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教育と天才

それから約一ヶ月後――

グランツ侯爵は執務室に領内各村の代表を集め、大きな地図を広げた。


「各地に訓練所を開く。対象は十五歳以下の少年だ」

侯爵の声は低く、しかし熱を帯びていた。

「理由は二つ。第一は、来月行う“少年の部”大会に向けての練習の場を与えること。第二は……治安維持と将来の戦力強化だ」


領内は広く、村と村は馬でも数時間の距離。

それぞれの拠点に簡易道場を設置し、週に数回は騎士団員や武官が巡回して指導する仕組みが考案された。

村の古い倉庫や空き小屋が改修され、木剣や練習用のサンドバッグが並べられていく。


ショウイチも指導役として各地を回ることになった。

「俺は格闘と基礎体力担当な」

侯爵は笑いながらも、ショウイチに“実戦感覚”を持つ教育を求めた。


少年たちは初めて触る木剣に目を輝かせ、素手のスパーリングでは最初は怖がっていたが、次第に声を張り上げて打ち合うようになった。

訓練場はいつも笑いと汗で満ちていたが、同時に、子供たちの姿勢や表情が日ごとに引き締まっていくのを、ショウイチははっきり感じ取っていた。


やがて、各地の訓練所同士での交流試合も始まり、少年たちの間で「誰が一番強いか」の噂が領内を駆け巡る。

それは単なる遊びではなく、未来の騎士団を形作る小さな火種となっていった。



訓練所を巡回していたある日、ショウイチはひときわ小柄な少年を見つけた。

年は十二、背丈は同年代より低いが、目は猛禽のように鋭く、立ち姿には無駄な揺れが一切なかった。


「お前、名前は?」

「カイルです」

声は静かだが、芯が通っている。


試しに木剣を手渡し、簡単な構えを指示すると、カイルは一度見ただけで正しい姿勢を取った。

しかも、次の瞬間にはショウイチが繰り出した軽い突きを半歩でかわし、反撃の突きを正確に胸元へ打ち込んできた。


「……マジかよ」

周囲の少年たちも、指導役の騎士たちも、思わず息を呑む。


その日から、カイルの成長は異常なほど速かった。

一度見た技は正確に再現し、翌日には応用を加えて返してくる。

ローキックの防ぎ方を教えれば、その場で完璧に吸収し、次の週には自分なりのカウンターを編み出していた。

ムエタイの膝、柔術の崩し、剣術の間合い取り――どれもが吸い込まれるように彼の中へ入っていく。


「この歳でこの反応速度……しかも考えて動いてやがる」

ショウイチは内心で舌を巻いた。

まるで乾いた大地に水を流し込むように、カイルは知識も技術も次々と吸収し、日ごとに強くなっていく。


やがて、訓練所内では「カイルに勝てるやつはいない」という噂が広まり、彼は少年たちの憧れと恐怖の両方を集める存在となった。


ショウイチはその姿を見ながら、次の大会で彼がどんな試合を見せるのか、密かに胸を高鳴らせていた。


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