3度目の正直
ある日の昼下がり。
まるふく商店の前で、聞き覚えのあるしわがれ声が響いた。
「ショウイチッ!出てこい!」
振り向くと、そこに立っていたのは、かつての子爵家長男――ギルバート。
だが、もう以前の豪華な服も馬車も無い。
擦り切れたボロ布のような服、裸足に近い靴、そしてやつれた顔。
しかし手には、なぜか立派な真剣だけが握られていた。
「お前は格闘だから強いんだろう!」
「剣なら、俺は負けない!」
場の空気がざわつく。
近くの領民も、俺の部下も、呆れたようにため息をついていた。
俺は一瞬だけ考えて、店の奥から木剣を持ってきた。
「……じゃあ、これで相手してやるよ」
決闘の場はすぐに作られた。
観衆が輪を作り、俺とギルバートが向かい合う。
合図と同時に、ギルバートが叫び声を上げて突進してきた。
振り下ろされる真剣――だが動きは鈍く、隙だらけだ。
俺は半歩ずれて木剣で彼の手首を叩き、剣先を逸らす。
「ぐっ……!」
続けざまに腕、太もも、脛を容赦なく叩き込む。
肉が潰れる鈍い音と共に、ギルバートは膝をつく。
それでも彼は歯を食いしばり、真剣を離さない。
「参ったと言え」
「……言わん!」
俺はさらに膝を打ち、肩を打ち、最後に手首を砕いた。
観衆が息を呑む中、ギルバートはまだ負けを認めない。
面倒になった俺は、一歩踏み込んで木剣で面を打った。
「ガンッ」という乾いた音と共に、ギルバートはその場で崩れ落ち、動かなくなった。
静寂。
やがて観衆の中から、小さな笑い声が漏れ、それが波紋のように広がった。
俺は木剣を地面に置き、倒れたギルバートを一瞥する。
これでもう、二度と立ち向かってくることはないだろう。
脚も腕も、完全に砕けていた。
その日、ギルバートは担架に乗せられ、静かに人混みの中へと運ばれていった。
そして――彼の名前が領内で語られることは、もうほとんど無くなった。




