六
蒼野のその行動をきっかけに、塩原もほとんど同じ行動をとった。
備蓄倉庫から適当な食料品を抱えられるだけ抱えてその場を後にした。
残った四人は誰も発言することはなかった。
霜村も煙草を灰皿に押し付けて葬ると、コーヒーを呷ってから立ち上がった。
「先生?」
佐古下は不安になり上目遣いに霜村を見た。
「僕は篭る気はないよ」
霜村はちょっとだけ笑ってみせた。
齋藤や堂山も次々と席を立った。
「もうここで時間を合わせて飯を摂るのはやめだ。こんな状況じゃどうしようもない」
堂山はため息混じりに肩を上げた。
彼らはコーヒーカップを片付ける気はないようだった。そのまま食堂を後にしていった。備蓄倉庫から食料品を取って行かなかったから、篭る気はないかもしれない。
「先生お部屋に行きますか?」
「そのつもりだよ」
「あとでお伺いしてもよろしいですか?」
「うん。どうぞ」
「ありがとうございます。お昼すぎにお伺いしますね」
二人は残された四人分のカップを律儀に片付けてから、部屋へと戻っていった。
◆
霜村は部屋へと入ると念の為鍵を閉めてからベッドまで向かい、煙草の箱をサイドテーブルに放り投げた。そのまま仰向けにベッドに倒れた。色々考えたいことがあった。
霜村の脳内には現在様々なフォルダが展開されており、それぞれがファイルを立ち上げていた。
ファイルの中身を整理したり、上書きしたり、スクリプトを調整して自動処理を施す。
その処理はほぼ同時に行われていた。目まぐるしく電子信号が行き交う。
一方では答を弾き出す為に、一から組み立てた数式を展開していく。しかし結果はVALUEとなる。
数式の一部にエラーが生じているということである。
もしくはこの考えでは求めている答は出ないのであろうか。
河野の自殺偽造。
その死体消失。
染島と結城は同じ学校の同級生。
染島の死。
佐古下から聞いた調査結果。
それらを基に考えを巡らせる。
気が付くと霜村の手は思考から切り離されており、いつの間にかサイドテーブルの煙草を探していた。それを認識したとき、手と脳の回路が繋がった。手は霜村へと帰属したのだ。
霜村は考える。手は己である。足もそうだ。そうやって思考している脳も己だろう。では死んだ場合、己は何処へ行くのだろうか。
死んだあともこの綺麗な世界を覗き続けられるのだろうか?もしくは白黒?霜村はこの世界の色が好きだった。公言したことはない。色が好き、というのは不思議なことである。酸素が好き、と言っていることの本質は同一である。
霜村はこの色彩が齎す効果の意味を理解している。宗教や地方の儀式でも色というのは非常に重要な要素である。
白の反対は何色かお分かりになるだろうか。
黒。
否。
黒ではない。
白は潔白、何もない。死を表す白に対し、出生の赤。否。
紅。紅こそが白、死の反対である。
死は白い。
生は紅い。
人の血は紅い。そう、人の中を流れているときは、である。
一度己から離れると、それはどす黒い暗黒を纏い、徐々に黒く、闇を携えるようになる。




