一
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六月二十一日。
あれから数日経過していた。
あれは夢だったかのように現実は動いていた。
不在の期間があったにも関わらず、咎められることもなく、それを意識されることもなく、まるで最初からそうであったかのように現実は時間を刻んでいた。
霜村が数日間、行方不明になっていた事実は誰も知らなかった。
依田原にしても、そもそも佐古下が行方不明になった事実すら認識していなかった。
現実ではあの狭間の世界が関わった行方不明、そして事件に関しては無かったことになっていた。
神がそこだけ切り取ったようだった。
霜村は変わらず教鞭を執っていた。認識されていなくても、授業はその分回っていなかったようだから、これから数週間かけて、授業の内容を変更し、詰めていく必要があった。
そのせいで数日仕事が立て込んで、霜村としては今までほとんどない残業に苛まれていた。
放課後、まだ日は高く陽光を降り注ぐ。地学準備室で直接日が当たる部分だけカーテンを締め、ラップトップに指を下ろしていた。
ようやく今日で授業の日程を再調整できそうだった。霜村は半日以上も禁煙していた。彼の中ではもう集中力とかいう次元での作業ではなかったのだ。
だが多少の苛立ちもあったのは事実である。故に自覚もしていた。それでも作業を続けていたのは終わったあとの解放感を求めているのだろうか。別に授業の再調整など、ほとんど生徒に影響は出ないから、そこまできっちり詰める必要はない。それでも作業を続けていたのは、今は、ただ何かに意思も体も没頭させたかったのかもしれない。
扉がノックされる。霜村は視線を向けた。
「霜村先生。坪井です。お客様がお見えになっています」
坪井は扉を開けずにそこまで告げた。
客が来たということは来賓用の玄関で待っているということである。であれば扉を開けるのは霜村の役目だった。何しろ廊下に出なければ来賓用の玄関へ向かえないからだ。
霜村はコンマ数秒逡巡し、ラップトップを閉じた。
立ち上がり、扉を開けた。
まだ若い社会人になり二ヶ月の女性、坪井が立っていた。手には何故か花柄の弓袋が抱えられていた。彼女は弓道部の顧問である。
「分かった。行きます」
「お若い女性でした」
坪井は上目遣いで霜村を見て、歩き出した彼と歩調を合わせた。特別棟から一般棟へ向かい、一階の渡り廊下を渡らないと体育館そして弓道場へは向かえないからだ。霜村が向かう来賓用の玄関は職員玄関の隣であるからやはり一般棟の一階である。
「そう」
霜村は簡単に返事をした。
坪井はまだチラチラと霜村の横顔を覗いている。
霜村に若い女性の来賓があることに興味がある。そんな様子は簡単に見て取れた。だからこそ端的にしか返事をしないのだ。
関係性も霜村と坪井では希薄と言わざるを得ない。ただ職場が一緒で、席が隣というだけだ。だからこそ坪井も問いかけない。あの方はどなたですか?と。
霜村も名前こそ告げられていないが、尋ねる若い女性、というのは一人しかいない。




