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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
臙脂色の紫陽花
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十一

そこで霜村は煙草の灰を指で弾いた。灰は舞い、地面に落ちていく。

「では犯人は何故わざわざ河野さんの死体を隠し通さず、他の人に見せたのでしょうか?」

霜村はゆっくりとした動作で歩き始めた。止まったままの齋藤の周囲を回るように。

「いや、他の人という抽象的なものではなかった。貴方は染島さんにその光景を見せる必要があった。染島さんにその状況を見せることで精神的に追い詰めようとしましたね?」

霜村は煙草の先を齋藤に向けた。

「……貴方が殺害したという根拠はいくつかあります」

話題に変化を加えた。

「河野さんが死亡したという日時、アリバイがある人間がいました。貴方と塩原さんです」

「そうですね。私と塩原さんには河野殺害は不可能だったはずでは?」

「当初はそう思われましたね。でも違いました。河野さん殺害は貴方でしか不可能なんです。……貴方は八日の夜にまず()()()()()()()()()()()()()()()()()。……今でこそ禁止薬物に指定されています。ベゲタミン辺りであれば強力に作用します。……貴方は蒼野さんが配膳するとき、きっちり食器棚に並んだ皿が違わず同じ人に配膳されていることに気が付いた。念の為印を付けてね。そう、蛍光塗料をその皿にのみ塗布したのです。恐らく塩原さんの皿にのみ。塩原さんは齋藤さんと関係値が離れており、アリバイを立証するのに効果的と考えた。まさか初めは僕もどうかと思いました。あれは薬物による中毒症状のようなものが出ていたんですね。九日いや、実際は十日の朝気分は最悪でした。他の人の顔もむくんでいたり、青ざめていたり散々な面持ちでしたね。……気が付けたのは蒼野さんの腕時計のおかげでした。この世界では正常に時を刻むスマホが役に立たない。あの頃全員のスマホはバッテリーが切れていました。それを確認した貴方は大胆にも一日分全員眠らせて日付を誤認させるトリックを敢行した。でもね、蒼野さんの腕時計は正常に時間を刻んでいたんですよ。彼女はこう言いました。壊れた、というとまた語弊があるけど、この日付って零時を跨ぐと自動で数字が次の日付に切り替わるようになっているの。それが今朝起きたら十になっていて。スマホの充電がないから、ここに来てから腕時計のこれで今が何日か把握するようにしていたんだけど、確か前日が八日だったはずなのに。と。おかしいと思ったんです。腕時計の日付がズレる可能性があるのは月にたった一回だけなんです。故障ではありません。もちろん電池切れでもありません。その月に一回日付がズレるのは必ず月末月初のタイミングでしかあり得ないんですよ。三十日と三十一日、月によって二十八日もありますね。アナログの腕時計には月の設定まで細かくできず、とにかく三十一日を基準として日付が変わるごとに文字盤の一部がめくれる仕様になっているんです。なので腕時計の日付がズレるのは今月はあり得ないんですよ。五月は三十一日まであるのでそのまま六月一日を迎えられますから。次にズレるのは七月一日なんです」

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