十三
「……私が製薬会社勤めだから?」
「それはそうです」
「ですが確固たる証拠はなかったでしょう?可能性が高いという推論に過ぎ無い」
もう自らの罪は暴かれている。にも関わらず霜村と問答を続ける齋藤はどこか楽しんでいるようにも見えた。
それに付き合う霜村も共通した思いがあったかもしれない。
「そうです。だから僕は染島さんが亡くなる前の夜、皆が食堂に集まり食事を始める頃に空いたままの貴方の室内を物色しました」
「え?……あはははは!……ああ、そうですか。随分大胆なことをなさるんですね!」
齋藤は腰を折って笑ってみせた。本当に可笑しかったようである。
「出てきたのはこれです」
そう言って霜村は無表情のままPTP包装シート、藥袋を胸ポケットから取り出した。
「あとは蛍光塗料を吹き付けるスプレーと小型のブラックライトがありました。貴方は塩原さん以外の食事に的確に薬を盛るために、以前から蒼野さんが配膳する順番に着目し、蛍光塗料で僅かに印を付けて確認を行ってきた。あの白熱電球の灯りの中ではブラックライトを点けても恐らくほとんど目立たなかったでしょう。貴方はそれを塩原さんの食器に向け、蒼野さんが配膳する順番は食器棚に収納された順番を忠実に守っていることを知った。そして全員のスマホ、つまり日時を確認するツールが沈黙したのを見計らって塩原さん以外にベゲタミンを盛り、丸一日時間を移動してもらう大胆な行為に及んだ。このことに気が付かなければ、貴方と塩原さんにはアリバイがあるから他の人の犯行と言わざるを得ませんでしたが、逆にこの手法が発覚したことでアリバイは崩れました。薬を盛られていない塩原さんと貴方にしか犯行は無理だった訳です。そして薬を使った形跡は貴方の鞄にあった。貴方が河野さん殺害の犯人です。一応貴方の足の裏、恐らく蛍光塗料の一部が付着したままになっているはずです。秘密の部屋の入り口にだけそれが付いていました。照合すれば貴方の靴と断定できると思いますよ」
「素晴らしい。そうです。あの人は私が殺しました。……では染島さんの場合は?彼女の場合は密室でした。貴方は自殺だと断定していましたね?」
「そうですね。しかも現場には立ち入りができない。もう現場検証をすることも不可能です。ですが、あのとき既に僕は少なくとも河野殺害が貴方だと断定できていましたから、染島さんについても関わっている可能性は十分あると思いました」
「でも密室」
「いえ、あそこは完全な密室ではありませんでしたよ」
霜村はこともなげに煙草を指で弾いて放り投げた。
「ここにも秘密の部屋や通路が?」
齋藤は口角を上げている。
「いえ、単純です。堂山さんが扉を破壊して押し開けたとき、貴方は何をしました?」
「……染島さんの部屋に入り、鍵を解錠して窓を開けました」
「違います。貴方は部屋に先に入ると鍵を解錠した振りをして、ただ窓を開けただけです」




