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『火災被害と炊き出し』



ある日、まるふく商店にグランツ侯爵家の使者が駆け込んできた。

煤で顔を真っ黒にした若い兵士が、息を切らせて告げる。


「辺境の村で大火事が……! 家々が焼け、多くの民が行き場を失っています!」


ショウイチは即座にリナを呼び寄せた。

「……リナ、行くぞ。炊き出しだ」


リナも迷いはなかった。

「もちろんです。何を作ります?」


「こんな時は、腹にたまって、温かくて、子どもでも食べられるやつだ……インスタントカレーだな」


二人は元護衛の二人――力自慢のバルドと器用な手先を持つミルダ――も呼び出し、食材や鍋、大鍋用のかまどを積み込み、荷馬車で現場へ向かった。


被災地に着くと、焦げた木の匂いと灰煙がまだ漂っていた。泣きじゃくる子ども、呆然と立ち尽くす大人たち。その姿を見た瞬間、ショウイチは無言で鍋の準備を始めた。


「バルド、薪を割れ! ミルダ、水汲みだ! リナ、米とルーを頼む!」


手際よく火が起こされ、米が炊き上がり、香り高いカレーが煮えていく。スパイスと肉の匂いがあたりに広がり、冷え切った人々の目が徐々に輝きを取り戻す。


「はい、熱いから気をつけてね」

「おかわりもあるから、遠慮しなくていいぞ!」


笑顔と共に振る舞われたカレーは、あっという間に行列を作った。

空腹だけでなく、心まで温まったように、人々は何度も頭を下げていた。


リナはそんな光景を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……ショウイチさん、この店をやっていて、本当に良かったですね」


ショウイチは、少しだけ照れくさそうに笑った。



カレーの大鍋は、三度もおかわりの列を作った。

子どもたちは口の周りを黄色く染めながら夢中で食べ、大人たちは何度も「助かった」「ありがとう」と頭を下げた。


バルドは鍋をかき回しながら、ぼそっと呟く。

「……お前の料理、すげぇな。あの目の死んでた連中が、今じゃ笑ってやがる」


ミルダも笑って頷く。

「味もそうだけど、温かい物を一緒に食べるのが効いてるのよ。腹と心は繋がってるから」


日が暮れる頃には、村に残っていた食料を少しだけ分け、今後の炊き出しのやり方も村の年長者に伝えた。

リナは最後まで子どもたちの相手をして、別れ際には何人もが泣きながら抱きついてきた。


帰りの荷馬車の上、リナは疲れた顔でありながらも満足そうだった。

「……こういうの、もっと続けたいです」


ショウイチは腕を組み、星空を見上げる。

「俺たちの店が潰れなけりゃ、な。だからまずは稼ぐことが先だ」


リナは少し笑って、素直に頷いた。


──数日後、グランツ侯爵から呼び出しがあった。

炊き出しの話は既に辺境から領都へと届いていたらしい。


「お前たち……よくやった」

普段は厳格な侯爵が、珍しく柔らかい声を出した。

「この借りは必ず返す。領民を救ってくれたこと、感謝する」


リナは深々と礼をし、ショウイチは肩をすくめた。

「ただの飯炊きですよ。けど、次があればまた行きます」


侯爵は笑みを浮かべたまま頷いた。

その笑顔は、この先も強い後ろ盾になると確信させるものだった。


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