グランツ侯爵のかき氷作り
夏の陽射しが照りつける中、まるふく商店はまたひとつ大きな波を迎えていた。
まるふく商店で作られた氷は、冷蔵庫のないこの世界ではまさに貴重品。
その氷は肉屋や魚屋へ順調に卸され、食材の鮮度を保つために重宝されていた。
店頭では昼間からかき氷が飛ぶように売れ、路面のテーブルには涼を求める人々の列が絶えなかった。
ショウイチとリナが考案したレモンシロップが評判を呼び、甘酸っぱい風味が夏の熱気をやわらげていた。
そんなある日、グランツ侯爵が突然まるふく商店を訪れた。
「かき氷というものを試してみたくなったのだ」
侯爵は厨房に入り込み、レモンの皮を丁寧に刻み、砂糖水の中でじっくり煮詰めていく。
「なるほど、単なる甘さだけでなく、苦みと酸味のバランスが肝要というわけか」
侯爵の真剣な表情に従業員も驚いたが、彼の挑戦はすぐに周囲の興味を引いた。
「私にも一杯お願いしよう」
こうして侯爵自ら仕込んだレモンシロップで作られたかき氷は、いつも以上の評判となった。
侯爵の名もあってか、客足はさらに伸び、まるふく商店の夏は大いに賑わったのだった。
グランツ侯爵がかき氷作りに挑戦した理由は、実は家臣の息子の誕生日にサプライズをして喜ばせたかったからだった。
侯爵は「子供に喜んでもらうには何がいいか」と考え、かき氷なら暑い夏にぴったりだと目を輝かせた。
「よし、これは良い計画だ」と言う侯爵の言葉に、ショウイチも協力を申し出た。
「相手は子供だ。甘くてフルーティーなシロップが必要だな」
ショウイチはすぐに考え、イチゴとブルーベリーを使った新しいシロップ作りを始めた。
侯爵は黙々とメモを取り、煮詰める温度や時間、果実の割合まで細かく記録していた。
その真剣さは、彼が武闘派だけでなく細やかな気遣いも持つ領主であることを示していた。
当日は侯爵は厨房で黙々と作業を続けていた。イチゴとブルーベリーのシロップは、じっくりと煮詰められ、甘く濃厚な香りが店内に漂う。ショウイチも手伝いながら、「もうすぐ仕上がるぞ」と声をかける。
「よし、かき氷の準備を始めよう」
侯爵は満面の笑みでかき氷機を操作し始めた。シャリシャリと氷が削られていく音が響き、店内に来ていた家臣の家族たちは興味津々にその様子を見つめている。
「さあ、みんな。特別なかき氷ができるぞ」
侯爵はシロップをたっぷりとかき氷にかけ、丁寧に器に盛りつける。
そして、そのかき氷を家臣の息子に手渡しながら、にこやかに話しかけた。
「誕生日おめでとう。暑い夏の日にぴったりのご馳走だ」
家臣の息子は一瞬言葉を失い、周囲の大人たちもその振る舞いに驚きを隠せなかった。侯爵が自ら配膳する姿は普段の威厳ある姿とはまるで違い、温かみと優しさに溢れていた。
子どもたちは笑顔でかき氷を頬張り、その甘さと冷たさに歓声をあげる。侯爵はその様子を誇らしげに見守りながら、心から喜んでいる様子だった。
「これで、また領民の信頼を得られたな」
ショウイチも感心しながらそう呟いた。
この日、まるふく商店はいつも以上に活気づき、侯爵の心遣いは領民たちの間で語り草となった




