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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
臙脂色の紫陽花
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堂山は廊下を走った。

齋藤と塩原、蒼野は先に館から出ている。既に二階片側の廊下は人が入れる状況になかった。

黒煙が轟々と押し寄せる。死が具現化し館内を這いずり回っていた。

死の元は染島の居室だった。南雲が火を放ったのである。

恋人と共に逝く、ということか。

死は独りだ。

どれだけ愛する者と過ごしていても最期は独りである。それを理解するには南雲には経験が足りなかったのかもしれない。

堂山は走り、霜村の居室、次いで佐古下の居室をそれぞれ叩いて呼びかけた。

「火が回ってる!放火だ!南雲が火を放ちやがった!」

息が上がっていた。煙草のせいか、はたまた歳のせいか。いや、煙のせいだ。

肩で大きく呼吸をして、気が付いてバルコニーのガラス戸を開け放った。少しでも有害な煙を外に出さなければならない。

そうした時霜村が居室から飛び出した。

堂山は振り向き、霜村を睨んだ。

「随分ゆっくりしてるな先生は」

「南雲君が?」

「そうだ。間違いない。……空いた穴から南雲の最期の声が聞こえた」

「佐古下君は?」

「今呼んだ。隣にいないのか?」

堂山は視線を佐古下の居室の扉へ向けた。そこへ霜村が身体を向ける。

「佐古下君!」

「どうした?いないのか?」

霜村は堂山の呼びかけを無視して、扉を拳で何度も叩く。そして直ぐに扉のノブを回して中へと押し入った。

堂山も続いて中へと入る。

霜村の背中越しに内部へと視線を走らせた。灯りが点く。一瞬の眩さから暗めの橙色へと変化し、居室内を照らす。

そこには佐古下の姿はなかった。

「お嬢さんは何処へ?」

「堂山さん」

霜村はいつの間にか振り返っていた。

「何だ?」

「お願いがあります。()()()を止めなければならない。あの地下道へと向かって下さい」

そう言うと返事を待たず霜村は駆け出して行った。

「お、おい!どういうことだ!」

堂山も後を追う。いや、一瞬の迷いも命取りだ。今は、霜村の言うことを優先することに努めなければならない。

刑事の本懐がそう告げていた。

何だか経験がある。

あの小娘もこんな感じだったな。

いや、少し違う。あの小娘はあのお嬢さんと似ている。

あれもこれも、自らが招いた訳では無いと自覚している。

それでももうこれ以上、ここで死人を出すわけにはいかなかった。

堂山は上がる息もそのままに歯を食いしばり駆けていく。

煙草、辞めようか。

実行もしないくせに、そう思った。



「……」

彼(彼女)は無言のまま闇を見据えていた。

闇は安定している。淀みなどない。曇り無き一切の黒である。自らの精神が投影されているような色だった。

もう、思い残すことはない。仕事は成した。

目的は成就されたのだ。

あとは、そうだな。このまま死ぬのも一興かもしれない。

なんて思い独り苦笑する。

ふと下の方から物音が響いた。

彼(彼女)は空いたままの穴を見下ろした。姿はない。

だが、音がした。

「……んだっつうんだ……!」

堂山の声である。厄介な。これで終わりだと言うのに。

彼(彼女)は舌打ちをした。

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