六
その場では疑われることなく、堂山さんは自殺と断定していましたね。
私はとにかくその時点では使命を全うしたのです。娘を死に至らしめた極悪人共は全員葬ることができました。
……後悔があるとすればもっと残酷なやり方で、惨殺してやりたかった。
でも貴方達、他の人をもう巻き込むことはできないと思いました。特に娘の前では。
だから妥協して殺すことだけに集中したのです。まあ、それがあったから完遂できたとも言えるかもしれませんね。
佐古下さんの行動には多少驚かされました。私は娘の下で命を散らそうと考えていましたから。最期の時まで邪魔をされたくなかったんです。
だから佐古下さんが秘密の部屋に来たときには本当に驚きました。仕方なく強引に縛り付けて河野忠人の死体と共に隠していたというわけです。
そしたら何という偶然か、私の館に火が回り始めました。南雲君が放火したと言っていましたね。それで私は悟った訳です。この火は罪を滅する火。
黒煙を携えた臙脂色の火は私の罪を焼き尽くすのに相応しいと、そう思いました。
ですから私はこのままここに残り、業火に身を焼かれるそのときまで、天国の娘に祈り続けます。
霜村さん。最期に貴方に全てをお伝えできて良かった。告解できて良かったです。
――貴方のそれは告解ではなく、懺悔です――
え?
ああ、手厳しいですね。はい。都合良く罪が償えると思うのは甘い考えですね。
分かりました。
ええ、行って下さい。
それと、私のことはどうかお忘れ下さい。
◆
藤森陽凪は夜道を歩いていた。月明かりはなく薄暗い雲が星ごと覆い隠していた。夜にしては気温も高く、昼頃まで小雨が降っていたこともあり、非常にジメっとした天気であった。彼(彼女)は固唾を呑んでいた。呼吸も最低限である。
右手には時折街灯で照らされて鈍く光るナイフが握られていた。ナイフを握っていると心が落ち着く。精神が洗練され、瞳孔が押し開かれる。瞬きは必要ない。
藤森は草原の木陰に潜む大型の猫科の動物のように、姿勢を低くし、対象を見つめていた。
藤森の姿は今、第三者である神にしか認知されていない。
対象となっている人物もそのことは露知らず帰路に着こうとしていた。
研ぎ澄まされた感覚が、近くで鳴き始めた虫の鳴き声に拡散させられる。
藤森はそこで久しぶりの瞬きをした。
その時対象の者が振り返った。
焦った訳では無いが、藤森は瞬時に事を為すことに全力を注いだ。
銀色の三日月が一瞬の閃きを見せた。
◆
霜村はファミリーレストランで佐古下と食事を摂ると、再び車を夜の街に滑らせた。
もちろん佐古下を彼女の自宅のあるマンションまで送る為である。
佐古下は齋藤の独白を聞くと何やら押し黙って考えているようだ。霜村はあえて触れない。人の脳は思考しているとき、そしてそれをアウトプットするとき、最大限成長するのである。彼はそれを知っているからこそ佐古下が口を開かない限りは黙っているつもりである。




