十二
霜村は淡々と語る。
「貴方は全員が眠る中、塩原さんにアリバイ工作を無意識に手伝ってもらい、そして眠る河野さんをあちらの制御室に運んだ。脱力した彼を背負ってそこまで運ぶのも重労働だったでしょう。ですが、地下道を通るよりはよっぽど現実的です。貴方はそこまで彼を運ぶと、地下道から回り込み、秘密の部屋のあれは棚ですかね?あそこが扉になっている。奥に押し込むんですか?そこはちょっと検証する前なので不確かですが、まあつまり貴方はあそこを開けて、本当の秘密の部屋へと侵入した」
「あそこは仰る通り、棚を奥に押し込むことで壁に棚が収まって、その下に階段が現れる仕組みになっています。ですが何故それが分かったのですか?」
「あそこの空間が何かおかしいのは初めから気がついていました。そもそもあの館の階ごとの高さは五メートルほどあります。ですがあそこの空間はせいぜい三メートル弱、下にはまだ空間があることになります。丁度制御室の裏側ですね。秘密の空間にも一階と二階があったわけです。僕は民俗学を学ぶ過程で、建築様式や図解にもある程度精通しています。その流れで空間把握にも多少強くて、頭の中で組み上がるこの館の平面図と立面図に大きなズレがあった訳です。秘密の部屋一階は秘密の部屋二階からのみ入れて、且つ出口は制御室の取っ手のない配電盤の蓋のようなところでしかありません。火の手が回れば貴方があそこから出てくるのはかなりの確率であり得るだろうと思いましたよ」
「だから制御室の前で待ち伏せをしていたんですね」
「そうですね。貴方を秘密の部屋から追い出すのに堂山さんにも一役買ってもらいましたから」
「ああ、彼はだから来たんですね。彼が答えを知らなくとも貴方としては十分だった」
「そういうことですね。時間がなかったので、失礼なことをしました」
霜村は苦笑し、そして煙草を口元に運んだ。
「制御室まで運ばれた河野さんを置いて、貴方だけ今度は地下道を回り秘密の部屋から制御室との扉を開けた。一度開いてしまえば、何かで固定すれば扉は開放されたままになりますね。貴方はその間に河野さんを抱えて秘密の部屋一階、次いで秘密の部屋二階に階段をなんとか登って運び込むと、致死量に達した薬物を投与した」
「先程から何故薬物だと断定しているのです?また、それを何故私がやったということになるのでしょうか?」
霜村は齋藤を睨んだ。
「河野さんが薬物で死んだことは初見で間違いないと思いました。そして現場は自殺か他殺かを置いて人の手が加わっていることも分かりました。河野さんが自殺だとした場合、河野さんの死体が消える道理がない。他殺だとした場合、薬物を投与できる一番可能性が高い人物は誰だろうか?また、先程申し上げたように塩原さん以外にベゲタミンなどの市場に出回らない薬物を入手できる機会がある人物は誰だろうか?僕は一応その時点で貴方が一番可能性が高いと思いました」




