『秋の繁盛と子爵家の乱』
秋風が街に冷たく吹き始めた頃、まるふく商店は昼夜で二極化した営業スタイルを確立していた。
昼は価格を抑え、地元の庶民が気軽に足を運べる食堂として繁盛。
夜は一変、照明を落としキャンドルを灯し、特別なコース料理やサーモンムニエルなどのスペシャルメニューを提供。
「まるふくで夜に食事をすることが一種のステータスになっている」
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しかしそんな繁栄の中、ある日、店の扉が乱暴に開かれた。
入ってきたのは子爵家の一行。
特に長男のギルバートは横柄で、順番などお構いなしに店内をかき乱す。
「俺の料理を一番に出せ!」と怒鳴り、他の客にも絡み始めた。
「いい加減にしろ!」と注意したショウイチに対し、ギルバートは嘲笑を浮かべた。
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その時、ショウイチの中の何かが切れた。
手に掴んだポットの熱湯をギルバートに浴びせ、そのまま拳を叩き込む。
ギルバートは悲鳴を上げて倒れ込み、騒ぎは瞬く間に店内に広がった。
熱湯を浴びせられ、殴り倒された子爵長男ギルバートは呻き声をあげながら倒れ込んだ。
店内は騒然となり、数人の衛兵が急ぎ駆けつけた。
「両者、詰所まで同行してください」
と衛兵が厳しい声で告げ、ギルバートとショウイチの両方を拘束し、木製の手枷をかけて連行を始めた。
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詰所はいつもより薄暗く冷たく感じられた。
ショウイチは手枷の重さと、事態の深刻さに冷静さを保とうと努めた。
そこへ、重厚な馬車の音が響き、門が勢いよく開かれる。
「ショウイチ殿、私が来た」
侯爵家の長老にして権力者、グランツ侯爵が颯爽と現れたのだ。
馬車から降り立った侯爵は堂々たる風格で衛兵たちを制し、詰所の主に向けて命じる。
「この男を拘束し続ける理由は何だ?」
衛兵たちは恐縮しながら、事情を説明する。
侯爵は静かに頷き、ショウイチの手枷を解かせると、深々と頭を下げた。
「貴殿の腕は我が家の誇りだ。今後も我がために腕を振るってほしい」
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詰所を後にしたショウイチは、侯爵の馬車に乗せられ、まるふく商店へと戻るのだった。
詰所での一件が収まり、まるふく商店に戻ったショウイチはすぐさま侯爵家へ招かれた。
急遽、礼を兼ねて和食のフルコースを振る舞うことになったのだ。
「賭けだが、一か八か、俺の味を信じるしかない」
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厨房では慌ただしく準備が進む。
出汁巻き卵の黄金色の層がふわりと膨らみ、繊細な出汁の香りが漂う。
続いて、異世界で獲れた新鮮な鯛を使った天麩羅。
軽やかな衣が魚の旨味を閉じ込め、油の香ばしさと相まって食欲をそそる。
刺身は冷えた皿に美しく盛り付けられ、透明感のある身が光を反射する。
次に、しゃぶしゃぶ。
薄切りの鴨肉が熱湯にくぐらせられ、程よく火が通ると、特製ポン酢でさっぱりといただく。
メインは十割そばを使った鴨せいろ。
香り高い鴨の出汁と、のど越しの良いそばが絶妙な調和を見せる。
最後にインスタントゼリーのデザートをさっと出し、和の締めくくりとした。
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晩餐会場に運ばれた料理は、グランツ侯爵をはじめ侯爵家の使用人たちにも大好評だった。
「これは……見事な腕前だ」
侯爵は感嘆の声を上げ、笑顔を見せる。
使用人たちも舌鼓を打ち、料理の話題で賑わった。
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この成功により、ショウイチの名声は侯爵家のみならず、街全体に更に広まっていった。




