表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/82

『炊き出しが運んだ商機』



辺境から戻って二日後。

まるふく商店の前に、見慣れぬ荷馬車が停まっていた。

荷台には干し肉や穀物が山積みだ。


店に入ってきたのは、あの炊き出しで会った村の年長者だった。

「ショウイチ殿、あのカレー……あれをまた食べさせてくれんか? 村の皆が忘れられんと言っておってな」


後ろからバルドが笑う。

「ほらな。あんだけ喜ばれりゃ、そりゃまた食いたくなる」


だがリナが首を傾げた。

「でも、あの辺境は領都からかなり遠いですよ? 何日もかけて作りに行くのは効率が……」


ショウイチは少し考え、口角を上げた。

「なら、“持って行けるカレー”を作ればいい。保存がきいて、水と煮込むだけで完成するやつだ」


リナの目が輝いた。

「それ、領都だけじゃなく他領でも売れますよ! しかも、被災地や旅人向けの新しい商品として!」


早速、店の奥で試作が始まった。

スパイスを粉末にし、肉と野菜を干して袋詰めにする。

これにショウイチが名前をつけた──《グランツ領特製 備蓄カレー》。


一週間後、まるふく商店の軒先には、紋章入りの木箱に詰められた新商品が並んだ。

炊き出しの時の噂が追い風となり、初日から飛ぶように売れた。


「……なるほど、こうやって商売は広がっていくのか」

リナは包みを数えながら、嬉しそうに笑った。

ショウイチは胸の奥で静かに思う。

──この商機を生んだのは、あの時鍋を囲んで笑った人々の顔だ、と。



新商品の《グランツ領特製 備蓄カレー》は、発売から三日で在庫が半分消えた。

しかも買っていくのは旅商人や行商が多く、彼らの行き先は領外だ。


「……これは早めに侯爵様に相談しないとまずいな」

ショウイチはそう呟き、リナと共にグランツ侯爵邸を訪れた。


執務室に通され、侯爵が書類から顔を上げる。

「ほう、また妙な顔をしておるな。何かあったか」


ショウイチは簡潔に状況を説明した。

「例のカレーが、領外にまで広まる可能性があります。輸出として正式に動かしたいのですが、許可と税の取り決めをお願いしたく」


侯爵は眉をひそめた。

「食べ物の輸出は簡単ではないぞ。品質管理、価格競争、そして他領の商会との利権争い……」


横でリナが口を開く。

「でも、備蓄用としての需要は確実です。非常時の食糧として領の名を広められますし、利益の一部を領の復興基金に回せば、反対は減るはずです」


その言葉に、侯爵の目が細くなった。

「……やはりお前は只者ではないな。よかろう、正式に輸出として認める。税率は一割、領名と紋章の使用を許可する代わりに、粗悪品が出回らぬよう責任を持て」


ショウイチは即座に頭を下げた。

「感謝します。必ず品質は守ります」


こうして、《グランツ領特製 備蓄カレー》は、領外への輸出が正式に許可された。

まずは隣領のバルハルト領への出荷が決まり、馬車五台分の契約が成立する。


その夜、まるふく商店の倉庫では、護衛たちが汗をかきながら箱詰めをしていた。

リナは帳簿を片手に、出荷リストを素早く書き上げる。

「……これで、まるふく商店は領を飛び出すんですね」


ショウイチは少し笑って答えた。

「そうだ。だが領を離れても、看板には“グランツ”の名を刻み続ける」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ