実的な課題が山積みになっていた。
数日後、王都から使者が到着した。
王自らの名で発せられた感状と、戦功に対する恩賞が届けられたのだ。
恩賞は金貨五百枚、さらに隣国からの賠償金の一部として穀物と鉄鉱石の輸入割当が与えられる。
しかし、侯爵はそれをそのまま懐に入れることはしなかった。
彼は軍務会議を開き、戦死者の遺族、負傷兵への補償、そして戦後の復興資金として金貨を振り分けた。
「我らの勝利は、領民の血と汗の上に成り立っている。
その犠牲を忘れれば、次に失うのは領地そのものだ」
侯爵の言葉に、会議室の空気は引き締まった。
ショウイチも同席していたが、内心では複雑な思いを抱えていた。
自分は商人として稼ぎ、護衛として戦場を往復したが、本物の戦場で命を賭けた者たちの犠牲は計り知れない。
「…こりゃ、隠居なんてまだまだ先だな」ぼそりと呟き、リナに横目で睨まれた。
領地は徐々に戦後の再建へと動き出す。
だが、その道は決して平坦ではなかった。
賠償金を巡る貴族同士の駆け引き、王都の官僚の干渉、そして戦争で生まれた孤児たちの問題——。
グランツ侯爵の戦いは、剣を置いた後も続いていた。




